新事業進出補助金(旧・事業再構築補助金の後継)完全ガイド――申請実務から賃上げリスク管理まで

本記事は2026年6月27日時点の公開情報に基づきます。金額・要件・受付期間はいずれも変更されることがあるため、申請前に必ず公式サイト(中小企業基盤整備機構 https://shinjigyou-shinshutsu.smrj.go.jp/)で最新情報をご確認ください。

本記事は制度の情報提供を目的としており、申請書類の作成代行や手続きの代行は行いません。社会保険労務士法・税理士法の業務範囲に関連する個別判断が必要な場合は、認定経営革新等支援機関や社会保険労務士・税理士にご相談ください。

この記事が整理すること

事業再構築補助金が廃止され、その後継として2025年度から「中小企業新事業進出補助金」(以下、新事業進出補助金)が始まりました。しかし「どこが変わったのか」「前の補助金と何が違うのか」「個人事業主や小規模事業者でも使えるのか」といった疑問に正面から答えている記事は、まだ多くありません。

この記事では、次のような方を主な読者として想定しています。

この記事を通じて整理されることは、次の7点です。

  1. 新事業進出補助金の制度概要と事業再構築補助金との違い
  2. 補助上限額・補助率の従業員数別の金額感
  3. 第4回公募(2026年度・最終回)で変わった賃上げ要件の内容
  4. 新事業進出の要件(どんな事業が対象か、何が対象外か)
  5. 対象経費の詳細と申請上の制約
  6. 申請の実際の手順と必要書類の正式名称
  7. 2026年度後半に予定される統合後の新制度への見通し

制度の全体像

制度の目的と創設の背景

新事業進出補助金は、2025年度(令和7年度)に経済産業省・中小企業庁が設けた補助金で、中小企業等が既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業へ進出するための設備投資や外注費を補助するものです。

2020年から続いた事業再構築補助金は、コロナ禍での業態転換を主目的として設計されていましたが、2024年度(令和6年度)で終了しました。その後継として創設された新事業進出補助金は、単なる「業態変更」ではなく、まったく新しい製品・サービスを新しい顧客層に向けて提供する「真の意味での新分野進出」を対象にしています。

背景にあるのは、中小企業の生産性向上と賃上げを連動させるという政策の方向性です。補助金を受け取るだけでなく、受け取った後に従業員の給与を引き上げることを約束させることで、補助金が「事業の底上げ+賃上げ」に使われるよう設計されています。賃上げ要件を満たせなければ補助金の一部または全額を返還しなければならないという仕組みは、事業再構築補助金から引き継がれつつ、より厳格化されています。

制度の枠組みを一目でつかむ

項目内容
正式名称中小企業新事業進出補助金
実施主体中小企業基盤整備機構(中小機構)
主管省庁経済産業省 中小企業庁
対象者中小企業者・中堅企業(従業員数1人以上が必須)
補助率1/2(地域別最低賃金引上げ特例適用時は2/3)
補助下限額750万円(全規模共通)
補助上限額2,500万円〜7,000万円(従業員数による。大幅賃上げ特例時は3,000万円〜9,000万円)
申請方法電子申請(GビズIDプライムアカウントが必須)
前身制度事業再構築補助金(2024年度終了)
次の制度新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(2026年度後半に統合予定)

事業再構築補助金との主な違い

事業再構築補助金との違いは、単なる制度名の変更ではありません。対象となる事業の定義、対象経費の構成、賃上げ要件の位置づけ、申請要件の細かい点で、実質的な差があります。

まず「業態転換」という概念が消えました。事業再構築補助金では、飲食店が宅配専門店に転換したり、小売店がEC販売を始めたりするような「提供方法の変更」も補助対象になっていました。新事業進出補助金では、これは対象外になっています。まったく新しい製品・サービスを、これまでとは異なる顧客層に向けて提供する事業でなければ、申請の出発点にすら立てません。

次に、設備投資の必須化があります。機械装置・システム構築費または建物費のどちらかを必ず補助対象経費に含めなければなりません。外注費やコンサル費だけで申請することはできないため、実体的な設備投資を伴わない計画は採択されにくい構造になっています。

対象経費には構築物費(門・フェンス・駐車場・広告塔など)が新たに加わりました。事業再構築補助金では対象外だったものが、新事業進出補助金では建物と一体として使用される構築物は補助できるようになっています。

一方で外注費・専門家経費・広告宣伝費には上限が新設されました。外注費は補助金額の10%以内、専門家経費は100万円以内、広告宣伝・販売促進費は売上高見込み額の5%以内です。これにより、経費の全体をソフト系に偏らせて申請することへの歯止めがかかっています。

賃上げ要件は任意加点から必須要件に格上げされた形です。事業再構築補助金では賃上げは加点ポイントの一つでしたが、新事業進出補助金では「賃上げ要件を満たすこと」が応募の基本条件に組み込まれています。達成できなければ補助金を返還しなければなりません。

以下に主要な違いを表で整理します。

比較項目事業再構築補助金新事業進出補助金
制度期間2021〜2024年度2025年度〜(2026年後半に統合)
業態転換対象対象外
新分野進出対象(類型の一つ)対象(唯一の概念)
設備投資の必須化なし機械装置費or建物費のいずれかが必須
構築物費対象外対象
外注費の上限なし補助金額の10%以内
専門家経費の上限なし100万円以内
賃上げ要件加点項目(任意)基本要件(必須)、未達時は返還義務
補助上限(最大)1億円(一部類型)7,000万円(通常)〜9,000万円(特例)
複数回申請原則1回のみ前回受給から16か月超で再申請可

【無料サンプル】従業員5人・製造業の個人事業主がAI画像検査装置で新分野進出する1ケースを無料で全部見せます

ここでは「従業員5人の機械加工業・個人事業主」が「半導体製造装置向けの精密検査システムの製造」へ進出するシナリオで、補助金の計算から申請の手順・窓口まで一通り追いかけます。実際の申請とは異なる点もありますが、全体の流れを理解するためのモデルケースとして最後まで通します。

モデルケースの設定

補助金額の計算

従業員5人は「20人以下」の区分に該当するため、補助上限は2,500万円です。補助率は1/2。

補助金額 = 補助対象経費2,250万円 × 1/2 = 1,125万円

補助下限は750万円のため、この計算結果は下限を超えています。また補助上限2,500万円も超えていないため、1,125万円が受け取れる補助金額となります。

補助後の自己負担 = 2,250万円 − 1,125万円 = 1,125万円

外注費の上限チェック: 外注費200万円 ÷ 補助金額1,125万円 = 約17.8%となり、10%の上限を超えています。この場合は外注費を113万円以下に抑えるか、補助金額が増えるよう他の経費を増やして申請します。たとえば外注費を100万円に減らした場合、補助金額は補助対象経費2,150万円×1/2=1,075万円となり、外注費100万円÷1,075万円=9.3%で上限内に収まります。このように経費のバランスを設計する段階が申請準備の肝になります。

賃上げ要件の確認と試算

第4回公募では、一人当たり給与支給総額の年平均成長率を3.5%以上増加させることが必須です。

このモデルケースで現在の給与状況が次の通りだったとします。

3.5%成長した場合の1年後の1人あたり給与: 400万円 × 1.035 = 414万円

2年後: 414万円 × 1.035 ≒ 428.5万円

3年後(計画最終年度): 428.5万円 × 1.035 ≒ 443.5万円

つまり3年間で1人あたりの年間給与を約400万円から443万円程度に引き上げる計画を立てる必要があります。毎年1人あたり約14万円〜15万円の賃上げです。

事業場内最低賃金要件のチェックも必要です。現在の事業場内最低賃金は1,170円で地域別最低賃金より30円高いため、最低限の30円以上という要件は満たしています。この水準を計画期間中ずっと維持することが求められます。

賃上げ未達時の返還リスク試算

補助金1,075万円を受け取り、計画では年平均3.5%の賃上げを約束したとします。仮に事業がうまくいかず、実際の年平均成長率が1.5%にとどまった場合、返還額はどうなるかを計算します。

返還額 = 補助金交付額 × (1 − 実績成長率 ÷ 目標成長率)

= 1,075万円 × (1 − 1.5% ÷ 3.5%)

= 1,075万円 × (1 − 0.4286)

= 1,075万円 × 0.5714

≒ 614万円

補助金を1,075万円受け取っていても、614万円を返さなければならない計算になります。実質的に残るのは461万円です。

さらに「従業員への賃上げ表明をしていなかった」とみなされた場合や、実績成長率がマイナスになった場合は全額の1,075万円を返還する義務が生じます。加えて、不正受給と認定された場合は年率10.95%の加算金が課されるため、申請時の計画の根拠づけが非常に重要です。

申請の手順(概要)

ステップ1: GビズIDプライムの取得(申請6〜8週間前)

GビズIDプライムは、デジタル庁が提供する法人・個人事業主向けのアカウントです。マイナンバーカードを使ったスマートフォン認証でも取得できますが、書類郵送方式では発行まで原則1週間程度かかります。申請締切直前に申し込むとアカウント未取得のまま締切を迎えることがあります。余裕を持って早めに取得してください。

取得先: https://gbiz-id.go.jp/

ステップ2: 新事業進出要件の確認(申請4〜6週間前)

計画している新事業が「新事業進出指針」の3要件(製品等の新規性要件・市場の新規性要件・新事業売上高要件)を満たすかどうかを事前に確認します。後で詳しく解説しますが、「既存商品のバリエーション追加」「同じ顧客への別商品販売」などは対象外になる可能性が高いです。

中小機構の公式サイトには「新事業進出指針の手引き」が公開されています(https://shinjigyou-shinshutsu.smrj.go.jp/docs/shinjigyou_shishin_tebiki.pdf)。疑わしい場合は事前相談窓口(後述)に相談することをおすすめします。

ステップ3: 事業計画書の作成(申請2〜4週間前)

新事業進出補助金の申請では「事業計画書」の作成が中心作業です。中小機構が定めた所定フォーマット(事業計画書書式)に従って記入します。

フォーマットは公式サイトのダウンロードページ(https://shinjigyou-shinshutsu.smrj.go.jp/downloads)から入手します。

記載すべき主な内容は次の通りです。

ステップ4: 認定支援機関への相談(任意だが推奨)

新事業進出補助金では認定経営革新等支援機関(認定支援機関)との相談は必須要件ではありませんが、金融機関からの資金調達を予定している場合は「金融機関による確認書」の添付が求められます。

認定支援機関とは、中小企業庁が認定した税理士・公認会計士・銀行・商工会議所などの専門機関です。事業計画書の内容確認や数値計画の妥当性チェックを依頼できます。費用は無料から着手金+成功報酬までさまざまです。詳しくは続きで解説します。

ステップ5: 電子申請(申請受付期間内)

中小機構の電子申請システム(https://shinjigyou-shinshutsu.smrj.go.jp/entry_application)にGビズIDプライムでログインして申請します。第4回公募の申請受付は2026年5月19日(火)〜2026年6月19日(金)18:00でした(2026年6月27日現在は締切済み)。次回は統合後の新制度での申請となります。

ステップ6: 採択後の手続き

採択発表後に「交付申請」を行い、交付決定が出てから補助事業(設備購入・システム構築など)を実施します。交付決定前に発注・契約した経費は原則として補助対象外になります。

実施期間は交付決定日から14か月以内(採択発表日から16か月以内)です。

実施後は「実績報告書」を提出します。第4回では補助事業完了から30日以内、または補助事業完了期限日のどちらか早いほうが締切です。期限を過ぎると交付決定が取り消されることがあります。

申請の窓口・相談先

公式サイト: https://shinjigyou-shinshutsu.smrj.go.jp/

電話相談窓口: 中小機構の公式サイトで公開されているコールバック方式の問い合わせ先

ミラサポplus(中小企業庁の補助金情報ポータル): https://mirasapo-plus.go.jp/subsidy/shinjigyou/

ここから先は、申請に直結する実務です。

新事業進出要件を詳しく理解する

新事業進出指針とは何か

新事業進出補助金の申請においてもっとも重要な確認事項の一つが、「新事業進出指針」への該当です。中小企業庁が公表した「新事業進出指針の手引き」に基づき、次の3要件をすべて満たす必要があります。

要件1: 製品等の新規性要件

申請時点で新たに製造・提供する予定の製品やサービスが、当該事業者にとって「これまで製造・提供してこなかった」ものであること。

要件2: 市場の新規性要件

その新製品・サービスを購入・利用する顧客層や市場が、当該事業者にとって「これまでアプローチしてこなかった」市場であること。

要件3: 新事業売上高要件

事業計画の最終年度において、新製品・サービスの売上高が応募時の総売上高の10%以上(または総付加価値額の15%以上)となる見込みがあること。

この3つの要件は、それぞれ単独では足りず、すべてを満たさなければなりません。そしてこの中で判断が難しいのは、製品等の新規性要件と市場の新規性要件の境界線です。

新事業進出とみなされる例・みなされない例

新事業とみなされる例(公式手引きや実務解説より)

新事業とみなされない例(公式手引きより)

境界線事例——これはグレーゾーン

実際に迷う事例を具体的に挙げます。

【事例1】居酒屋がテイクアウト専門の惣菜製造・販売を始める

判断: 事業再構築補助金では「業態転換」として対象でしたが、新事業進出補助金では対象外の可能性が高いです。居酒屋の顧客とテイクアウト惣菜の顧客は重なる部分が多く、「市場の新規性」を満たしにくいからです。

【事例2】地元向けの農産物直売所が、ECを活用して全国向けの通信販売事業を始める

判断: 「全国の農産物愛好家」という新しい市場へのアプローチとして、市場の新規性要件を満たす可能性があります。ただし、販売する農産物自体が「農産物の販売」という点では既存事業と同じとも見られるため、製品等の新規性要件の充足が焦点になります。事前相談窓口での確認を強くおすすめします。

【事例3】ITシステム開発会社が自社製品のSaaSビジネスを始める

判断: 受託開発(顧客向けの受注作業)から、自社製品を不特定多数に販売するSaaSへの転換は、製品の性格も市場も変わるため、新事業進出要件を満たす可能性は高いと考えられます。ただし、「IT系」という大カテゴリが同じでも市場と製品の定義をきちんと整理できるかどうかがポイントです。

「関連多角化」が採択されやすい傾向

公式発表の採択事例や採択傾向を見ると、「既存事業で培ったノウハウや技術基盤を活かしながら、まったく異なる業界の顧客に向けた製品を開発する」いわゆる関連多角化型のプロジェクトは採択されやすい傾向にあります。

製造業の採択率が高い(第1・2回ともに採択業種別で最上位)のは、機械や素材を「違う用途・違う業界向けに」加工するというシナリオが「製品の新規性」と「市場の新規性」の両方を満たしやすいからです。

逆に、サービス業・飲食業は採択率が低い傾向にあります。これは「サービスの内容を変えるだけでは製品の新規性が証明しにくい」「顧客ターゲットが曖昧になりやすい」という構造的な難しさがあるからです。

補助上限額・補助率の詳細

従業員数別の補助上限額

従業員数は、申請時点で「常時使用する従業員」の数で判断します。個人事業主の場合も法人の場合も、申請時点でこの従業員数がゼロの場合は申請資格がありません。

従業員数通常の補助上限大幅賃上げ特例時の補助上限補助率(通常)補助率(地域最賃特例時)
20人以下2,500万円3,000万円1/22/3
21〜50人4,000万円5,000万円1/22/3
51〜100人5,500万円7,000万円1/22/3
101人以上7,000万円9,000万円1/22/3
補助下限額(全規模共通)750万円

この表で重要なポイントをいくつか確認します。

まず補助下限額が750万円ある点です。たとえば「補助対象経費が1,000万円で補助率1/2なら500万円もらえると思っていた」という事業者が、実際には750万円を下回るため「対象外」になるケースがあります。申請前に補助対象経費の総額が1,500万円以上になるかどうかを確認することが最初のチェックポイントです(1,500万円×1/2=750万円で下限ぴったり)。

次に「大幅賃上げ特例」の仕組みです。これは補助上限額を上乗せする特例で、適用するには補助事業終了後の計画期間中に「一人当たり給与支給総額の年平均成長率を6.0%以上増加させること」と「事業場内最低賃金を年額50円以上引き上げること」の両方が必要です。通常の賃上げ要件(3.5%以上)よりも高い基準で、未達の場合は理由を問わず返還義務が発生します。

「地域別最低賃金引上げ特例」は補助率を引き上げるための別の特例です。2024年10月〜2025年9月の期間中、地域別最低賃金以上かつ2025年度改定の地域別最低賃金未満で雇用している従業員が全体の30%以上を占める月が3か月以上ある事業者が対象です。いわば「低賃金の労働者を多く雇用せざるを得ない事業者」への配慮として第4回公募から新設された制度で、補助率が1/2から2/3に上がります。また、この特例が適用された場合、事業場内最低賃金水準要件(地域別最低賃金+30円以上)が免除されます。

中小企業・小規模事業者の区分と補助上限の関係

新事業進出補助金では「小規模事業者」という区分が上限額に直接連動するわけではなく、「常時使用する従業員数」のみが基準となります。従業員20人以下の事業者(製造業なら小規模事業者の範囲内)は補助上限2,500万円の区分に収まります。

従業員5人以下の個人事業主や小規模事業者でも、補助対象経費を1,500万円以上設計できれば下限の750万円を超えた補助金を受け取れる計算になります。ただし前述の通り「機械装置費または建物費のいずれかを必ず入れる」という制約があるため、純粋にソフトウェア開発や外注・コンサル費だけで1,500万円を積み上げることはできません。

賃上げ要件の全体像と注意点

3つの賃上げ関連要件

第4回公募では、賃上げに関連する要件が3つの軸に整理されています。

要件1: 賃上げ要件(基本要件)

補助事業終了後3〜5年の事業計画期間において、一人当たり給与支給総額の年平均成長率を3.5%以上増加させること。

「一人当たり」という計算方法に注意が必要です。第3回公募までは「給与支給総額の年平均成長率2.5%以上」という総額ベースの計算方法も選択肢の一つでした。第4回からは「一人当たり」ベースに統一されたため、従業員数が増えても1人ひとりの給与が上がっていなければカウントされません。

具体的な計算方法: 一人当たり給与支給総額の年平均成長率 = (計画最終年度の一人当たり給与支給総額 ÷ 補助事業実施前年度の一人当たり給与支給総額)^(1/計画年数) − 1

要件2: 事業場内最低賃金水準要件

毎年、事業場内最低賃金(事業所内でもっとも賃金の低い従業員の時間給)が地域別最低賃金より30円以上高い水準であること。これを計画期間中ずっと維持する必要があります。

地域別最低賃金は毎年10月に改定されます。たとえば愛知県の場合、2025年度改定後(2025年10月18日)の最低賃金は1,140円のため、事業場内最低賃金は少なくとも1,170円以上でなければなりません。毎年の改定後に必ず確認・対応が必要です。

地域別最低賃金引上げ特例の適用を受けた事業者はこの要件が免除されます。

要件3: ワークライフバランス要件

一般事業主行動計画を策定し、公表していること。一般事業主行動計画とは、女性活躍推進法や次世代育成支援対策推進法に基づく、従業員の働き方改善に向けた行動計画です。

一般事業主行動計画の公表先は都道府県労働局または厚生労働省の「両立支援のひろば」サイト(https://ryouritsu.mhlw.go.jp/)です。申請時点で公表が完了していることが必要です。

賃上げ未達時の返還ルール(詳細)

補助事業終了後、実際に一人当たり給与支給総額の成長率が計画を下回った場合、返還義務が発生します。

一部返還のケース(成長率が目標を下回った場合)

返還額 = 補助金交付額 × (1 − 実績年平均成長率 ÷ 目標年平均成長率)

例: 補助金1,000万円・目標成長率3.5%・実績成長率2.0%の場合

返還額 = 1,000万円 × (1 − 2.0÷3.5) = 1,000万円 × 0.4286 ≒ 429万円

例: 補助金1,000万円・目標成長率3.5%・実績成長率0%(まったく上がらなかった)の場合

実績成長率がゼロ(または未達事由が従業員への賃上げ表明を怠った場合)は全額返還です。

全額返還のケース

次のいずれかに該当する場合は全額返還となります。

返還免除が認められるケース

天災や感染症の拡大など、事業者の責任によらない理由で賃上げが実現できなかった場合は、返還が免除される可能性があります。ただし、免除の判断は申請に基づくもので、自動的に免除されるわけではありません。中小機構に状況を説明し、証拠となる資料を添えて申し出る必要があります。

大幅賃上げ特例未達時の特殊ルール

大幅賃上げ特例(6.0%以上の成長率を目指す申請)を使って補助上限額の引き上げを受けた場合、理由を問わず返還義務が発生します。「天災だから」「売上が不振だから」という理由も免除対象にならない点が通常の賃上げ要件と異なります。この点を理解した上で、6.0%という高い目標を現実的に達成できるかどうかを慎重に判断してください。

賃上げリスクを管理するための実務チェック

申請前・申請後にリスクを最小化するためのポイントを整理します。

申請前のチェック:

申請後・採択後のチェック:

対象経費の詳細と申請ルール

補助対象となる主な経費

機械装置・システム構築費: 補助事業に直接使用する機械装置の購入費・リース費、システムの設計・開発・構築費用などが含まれます。汎用性の高い機器(一般的なパソコン・スマートフォン等)は対象外になることが多いです。

建物費: 補助事業に必要な建物の新築・増改築・原状回復の費用です。補助事業の用途に直接使う部分に限られます。

構築物費: 建物と一体として機能する構築物(フェンス・駐車場舗装・広告塔等)が対象です。これは事業再構築補助金では対象外でしたが、新事業進出補助金で新たに対象化されました。

運搬費: 機械装置等を設置場所まで運ぶための費用です。

技術導入費: 特許権や実施権、ノウハウのライセンス取得費用などです。

知的財産権等関連経費: 特許出願・登録にかかる費用などです。

クラウドサービス利用費: 補助事業で使うクラウドサービスの利用料金です。期間中(補助事業実施期間内)の費用が対象となります。

外注費: 補助事業の一部を外部に発注する費用です。ただし補助金額の10%以内という上限があります。

専門家経費: 認定支援機関や各種専門家に支払う相談費用などです。100万円以内の上限があります。

広告宣伝・販売促進費: 新事業への進出に伴う広告・販促費です。売上高見込み額の5%以内という上限があります。

対象外の経費

研修費: 補助対象外です。従業員のスキルアップ目的の研修は対象になりません。

廃業費: 補助対象外です。既存事業の廃業にかかる費用は対象になりません(事業再構築補助金では廃業費が対象の類型がありましたが、新事業進出補助金にはそのような類型はありません)。

汎用性の高い設備・ソフトウェア: 補助事業以外でも広く使えるものは対象外です。

交付決定前に発注・契約した経費: 交付決定日より前に発注または契約した経費は対象外です。採択通知を受けた後であっても、交付決定が出るまで発注・契約をしてはいけません。この点は非常に多くの申請者が見落とすポイントです。

消費税: 消費税額は補助対象外です。

「機械装置費または建物費のいずれかが必須」というルールの実際

このルールは申請者にとって制約になるケースがあります。たとえば、デジタルコンテンツの制作事業やコンサルティングサービスを新分野として展開しようとする場合、実体的な設備購入が不要なことがあります。しかしこの補助金では、外注費・コンサル費・広告費だけで申請することはできません。

一つの実務的な対応として、必要なソフトウェアをクラウドサービス利用費やシステム構築費として計上するか、事業で使うPCやサーバー設備を機械装置費として計上することが考えられます。ただし、あくまで事業に必要な設備に限られるため、不必要な設備を無理に計上することは採択審査でマイナスに評価されます。

申請の具体手順(ステップ別)

事前準備フェーズ(申請の12〜8週間前)

GビズIDプライムの取得

デジタル庁のGビズIDサイト(https://gbiz-id.go.jp/)で取得します。

個人事業主の場合は、マイナンバーカードを使ったスマートフォン認証(GビズIDquickという種別)ではなく、GビズIDプライムの取得が必要です。書類郵送方式の場合、以下の書類を中小機構に送付します。

審査・発行まで原則1週間程度かかります。申請期限直前に申し込むと間に合わない可能性があるため、少なくとも3〜4週間前には申し込んでください。

一般事業主行動計画の策定・公表

ワークライフバランス要件を満たすために、一般事業主行動計画を策定し「両立支援のひろば」(https://ryouritsu.mhlw.go.jp/)に公表しておく必要があります。

この手続き自体は無料です。次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画は常時雇用者100人以下の事業主は努力義務のため、公表していない事業者も多いです。未公表の場合は申請前に対応が必要です。

計画策定フェーズ(申請の8〜4週間前)

新事業進出の内容を整理する

新事業進出指針の3要件(製品等の新規性・市場の新規性・新事業売上高)に照らして、計画する事業が対象になるかどうかを自己評価します。

判断が難しい場合は、中小機構が設けている「事業計画相談窓口」(公式サイトから予約可能)に相談してください。この相談は無料で、事前相談の内容は審査結果に直接影響しない(採否を予約するものではない)とされていますが、方向性の確認としては有効です。

付加価値額の計画を立てる

付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費

この計算式で付加価値額を算定し、補助事業終了後3〜5年の事業計画期間において年平均成長率4.0%以上を示す必要があります。

成長率4.0%が必須のため、逆算すると3年計画の場合は「今の付加価値額 × 1.124(=1.04の3乗)以上」が計画最終年度の目標値になります。

賃上げ計画を数値で立てる

一人当たり給与支給総額の現状把握(過去3年程度の実績が必要)、計画期間中の従業員数の見通し、各年度の賃上げ額の設定、それが事業計画上の売上・利益から実現可能かという確認、この一連の作業が必要です。

計画が経営実態から大きく乖離していると審査でマイナス評価につながることがあります。「達成できそうだから少し余裕を持った計画」ではなく、「実際のビジネス計画から導かれる賃上げ水準」として説明できることが大切です。

事業計画書の作成

公式サイトのダウンロードページから「事業計画書書式」を取得し、所定のフォーマットに従って作成します。

事業計画書に記載すべき主な内容:

(1) 申請者の概要(事業内容・従業員数・財務状況3期分)

(2) 新事業進出の背景と目的(なぜその新事業か・市場の現状・競合分析)

(3) 新事業の具体的な内容(製品・サービスの詳細・顧客ターゲット・販売方法)

(4) 補助事業の実施計画(月次スケジュール・発注〜納品〜稼働開始の流れ)

(5) 市場規模と売上見通し(根拠となるデータを添付)

(6) 付加価値額の成長計画(年次数値)

(7) 賃上げ計画(年次数値)

(8) 補助対象経費の内訳と根拠(複数の見積もりが必要な場合は添付)

(9) 事業の実現可能性と資金計画

(10) その他加点項目(グリーン化・デジタル化・海外展開等に該当する場合)

第4回公募では口頭審査(オンライン、Zoomなど)が課せられる場合があります。この審査では申請者本人(代表者等)が直接説明することが求められており、コンサルタントや支援者は同席・代行できません。計画書の内容を自分の言葉で説明できるかどうかが採否に影響します。

申請フェーズ(申請受付期間内)

電子申請システムへのログイン・申請書類のアップロード・補完書類の確認・申請確認メールの受信という流れになります。

申請時に必要な書類(主なもの):

書類の名称や様式は公募回ごとに変わることがあります。申請に際しては公式サイトの「応募申請ガイド」(https://shinjigyou-shinshutsu.smrj.go.jp/downloads)で最新版を必ず確認してください。

採択後フェーズ

採択発表後: 交付申請

採択発表(第4回は2026年9月末頃予定)の後、所定の期日までに「交付申請」を電子申請します。この交付申請で提出する書類には、確定した設備の見積書や契約書案などが含まれます。

交付決定が出るまでは発注・契約・購入を行ってはいけません。これを違反すると補助金の対象外になります。

交付決定後: 補助事業の実施

交付決定通知を受け取った後、初めて発注・契約・購入が可能になります。機械装置の購入、システムの開発委託、建物の工事などを実施します。

補助事業実施期間は交付決定日から14か月以内(採択発表日から16か月以内)です。この期間内にすべての発注・受領・支払いを完了する必要があります。

実施後: 実績報告書の提出

補助事業が完了したら、補助事業完了から30日以内(または補助事業完了期限日のどちらか早いほう)に実績報告書を提出します。

実績報告書には購入した機械の写真・納品書・領収書・検収書などが必要です。領収書は補助金で購入したものと自己資金で購入したものを混在させないよう、整理しながら保管してください。

確定検査・補助金交付

実績報告書を提出した後、中小機構が内容を確認し(必要に応じて現地確認もあり得ます)、補助金額を確定します。確定後に補助金が指定口座に振り込まれます。

個人事業主が申請する際の注意点

従業員ゼロは申請の資格なし

新事業進出補助金の申請要件として「常時使用する従業員が1人以上いること」が必要です。フリーランスや完全一人経営の個人事業主は申請できません。

これは事業再構築補助金でも同様でしたが、改めて確認が必要です。申請を計画している方で、現在従業員がいない場合は、申請前に雇用が必要になります。

1人目の従業員を採用してから申請準備を始めるタイミング

「従業員を採用したらすぐに申請できるのか」という疑問があります。公募要領では「応募申請時点で従業員が0名の事業者は対象となりません」という表現が使われており、「応募申請時点」が基準になっています。

つまり、従業員を採用した直後から申請資格は生まれます。ただし実際には次の点を考慮する必要があります。

採用直後でも申請資格はありますが、書類準備の観点から、少なくとも1〜2か月の余裕を持って申請準備を始めることが現実的です。

法人化を検討すべきかどうか

個人事業主の場合、法人と比較して次のような点で差が出ることがあります。

融資の受けやすさ: 補助金と組み合わせて金融機関から追加融資を受ける場合、法人のほうが信用力の面で有利なことがあります。

社会的信用: 新事業で法人顧客(BtoB)との取引を想定している場合、法人格があるほうが商談を進めやすいケースがあります。

登記・会計の透明性: 認定支援機関や投資家との連携を想定している場合、財務書類が整いやすい法人のほうがスムーズに進む場合があります。

ただし法人化には設立費用(株式会社の場合20万円〜)や税務・社会保険の取り扱いが変わるため、補助金申請だけを目的に無理に法人化する必要はありません。事業の成長フェーズや取引先の要件に応じて検討するのが現実的です。

事業再構築補助金を受給したことがある場合の制約

過去に事業再構築補助金等の補助金を受給していた場合、受給から16か月が経過していないと新事業進出補助金には申請できません。「16か月」はかなり長い期間のため、前の補助金の採択が最近の方は申請スケジュールに注意が必要です。

認定経営革新等支援機関(認定支援機関)の選び方と費用

認定支援機関とは何か

認定経営革新等支援機関とは、中小企業庁が「専門性の高い経営支援ができる機関」として認定した団体・個人です。税理士・公認会計士・中小企業診断士・銀行・信用金庫・商工会議所・行政書士などが認定されています。

新事業進出補助金では、認定支援機関との相談は必須要件ではありません。しかし、以下の場合に関与が求められます。

事業再構築補助金では認定支援機関との連名申請が必須要件でしたが、新事業進出補助金では必須ではない点が異なります。ただし、実務的には事業計画書の作成支援という意味で相談する事業者が多いです。

費用相場と選び方

費用の相場は、支援機関の種類と関与の深さによって大きく異なります。

無料または低額: 商工会議所・商工会・中小機構の相談員・よろず支援拠点などは、相談費用が無料または低額です。採択率の向上に直接貢献するかどうかは支援の深さ次第ですが、初期段階の方向性確認や申請書類のチェックには有効です。

着手金+成功報酬型: 民間のコンサルタントや行政書士事務所に依頼する場合、着手金10万〜30万円程度+採択時の成功報酬(補助金額の10〜15%程度)という形が多いです。成功報酬型の場合、不採択時は成功報酬がかからないため、事業者のリスクは低くなります。ただし成功報酬は補助金の対象経費の専門家経費(上限100万円)に含まれますが、成功報酬そのものは補助事業完了後の支払いになるため、採択された場合は実質的に自己負担になる点に注意が必要です。

税理士・公認会計士: 財務数値の整合性チェックや事業計画の数値設計に強みがあります。すでに顧問税理士がいる場合は相談してみるとよいでしょう。

選ぶ際の注意点

悪質な業者への注意: 「採択率100%」「絶対に通る」といった表現を使う業者には注意が必要です。採択審査は中小機構が行うものであり、いかなる支援機関もその結果を保証することはできません。

成功報酬の計算基準を確認する: 成功報酬が「補助金交付額の○%」なのか「補助対象経費の○%」なのかによって、最終的な支払い額が大きく異なります。契約前に必ず確認してください。

口頭審査への準備: 第4回公募では口頭審査でコンサルタントの同席・代行が認められていません。支援機関に「計画書を作ってもらって終わり」ではなく、自分自身が事業計画を十分に理解し、説明できるように準備することが必要です。

認定支援機関の一覧は中小企業庁の公式サイト(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kakushin/nintei/)から検索できます。地域・専門分野で絞り込んで探せます。

公募スケジュール(第4回・最終回)と今後の統合

第4回公募のスケジュール(2026年度)

第4回公募は新事業進出補助金としての最終回です。

時期内容
2026年3月27日(金)公募開始
2026年5月19日(火)申請受付開始
2026年6月19日(金)18:00申請締切(2026年6月27日現在は締切済み)
2026年9月末頃採択発表予定
採択発表日〜14か月以内補助事業実施期間
補助事業完了後30日以内実績報告書提出期限

2026年6月27日現在、第4回の申請受付は締め切り済みです。次は統合後の新制度での申請となります。

統合後の新制度(新事業進出・ものづくり補助金)

2026年度後半に、新事業進出補助金とものづくり補助金(製品・サービスの革新的改良を支援する制度)が統合し、「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」(仮称)として新たに公募が始まる予定です。

統合後の3つの申請枠:

革新的新製品・サービス枠(旧ものづくり補助金に相当)

新事業進出枠(旧新事業進出補助金に相当)

グローバル枠(大幅強化)

賃金特例要件達成時(6.0%以上の賃上げ)は全枠で補助率が2/3に引き上げられます。

予定スケジュール(2026年7月時点の情報に基づく予測。必ず最新の公式情報を確認してください):

時期内容
2026年6月頃統合新制度の公募要領公開
2026年8月頃第1回申請受付開始予定
2026年10月頃第1回採択発表予定

旧・新事業進出補助金で採択された事業者の次のステップ

すでに新事業進出補助金(第1〜3回)で採択されて補助事業を進めている事業者は、統合後の新制度へのスイッチを検討する前に、現在の補助事業の実施状況を整理する必要があります。

重複申請の制約として、「前回の補助事業が完了してから16か月が経過していない場合は再申請できない」というルールが適用されます。補助事業の完了と確定検査のタイミングを確認した上で、統合後の新制度への申請スケジュールを計画してください。

また、統合後の新制度では「新事業進出枠」において補助上限額・補助率・賃上げ要件が現行の新事業進出補助金とほぼ同様の設計になる見込みですが、詳細は公募要領の公表後に確認してください。現時点(2026年6月27日)では確定情報ではありません。

採択傾向と採択事例

採択率のデータ

第1回公募(2025年): 応募3,006件、採択1,118件、採択率37.2%

第2回公募(2025〜2026年): 応募2,350件、採択832件、採択率約35.4%

採択率は37%前後という水準で推移しています。事業再構築補助金の初期(採択率40%台後半)より低く、精度の高い計画書が求められています。

業種別の採択傾向

採択業種を見ると、製造業が全採択件数の過半数近く(約50%前後)を占めています。宿泊業・飲食サービス業の採択率は低い傾向にあります。

製造業が有利な理由として次のことが考えられます。

飲食業・小売業が採択されにくい理由として、次のことが挙げられます。

採択されやすいプロジェクトの特徴

公開情報・採択事例から共通する特徴を挙げます。

  1. 既存技術の活用 + 顧客の入れ替えのパターン: 機械加工業が自動車部品から医療機器部品へ、プラスチック成型業が食品容器から半導体装置部品へ、というように技術の流用はしながら顧客を完全に入れ替えるプロジェクトは「新事業進出要件を自然に満たしやすい」です。
  1. AIやIoT、DXなどデジタル活用の要素を含む: 加点項目に「デジタル化に資する取組」が含まれるため、AIシステムの構築・IoTセンサーの導入・工場のスマート化などを含む計画は加点を獲得しやすい。
  1. 付加価値額の成長と賃上げが事業計画から自然に連動している: 単に「目標値を入れた」ではなく、新製品の粗利率・販売単価・販売見通しから付加価値額が成長し、その利益が賃上げの財源になるという一本のストーリーが通っている計画は審査評価が高い。
  1. 事前相談で方向性を確認している: 申請前に事前相談窓口を利用して「新事業進出要件を満たすかどうか」の確認をしている事業者は、申請の土台が固まっているため計画書の完成度が上がりやすい。

採択されにくいプロジェクトの特徴

逆に注意が必要なパターンも共有します。

事業計画書の書き方と採択を高めるポイント

審査委員が見ているポイント

公募要領に記載されている審査基準をもとに、審査委員が評価するポイントを整理します。

新事業進出要件の明確さ: 3要件(製品・市場・売上高)をどれだけ具体的かつ定量的に示せているか。

付加価値額の成長の実現可能性: 4.0%以上という目標が「なぜ達成できるか」を市場データ・競合分析・粗利率の改善見通しから説明できているか。

賃上げ計画の整合性: 3.5%以上の賃上げが「どの財源から生まれるか」を事業計画の収益見通しと連動させて示せているか。

補助事業の実施体制: 事業計画を実行できる技術力・人員体制・外部との連携体制があるか。

政策との整合性: グリーン化・デジタル化・地域活性化・輸出拡大など国の政策方針と合致している場合は加点があります。

計画書で落とす典型的なミス

ミス1: 新事業の売上見通しの根拠が曖昧

「市場は成長しているから大丈夫」では不十分です。既存顧客へのヒアリング結果・展示会での反応・試作品のフィードバックなど具体的な根拠を書く必要があります。

ミス2: 付加価値額の計算式の誤り

付加価値額は「売上高」ではなく「営業利益+人件費+減価償却費」です。売上高の成長率を付加価値額の成長率として提出してしまうと審査でマイナスになります。

ミス3: 賃上げと事業計画の乖離

新事業が赤字続きなのに賃上げ3.5%を達成できるという計画は矛盾しています。損益計算書の見通しと賃上げ財源が連動していることを示す必要があります。

ミス4: 経費の積算根拠がない

補助対象経費の内訳は「なぜその金額か」という根拠(見積書・カタログ価格・同種事例での価格等)とともに提出する必要があります。根拠なく「1,000万円の機械装置」と書くだけでは審査でマイナスになります。

ミス5: 交付決定前の発注

採択通知の後、交付決定前に見積もりをとるのは問題ありませんが、発注・契約をしてしまうと対象外になります。「採択おめでとうございます、では早速発注を」というタイミングで失敗する事業者が毎回一定数います。

よくある誤解・つまずきポイント

誤解1: 事業再構築補助金が終わったから、同じ感覚で使える

事業再構築補助金と新事業進出補助金は「後継」ではあるものの、中身が大きく異なります。業態転換は対象外、必須経費の縛り、賃上げ要件の必須化、補助上限の設定などが変わっています。「前と同じように出せばいい」という感覚で申請すると、要件を満たさず弾かれることがあります。

誤解2: 認定支援機関に頼めば採択される

認定支援機関は採択を保証できません。審査は中小機構が行うもので、支援機関の選定は採否に直接影響しません。採択率を上げるためには、計画書の中身(新事業進出要件の充足・数値計画の整合性・実現可能性)が重要です。

誤解3: 採択されれば補助金がすぐ入る

採択発表後、実際に補助金が振り込まれるのは「補助事業を実施し、実績報告書を提出し、確定検査が完了した後」です。タイムラインとしては、採択発表から1〜2年後になることがほとんどです。資金繰りの観点では「後払い」であることを前提に、設備購入の資金を先に手当てしておく必要があります。

誤解4: 外注費やコンサル費だけで申請できる

機械装置費または建物費のいずれかが必須経費として含まれていなければ申請できません。ソフトウェア系やサービス系のビジネスを立ち上げる場合でも、何らかの形でシステム構築費や設備費を計画に含める必要があります。

誤解5: 補助金がもらえれば賃上げしなくていい

賃上げ要件は受給の条件ではなく「受給後に果たさなければならない義務」です。補助金を受け取ってから賃上げを怠った場合、数年後に返還請求が来ることになります。返還が発生した場合の経営への影響(資金繰りのひっ迫、計画の見直し)を事前に想定しておくことが必要です。

誤解6: 個人事業主は申請できない

個人事業主でも申請できます。ただし従業員が1人以上いることが条件です。一人親方・フリーランスの方は申請できませんが、従業員を雇用している個人事業主は制度上申請資格があります。ただし、法人と比較して財務書類の整備・事業計画の数値根拠の提示などで難しい部分が生じることがあります。

誤解7: 補助事業が赤字でも補助金はもらえる

補助金は「後払い」かつ「収益が出た場合は一部返還(収益納付)の可能性がある」という仕組みです。補助事業自体が期待した収益をあげられなかった場合でも、実績報告書を提出すれば補助金は受け取れます。しかし賃上げ要件が未達であれば返還義務が生じます。つまり「補助事業は成功しなかったが賃上げ要件だけは達成する」という難しい状況が生じる可能性もあります。

申請チェックリスト

申請前に確認すべき事項をチェックリスト形式で整理します。制度・様式は毎年変更されることがあるため、最終的には公式サイトと公募要領で確認してください。

申請資格の確認

GビズIDプライムの準備

新事業進出要件の確認

ワークライフバランス要件

事業場内最低賃金の確認

事業計画書の内容

採択後の準備

よくある質問(FAQ)

Q1. 個人事業主で従業員が1人いますが、家族(配偶者)です。家族従業員でも従業員数に含まれますか?

A. 「常時使用する従業員」の定義は、健康保険・厚生年金などの社会保険の加入状況や、雇用保険の被保険者であるかどうかなどで判断されます。家族従業員(同居の親族等)は、経営に参加しているとみなされる場合は「従業員数」に含まれないことが一般的です。一方で、一般の労働者と同様の条件で雇用している場合は含まれることがあります。最終的な判断は公募要領の定義と事前相談で確認することをおすすめします。

Q2. 補助金の申請は何回でもできますか?

A. 直前の補助金受給から16か月が経過していれば再申請できます。ただし、繰り返し申請して採択率が落ちているという報告もあります。なぜ前回採択されなかったのか(または採択された事業の結果はどうだったか)を踏まえた計画の改善が必要です。

Q3. 採択発表から補助金が振り込まれるまでどれくらいかかりますか?

A. 採択発表→交付申請→交付決定→補助事業実施(最長14か月)→実績報告→確定検査→補助金交付という流れを経るため、最短でも採択発表から1年〜1年半程度かかることが多いです。先行投資の資金は事業者が自己資金や融資で準備しておく必要があります。

Q4. 補助事業の途中で新型コロナや災害等で事業が続けられなくなった場合はどうなりますか?

A. 天災・感染症などの事業者責任外の理由による場合は、中小機構に報告した上で期間延長や補助金の一部免除が認められる可能性があります。ただし自動的に免除されるわけではなく、状況の証明と申請が必要です。早めに公式窓口に連絡することを優先してください。

Q5. 認定支援機関なしで申請できますか?

A. 金融機関から資金調達を予定していない場合は、認定支援機関との連携なしで申請できます。ただし事業計画書の作成は申請者自身が責任をもって行う必要があります。自力での申請が不安な場合は、商工会議所・商工会・よろず支援拠点(無料相談機関)の活用も選択肢です。

Q6. GビズIDプライムはどこで取得しますか?また個人事業主でも取得できますか?

A. GビズIDはデジタル庁が運営するサービス(https://gbiz-id.go.jp/)で取得します。個人事業主も取得可能で、GビズIDプライムは印鑑登録証明書と申請書の郵送、またはマイナンバーカードを使った電子証明書での確認によって発行されます。発行まで原則1週間程度かかるため、申請締切の少なくとも1か月前には手続きを始めてください。

Q7. 口頭審査は必ず受けなければなりませんか?

A. 第4回公募では一定の申請に対してオンライン口頭審査が実施されます。審査に呼ばれた場合、申請者本人(代表者等)が対応する必要があります。コンサルタントの同席や代行は認められていません。口頭審査が課せられた場合に答えられない状況(事業の詳細を把握していない・計画書の数値の根拠を説明できない等)は審査でマイナスになります。

Q8. 補助金を受け取った後に賃上げできなかった場合、すぐに全額返還が求められますか?

A. 段階的な返還です。目標成長率3.5%に対して実績が下回った場合は「補助金交付額×(1−実績/目標)」という計算式で一部返還が求められます。全額返還になるのは、従業員への賃上げ表明を怠った場合・実績成長率がゼロ以下の場合・特例を使って未達になった場合です。事業が予想より苦しくなった場合でも、賃上げ要件の達成状況は毎年確認・記録しておくことが大切です。

Q9. 統合後の新制度でも従業員ゼロ事業者は対象外になりますか?

A. 統合後の新制度(新事業進出・ものづくり補助金)については、2026年6月27日時点で公募要領が公表されていないため確定情報がありません。ただし現行の両制度(新事業進出補助金・ものづくり補助金)でいずれも従業員のいない個人事業主は申請できない仕組みになっているため、統合後も同様の要件が維持される可能性が高いと考えられます。確定情報は公募要領の公表後にご確認ください。

Q10. 事業再構築補助金で採択を受けた事業が完了した後、すぐに新事業進出補助金(または統合後の制度)に申請できますか?

A. 前回の補助事業の完了(実績報告書の受理・確定検査完了)から16か月が経過していることが条件です。事業再構築補助金の完了時期を確認し、その日付から16か月後のカレンダーを確認した上で、統合後の制度の公募スケジュールと照らし合わせてください。

出典一覧

本記事の執筆にあたって参照した主な情報源を以下に示します。各情報は2026年6月27日時点のものです。制度は随時改訂されるため、申請前には必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。

  1. 中小企業新事業進出補助金 公式サイト(中小企業基盤整備機構)

https://shinjigyou-shinshutsu.smrj.go.jp/

確認日: 2026年6月27日

  1. 新事業進出補助金の第4回公募申請受付開始(中小企業庁)

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/hojyokin/kobo/2026/260519001.html

確認日: 2026年6月27日

  1. 新事業進出補助金(経済産業省 ミラサポplus)

https://mirasapo-plus.go.jp/subsidy/shinjigyou/

確認日: 2026年6月27日

  1. 新事業進出補助金 電子申請システム(中小機構)

https://shinjigyou-shinshutsu.smrj.go.jp/entry_application

確認日: 2026年6月27日

  1. 新事業進出補助金 資料ダウンロード(中小機構)

https://shinjigyou-shinshutsu.smrj.go.jp/downloads

確認日: 2026年6月27日

  1. 新事業進出指針の手引き(中小企業庁・令和7年11月1.1版)

https://shinjigyou-shinshutsu.smrj.go.jp/docs/shinjigyou_shishin_tebiki.pdf

確認日: 2026年6月27日

  1. GビズID(デジタル庁)

https://gbiz-id.go.jp/

確認日: 2026年6月27日

  1. 認定経営革新等支援機関(中小企業庁)

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kakushin/nintei/

確認日: 2026年6月27日

  1. 両立支援のひろば(厚生労働省)

https://ryouritsu.mhlw.go.jp/

確認日: 2026年6月27日

  1. 新事業進出補助金とものづくり補助金の統合に関する情報(各種解説サイトより)

https://hojyokin-portal.jp/columns/shinjigyo_monodukuri

確認日: 2026年6月27日

免責事項

本記事は、制度に関する一般的な情報提供を目的として作成されています。以下の点をご理解の上でお読みください。

本記事の内容は2026年6月27日時点の公開情報に基づいており、その後の制度改正・公募要領の変更・行政判断によって実際の扱いが異なる場合があります。金額・要件・申請期限は必ず公式サイトの最新版でご確認ください。

本記事は、補助金申請の代行・申請書類の作成代行・手続きの代行を行うものではありません。社会保険労務士法の業務に関連する雇用・賃金・社会保険の個別判断が必要な場合は、社会保険労務士にご相談ください。税務・財務に関する個別判断が必要な場合は、税理士・公認会計士にご相談ください。行政手続きの代行が必要な場合は、行政書士にご相談ください。

本記事に記載された計算例・試算はすべて説明のための参考値であり、個別の申請における補助金額や返還額を保証するものではありません。

本記事は採択を保証するものではありません。採択審査は中小機構が独自の基準で行うものであり、本記事の内容に従って申請した場合であっても採択されることを約束するものではありません。