傷病手当金とは何か:病気やけがで働けなくなったときの所得補償を理解する

本記事は2026年6月25日時点の公開情報に基づきます。金額・要件・申請方法は変更されることがあるため、申請前に必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。

誰のための記事か

健康保険(協会けんぽまたは加入している健康保険組合)に加入している会社員や公務員の方で、病気やけがで仕事を休まざるを得なくなったときに使える制度を知りたい方に向けた記事です。

申請は本人が直接、加入している健康保険(協会けんぽ等)に行います。社労士など専門家に頼む必要はありませんが、医師と会社の協力が必要な書類があります。この記事では制度の仕組みと申請の実務を一通り解説します。なお、本記事は制度の情報提供を目的としたものであり、個別の申請代行や申請書類の作成代行は行っていません。

この制度は何か

傷病手当金は、健康保険の給付のひとつです。よく「雇用保険から出る」と誤解される方がいますが、雇用保険は「仕事を失った人」が対象であり、傷病手当金は「仕事はあるが病気やけがで休んでいる人」が対象です。所管も異なり、傷病手当金は健康保険法に定められた法定給付です。

業務外の病気やけがで働けなくなり、かつ給与が出ない状態が一定期間続いた場合に、給与の代わりに給付を受ける仕組みです。いわゆる「休職中の所得補償」に当たります。自営業者やフリーランスが加入する国民健康保険には、原則として傷病手当金の制度がないため、この制度を利用できるのは健康保険の被保険者(本人)に限られます。

いくら受け取れるか(概要)

1日あたりの支給額は、給与から決まる「標準報酬月額」の直近12か月平均を30で割った額(標準報酬日額)の3分の2です。月給に相当する標準報酬月額が30万円の方であれば、おおよそ1日あたり6,667円、1か月(30日)休んだとして約20万円が目安になります(実際は待機3日があるため初月はこれより少なくなります)。

受け取れる期間は最長で「通算1年6か月分」です。ただし計算の細かな方法や、支給が始まるまでの仕組みについては、実際に申請するうえで押さえる必要があります。

【無料サンプル】会社員の典型ケースで「自分はいくら・いつから・いくら受け取れるか」を1件だけ最後まで計算します

制度の説明だけでは、いざ自分の番になったときに数字が動かないことがほとんどです。そこで、もっとも相談の多い「会社員が業務外の病気で1か月休んだ」という典型的な場面を、計算過程をひとつも省かずに最後まで解いてみます。読み終えたとき、ご自身の給与明細に置き換えてそのまま試算できる状態を目指しています。

設定は次のとおりです。会社員のAさん、健康保険は協会けんぽに加入しています。月給はおよそ30万円で、ここ1年は給与の変動がほとんどなく、標準報酬月額はずっと30万円の等級に当てはまっているものとします。被保険者期間(健康保険に加入している期間)は3年あり、12か月を超えています。体調を崩して医師から自宅療養を指示され、有給休暇は使わずに最初から欠勤として、ある月の月曜日から1か月(暦の30日間)連続で会社を休んだ、という想定です。

まず1日あたりの支給額を求めます。計算式は「支給開始日以前の直近12か月の各月の標準報酬月額の平均額 ÷ 30日 × 3分の2」です。協会けんぽの公式の手順では、はじめに「平均額 ÷ 30日」で標準報酬日額を出し、この時点で10円未満を四捨五入します。次にその額に3分の2を掛け、ここで1円未満を四捨五入します(2段階で端数処理する点に注意してください)。Aさんは直近12か月の標準報酬月額がすべて30万円ですから、平均額も30万円です。これを30で割ると1万円(10円未満の端数はありません)。この1万円に3分の2を掛けると、1日あたりの支給額は6,667円です(10,000円 × 2 ÷ 3 = 6,666.66…円を1円未満四捨五入して6,667円)。

次に「いつから」支給されるかを確認します。傷病手当金には、休み始めてから連続する3日間の「待機期間」があり、この3日間は支給の対象になりません。支給が始まるのは4日目からです。Aさんは月曜日から休み始めていますので、月曜・火曜・水曜の3日間が待機期間となり、木曜日(4日目)から支給の対象になります。待機の3日間には土日や祝日、有給休暇を取った日も含めて数えますが、Aさんの場合は平日3日で待機が完成しています。

ここで支給対象になる日数を数えます。30日間連続で休んだうち、最初の3日間(月・火・水)は待機期間で対象外ですので、支給の対象になるのは残りの27日間です。

最後に金額を計算します。1日あたり6,667円 × 27日 = 18万9円、つまりおよそ18万円が、この1か月分の傷病手当金の目安になります。月給30万円のうち、休んだ期間について給与が出ないかわりに、その6割強がカバーされる、というイメージです。なお、もし会社から休職中も給与の一部(たとえば見舞金や一部補填)が支払われている場合は、その1日あたり相当額を6,667円から差し引いた差額だけが支給されます。Aさんは給与がまったく出ない前提ですので、差し引きはありません。

ここまでをまとめると、Aさんは「1日あたり6,667円」「木曜日(休み始めから4日目)から」「初月は27日分でおよそ18万円」を受け取れる見込み、という結論になります。

ご自身に当てはめるときは、まず給与明細や勤務先からの通知で「標準報酬月額」を確認し、それを30で割って3分の2を掛ければ1日あたりの額が出ます。あとは「最初の連続3日を引いた残りの休業日数」を掛けるだけです。標準報酬月額の調べ方や、12か月に満たない場合の特別な計算、退職をはさむ場合の扱いなど、条件が変わると計算も変わります。ほかのケース・申請の実務・チェックリスト・FAQはこの続きで解説します。

ここから先は、申請に直結する実務です。

対象者の判定軸

傷病手当金を受け取れるのは、健康保険の被保険者本人です。「被保険者本人」とは、会社員・公務員として健康保険に加入している当事者のことで、扶養家族(被扶養者)は含みません。

自営業者・フリーランス・無職の方が加入する国民健康保険(国保)には、原則として傷病手当金の制度がありません(一部の自治体が独自の傷病手当金を設けているケースがありますが、法定給付ではなく規模も小さいため、社会保険の傷病手当金とは別物です)。「健康保険証の保険者欄が協会けんぽや○○健康保険組合になっているか」を確認してください。

支給には次の4つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. 業務外の病気やけがで療養中であること(業務中の事故や通勤中の事故は労働災害保険の対象となるため、傷病手当金は支給されません)
  2. 仕事に就くことができない状態であること(医師が「労務不能」と判断した状態を指します。判断は仕事の内容も踏まえて行われます)
  3. 連続する3日間の待機期間を経過していること(詳細は後述します)
  4. 休業した期間について給与の支払いがないこと(一部でも給与が出ている場合は傷病手当金との差額のみ支給されます)

支給額の計算方法

1日あたりの支給額は次の式で求めます。

支給開始日以前の直近12か月の各月の標準報酬月額の平均額 ÷ 30日 × 3分の2

協会けんぽの公式の計算手順では、端数処理を2段階で行います。まず「平均額 ÷ 30日」で標準報酬日額を求め、この段階で10円未満を四捨五入します。次にその額に3分の2を掛け、ここで1円未満を四捨五入して1日あたりの支給額とします。1回の計算でまとめて割り掛けすると数円ずれることがあるため、この順番で計算してください。

「標準報酬月額」とは、給与・残業代・通勤手当なども含めた総支給額をもとに、健康保険法上の等級に当てはめた金額です。毎年4〜6月の給与をもとに9月から翌年8月まで適用される額が標準的です。自分の標準報酬月額は、会社の担当者(総務・人事)に確認するか、年金事務所への問い合わせ、またはねんきんネット等で確認できます。

被保険者期間が12か月に満たない場合は、支給開始日時点での標準報酬月額の平均額と、全被保険者の平均標準報酬月額(支給開始日が2025年4月1日以降の方は32万円、2025年3月31日以前の方は30万円)のいずれか低い額を使って計算します。

具体的な計算例を示します。支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均が36万円の方の場合、まず36万円 ÷ 30日 = 1万2,000円(10円未満の端数なし)、これに3分の2を掛けて1日あたりの支給額は8,000円です。30日間休業した場合は24万円が支給される計算になります。

なお、休業中に給与の一部が支払われている場合(休職中の一部給与補填など)は、傷病手当金の日額から給与の1日あたり相当額を差し引いた差額のみが支給されます。

支給開始日と待機3日の仕組み

傷病手当金は、仕事を休み始めた日から即座に支給されるわけではありません。最初の3日間は「待機期間」として支給対象外になります。

待機期間の数え方には注意が必要です。連続して3日間の休業があれば待機が完成します。この3日間には、有給休暇を使った日、土日・祝日などの公休日も含まれます。そのため、たとえば木曜日に仕事を休み、金曜も休み、そのまま土日を挟んだ場合、土日も待機期間にカウントされ、月曜日(4日目)から傷病手当金の支給対象になります。

一方、待機3日間は「連続」が条件です。1日休んで出勤し、また1日休んだという断続的な欠勤では待機が完成せず、支給開始が遅れます。

支給期間の「通算1年6か月」の正しい理解

傷病手当金は同一の傷病について、支給を開始した日から通算して1年6か月を上限に支給されます。

2022年1月1日から「通算」の考え方が変わりました。改正前は「支給開始日から数えて1年6か月が経過したら終了」という暦日ベースの計算でした。そのため、途中で回復して出勤し、また同じ病気で悪化して休んだ場合、出勤していた期間も経過日数に含まれ、受け取れる給付日数が減るという問題がありました。

改正後は「実際に傷病手当金が支給された日数の合計が通算して1年6か月に達するまで」という通算ベースになりました。途中で出勤した期間は1年6か月のカウントに含まれないため、同じ病気での休職と復職を繰り返しながら治療を続けている方にとって、実質的に受け取れる給付が手厚くなりました。なお協会けんぽの公式案内では支給期間は「通算1年6か月」と月数で示されており、「540日」のような日数換算は便宜的な目安にすぎない点にご留意ください。

この改正は2020年7月2日以降に支給が開始された傷病手当金から適用されています。

ただし1年6か月という上限そのものは変わっていません。長期療養が必要な場合は、傷病手当金の期間が終わったあとに何を使えるかを、早めに確認しておくことをお勧めします(後述の「他制度との関係」もご参照ください)。

退職後の継続受給の要件

退職後も傷病手当金を受け続けることができる場合があります。ただし要件が厳格なため、注意が必要です。

継続給付を受けるには次の2つの要件をすべて満たす必要があります。

まず、退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があることです。この「1年以上」は同じ会社・同じ健保への加入が1年以上続いている必要はなく、転職などで保険者が変わっていても継続して加入していれば通算されます。ただし、国民健康保険に加入していた期間や、退職後の任意継続被保険者期間は算入されません。

次に、退職日時点で傷病手当金の受給条件を満たしていること、つまり「すでに傷病手当金を受給している、または受給できる状態にある」ことです。ここで重要なのは退職日当日の扱いです。退職日に出勤してしまうと「労務不能の状態」が途切れたと判断され、継続給付の条件を満たさなくなります。退職日に有給を取得するか、または休業したままにしておく必要があります。

継続給付を受けている間は、就労可能になった時点で以後の支給は停止されます。また、1年6か月の通算上限はそのまま適用されます。

障害年金・労災保険との関係

傷病手当金は、他の給付と重なった場合に調整が行われます。

障害年金との調整について説明します。同じ傷病を原因として傷病手当金と障害厚生年金を受け取る場合、健康保険法の規定により傷病手当金の支給額が調整されます。具体的には、傷病手当金の1日あたりの金額が障害厚生年金の1日あたりの換算額を上回る場合には、その差額が傷病手当金として支給されます。障害厚生年金のほうが高い場合は傷病手当金は支給されません。なお、傷病とは別の原因で受給している障害厚生年金との間では調整は発生しません。また、調整の対象となるのは現実に支給されている障害厚生年金に限られます(支給停止中の障害厚生年金は調整対象外です)。

障害基礎年金との調整については、健康保険法上の調整規定の適用範囲や具体的な取扱いが個々の状況により異なる場合があります。詳細は加入している健康保険の窓口または年金事務所に確認することをお勧めします。

労災保険との関係については、業務中または通勤中の事故は最初から労災保険の対象であり、傷病手当金は支給されません。病気が業務に起因するかどうかで窓口と給付が異なりますので、労災の該当可能性がある場合は会社や労働基準監督署に相談してください。

誰がいつどこに申請するか

申請者は本人(被保険者)です。加入している健康保険(協会けんぽまたは勤務先の健康保険組合)に申請します。勤務先の総務・人事を通じて提出する会社もあれば、本人が直接郵送や電子申請できる健保もあります。協会けんぽの場合、本人が直接各都道府県支部に郵送または電子申請することができます。

申請のタイミングは、1か月単位での申請が一般的です。休業が長期にわたる場合は1か月ごとに申請を繰り返します。給与の締め日ごとに申請することをお勧めする健保が多いです。

申請書類には時効があります。傷病手当金を受け取る権利は、労務不能であった日ごとにその翌日から2年で時効になります。過去の分をまとめて申請する場合は2年以内かどうかを確認してください。

申請の流れと事前準備

申請書(健康保険傷病手当金支給申請書)は4枚1組で構成されています。本人記入欄、事業主(会社)記入欄、療養担当者(医師)記入欄があり、3者が揃って初めて提出できる仕組みです。

申請書は協会けんぽのウェブサイトからダウンロードできます(入力用PDFと手書き用PDFの両方があります)。健康保険組合に加入している場合は、組合の書式を使います。

準備の流れは次のとおりです。

  1. 主治医に「療養担当者記入欄」(労務不能と認めた期間・傷病名・症状の所見)を記入してもらう。初診の際や定期的な診察のタイミングで依頼します。
  2. 会社(事業主)に「事業主記入欄」(休業期間・給与支払いの有無等)を記入してもらう。
  3. 本人記入欄(氏名・住所・振込先口座・休業した期間など)を記入する。
  4. 3者の書類を揃えて提出する(郵送または電子申請)。

協会けんぽの場合、受付から10営業日以内に指定口座に振り込まれます。審査結果は書面または電子で通知されます。

事前に確認しておくと申請がスムーズになるのは、自分の標準報酬月額です。会社の給与明細や、毎年秋頃に届く「健康保険・厚生年金保険 被保険者標準報酬決定通知書」(または加入健保からの通知)で確認できます。

よくある誤解・つまずき

精神疾患(うつ病・適応障害・パニック症など)は対象外だと思っている方がいますが、これは誤解です。精神疾患も身体疾患と同等に傷病手当金の対象になります。医師が「労務不能」と判断できることが条件であり、傷病の種類による除外はありません。

有給休暇を消化してからでないと申請できないと思っている方もいますが、これも誤解です。有給休暇を取得している期間は給与が支払われるため傷病手当金は支給されませんが、有給が終わった後に引き続き休業を続ければ、その日から支給の対象になります。逆に言えば、最初から有給を使わずに欠勤扱いにすれば、待機3日が完成した後から支給されます。どちらを選ぶかは本人の判断ですが、有給を先に使う場合は、有給消化中も待機3日のカウントが進むため、切り替え後すぐに支給される点は共通です。

自営業者・フリーランスは対象外です。国民健康保険に加入している方には、原則として傷病手当金がありません。家族の扶養に入っている方(被扶養者)も同様です。

退職後に初めて申請しようとしても、在職中に受給していなければ継続給付の対象にはなりません。退職してから「傷病手当金を申請したい」と気づいた場合、在職中にすでに受給要件を満たして受給していたかどうかが鍵になります。

申請書に不備があると審査が止まります。医師の記載もれや会社記入欄の空白は多いです。提出前に3者分の欄がすべて埋まっているかを確認することをお勧めします。

他制度との関係

高額療養費制度(本シリーズ03)と傷病手当金は同時に使えます。高額療養費は医療費の自己負担を月単位で抑える制度であり、傷病手当金は休業中の収入を補う制度です。目的が異なるため、双方の要件を満たせばどちらも受け取ることができます。長期入院や外来治療が続く場合は、高額療養費制度も忘れずに申請しましょう。

育児休業給付金(本シリーズ04)との同時受給は原則できません。育児休業中は「育児のために休んでいる」状態であり、傷病手当金の「病気やけがで働けない」という要件と同時には成立しにくいです。育児休業中に病気になった場合は、どちらの制度を使うかについて健保や会社に相談してください。

傷病手当金の支給期間(1年6か月)が終了したあとも労務不能が続く場合は、障害年金の申請を検討する段階にあることが多いです。障害年金の「障害認定日」は、その傷病で初めて医師の診療を受けた日(初診日)から1年6か月を経過した日とされており、傷病手当金の支給開始日とは起点が異なる点に注意してください(初診日と休職・支給開始のタイミングがずれるためです)。病気が長引いていると感じる場合は、早めに年金事務所やかかりつけ医に相談することをお勧めします。

【現時点の支給額計算方法・支給期間(2026年6月25日確認)】

上記は2026年6月25日時点で協会けんぽの公式情報を確認した内容です。標準報酬月額の上限は法令改正や告示によって変更されることがあります。申請前に必ず最新の公式情報をご確認ください。

申請チェックリスト

提出前に手元で確認しておくと、差し戻しや支給の遅れを防ぎやすくなります。書類は本人・会社・医師の3者が記入する仕組みのため、自分だけで完結しない点に注意してください。

準備物として確認したいものは次のとおりです。

  1. 健康保険傷病手当金支給申請書(協会けんぽの場合はウェブサイトからダウンロードできます。健康保険組合に加入している場合は、その組合所定の書式を使います)
  2. 本人記入欄に必要な情報(氏名・住所・振込先口座・休業した期間・申請する期間など)
  3. 事業主(会社)記入欄の記載(休業期間と、その期間に給与の支払いがあったかどうか。総務・人事に依頼します)
  4. 療養担当者(医師)記入欄の記載(傷病名・労務不能と認めた期間・症状の所見。診察のタイミングで主治医に依頼します)
  5. 振込先口座のわかるもの(口座番号の記入誤りが差し戻しの一因になりやすいため、通帳やキャッシュカードで確認します)
  6. 自分の標準報酬月額がわかる資料(給与明細、または「健康保険・厚生年金保険 被保険者標準報酬決定通知書」など。金額の確認に使います)

期限について押さえておきたい点は次のとおりです。傷病手当金を受け取る権利は、労務不能であった日ごとに、その翌日から2年で時効になると案内されています。過去の分をまとめて申請する場合は、2年を過ぎていないかを必ず確認してください。なお、月をまたいで長期に休む場合は、1か月単位で区切って申請するのが一般的です。給与の締め日ごとに申請するよう案内している健保も多いようです。

窓口は、加入している健康保険です。協会けんぽの場合は、本人が直接、各都道府県支部に郵送または電子申請できるとされています。健康保険組合に加入している場合は、勤務先の総務・人事を経由して提出する運用になっていることがありますので、まず社内の担当部署に確認すると進めやすいです。

提出前に特に確認したい注意点を挙げます。3者(本人・会社・医師)の記入欄がすべて埋まっているかを必ず見直してください。医師の記載もれや、会社記入欄の空欄は、差し戻しの典型的な原因とされています。また、医師が記入した「労務不能と認めた期間」と、本人が申請する「休業した期間」がずれていないか、待機3日が連続して完成しているか、休業期間に給与の支払いがあった場合はその旨が正しく記載されているか、といった点も確認しておくと安心です。これらはあくまで一般的な確認事項であり、最終的な取り扱いは加入している健康保険の判断によります。

具体的な計算例・記入例

無料サンプルでは「標準報酬月額30万円・12か月以上加入・給与なし」というもっとも基本的な会社員のケースを解きました。ここでは、条件が異なる3つのケースを取り上げ、計算の過程と記入のポイントを補足します。実際の金額は標準報酬月額や休業日数で変わりますので、考え方の道筋として参考にしてください。

ケース1は、給与水準が高めの方です。会社員のBさん、協会けんぽ加入、被保険者期間は5年で12か月を超えています。直近12か月の標準報酬月額の平均が42万円だったとします。1日あたりの支給額は、まず42万円 ÷ 30日 = 1万4,000円(10円未満の端数なし)、これに3分の2を掛けて9,333円です(1万4,000円 × 2 ÷ 3 = 9,333.33…円を1円未満四捨五入して9,333円)。仮にある月に月曜から30日間連続で休み、給与の支払いがなかった場合、待機3日を除いた27日分が対象となり、9,333円 × 27日 = 25万1,991円、およそ25万円が初月の目安になります。記入のポイントとしては、標準報酬月額が高い方ほど、医師の「労務不能期間」と申請期間のズレが金額に与える影響が大きくなりますので、期間の整合を特に丁寧に確認したいところです。

ケース2は、加入してまもない方、つまり被保険者期間が12か月に満たないケースです。会社員のCさん、入社から半年(6か月)で、その間の標準報酬月額の平均が26万円だったとします。この場合は、(1)支給開始日以前の各月の標準報酬月額の平均額(26万円)と、(2)全被保険者の平均標準報酬月額(支給開始日が2025年4月1日以降の方は32万円、2025年3月31日以前の方は30万円とされています)の、いずれか低い額を使って計算します。26万円のほうが低いため、26万円を採用します。1日あたりの支給額は、まず26万円 ÷ 30日 = 8,666.66…円を10円未満で四捨五入して標準報酬日額8,670円、これに3分の2を掛けて5,780円です(8,670円 × 2 ÷ 3 = 5,780円)。仮に27日分が対象なら、5,780円 × 27日 = 15万6,060円、およそ15万6千円が目安です。記入のポイントは、加入期間が短い場合の計算は協会けんぽ側で行われますので、自分では「採用される額は平均額と全国平均の低いほう」という考え方を理解しておけば十分です。

ケース3は、退職をはさむケースです。会社員のDさん、被保険者期間は3年あり、在職中に病気で休み始めて傷病手当金を受給していました。標準報酬月額の平均は33万円とします。1日あたりの支給額は、まず33万円 ÷ 30日 = 1万1,000円(10円未満の端数なし)、これに3分の2を掛けて7,333円です(1万1,000円 × 2 ÷ 3 = 7,333.33…円を1円未満四捨五入して7,333円)。Dさんはその後に退職しますが、退職後も継続して受給するには、(1)退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があること、(2)退職日の時点で傷病手当金を受給しているか受給できる状態にあること、の両方が必要とされています。ここでの記入・手続き上の最大の注意点は、退職日に出勤しないことです。退職日に出勤してしまうと「労務不能の状態」が途切れたと判断され、継続給付の条件を満たさなくなる、と案内されています。退職日は有給を取得するか、休業のままにしておく必要があります。退職後の申請では、事業主記入欄を退職前に会社へ依頼しておくと、退職後に連絡が取りづらくなる事態を避けやすくなります。

いずれのケースも、最終的な支給可否や金額は審査によって決まります。ここで示した数字はあくまで考え方を示す目安であり、実額を保証するものではありません。

よくある質問(FAQ)

読者の方が迷いやすい点を、Q&A形式でまとめます。一般的な案内に基づく説明であり、個別の取り扱いは加入している健康保険の判断によります。

Q. パートやアルバイトでも傷病手当金は受け取れますか。

雇用形態の名称ではなく、健康保険(協会けんぽや健康保険組合)の被保険者本人であるかどうかが基準になります。労働時間や勤務日数の条件を満たして健康保険に加入しているパート・アルバイトの方であれば、ほかの要件を満たすことで対象になり得ます。逆に、勤務先の健康保険に加入していない場合は対象になりません。ご自身の保険証で保険者を確認してみてください。

Q. 国民健康保険(国保)でも受け取れますか。

自営業者・フリーランス・無職の方などが加入する国民健康保険には、原則として傷病手当金の制度がありません。一部の自治体が独自に傷病手当金を設けているケースはありますが、法定給付ではなく規模も異なるため、会社員が利用する健康保険の傷病手当金とは別物と考えてください。

Q. うつ病や適応障害など、精神疾患でも対象になりますか。

精神疾患も身体の病気と同じように対象になり得ます。医師が「労務不能」と判断していることが条件であり、傷病の種類によって除外される仕組みにはなっていません。

Q. 入院していないと受け取れないのでしょうか。

入院は要件ではありません。医師の指示による自宅療養であっても、「仕事に就くことができない状態」と認められれば対象になり得ます。重要なのは入院の有無ではなく、労務不能の状態かどうかです。

Q. 待機の3日間は、有給休暇や土日を使っても数えられますか。

待機の3日間は、有給休暇を取得した日や、土日・祝日などの公休日も含めて数えてよいとされています。ただし「連続する3日間」であることが条件です。1日休んで出勤し、また1日休んだ、という断続的な休みでは待機が完成しません。

Q. 有給休暇を全部使い切ってからでないと申請できませんか。

そのような決まりはありません。有給休暇を取得している期間は給与が支払われるため、その日について傷病手当金は支給されませんが、有給が終わったあとに引き続き休業すれば、その日から支給の対象になります。最初から有給を使わず欠勤にすることも選べます。どちらを選ぶかは本人の判断です。

Q. 休職中に会社から給与の一部が出ています。傷病手当金はどうなりますか。

給与が一部だけ支払われている場合は、傷病手当金から給与の支給分を差し引いた差額が支給される、と案内されています。給与のほうが傷病手当金より多い場合は、傷病手当金は支給されないことになります。

Q. 出産手当金と傷病手当金は両方もらえますか。

両方を受け取れる期間については、原則として出産手当金が優先され、出産手当金が支給される、とされています。ただし出産手当金の額が傷病手当金の額より少ない場合には、その差額が傷病手当金として支給される取り扱いが案内されています。詳しくは加入している健康保険にご確認ください。

Q. 申請してからどれくらいで振り込まれますか。

協会けんぽの場合、受付からおおむね10営業日以内に指定口座へ振り込まれるとされています。ただし書類に不備があると審査が止まり、その分だけ時間がかかります。健康保険組合の場合は組合ごとに目安が異なります。

Q. 何か月分かをまとめて、あとから申請してもよいですか。

過去の分をさかのぼって申請することは可能ですが、傷病手当金を受け取る権利は、労務不能であった日ごとにその翌日から2年で時効になるとされています。2年を過ぎた分は受け取れなくなりますので、まとめる場合でも時効に注意してください。

Q. 転職して健康保険が変わった場合、被保険者期間は通算されますか。

退職後の継続給付に必要な「継続して1年以上の被保険者期間」は、同じ会社・同じ健保で1年以上続いている必要はなく、転職などで保険者が変わっていても、健康保険への加入が途切れず継続していれば通算されるとされています。ただし国民健康保険に加入していた期間や、退職後の任意継続被保険者の期間は算入されません。

Q. 退職後に任意継続被保険者になれば、傷病手当金を新たに受け取れますか。

任意継続被保険者の期間は、原則として傷病手当金の対象外とされています。退職後に傷病手当金を受け取れるのは、あくまで在職中から継続給付の要件を満たして受給しているケースであり、退職後に任意継続に加入したことを理由に新たに受給できるようになるわけではありません。

Q. 同じ病気で復職と休職を繰り返しています。1年6か月はどう数えますか。

2022年1月1日以降は「実際に傷病手当金が支給された日数の合計が通算して1年6か月に達するまで」という通算の考え方になりました(公式の単位は「1年6か月」で、日数換算は便宜的な目安です)。途中で復職して働いた期間は1年6か月のカウントに含まれないため、同じ病気で休職と復職を繰り返しながら治療を続ける場合でも、受け取れる給付が以前より手厚くなっています。ただし上限が1年6か月分であること自体は変わりません。

Q. 1年6か月を過ぎても働けない場合はどうすればよいですか。

支給期間が終わったあとも労務不能が続く場合は、障害年金の申請を検討する段階にあることが多いです。傷病手当金の支給開始日から1年6か月が経過した日が、障害年金の申請に関わってくることがあります。病気が長引いていると感じる場合は、早めに年金事務所やかかりつけ医に相談しておくことをお勧めします。

Q. 自分で申請するのが不安です。代わりにやってもらえますか。

本記事は制度の情報提供を目的としたものであり、申請書類の作成代行や個別の申請代行は行っていません。傷病手当金の申請は被保険者本人が行うのが基本ですが、勤務先の総務・人事が手続きを取りまとめてくれる会社もあります。記入で迷う点は、加入している健康保険の窓口でも相談に応じてもらえます。

出典一覧

本記事の作成にあたり、以下の公式資料を参照しました。

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3040/

確認日:2026年6月25日

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/benefit/injury_and_sickness_allowance/index.html

※標準報酬日額は「÷30で10円未満四捨五入」、支給日額は「×2/3で1円未満四捨五入」と明記。

確認日:2026年6月25日

https://www.nenkin.go.jp/service/yougo/sagyo/ninteibi.html

※障害認定日は「初診日から1年6か月を過ぎた日」(傷病手当金の支給開始日ではない)。

確認日:2026年6月25日

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r307/

確認日:2026年6月25日

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22308.html

確認日:2026年6月25日

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21070.html

確認日:2026年6月25日

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/application_form/benefit/001/index.html

確認日:2026年6月25日

※調整対象は「現実に支給されている障害厚生年金」に限定されることを明示した通知。

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb0361&dataType=1&pageNo=1

確認日:2026年6月25日

免責事項

本記事は制度の一般的な概要を解説する情報提供を目的としており、個別の申請代行・書類作成代行・法的アドバイスは行っておりません。制度の要件・支給額・申請方法は変更されることがあります。申請前には必ず加入している健康保険の窓口または公式サイトで最新情報をご確認ください。