従業員のいる個人事業主向け 雇用の助成金入門(キャリアアップ助成金・業務改善助成金 2026年版)

本記事は2026年6月27日時点の公開情報に基づきます。金額・要件・受付期間は毎年改定されるため、申請前に必ず公式サイトまたは管轄の都道府県労働局・ハローワークで最新情報をご確認ください。

この記事が整理すること

従業員を雇っている個人事業主の方が、雇用に関する助成金を調べ始めると、最初に感じる混乱があります。「キャリアアップ助成金」「業務改善助成金」という名前を見かけたものの、自分が使えるのかどうか、どこに申請すればよいのか、何から準備すればよいのかがわからない、というものです。

本記事では、この2つの助成金を中心に、個人事業主の立場から整理します。対象となる読者は、アルバイトやパート、契約社員など非正規雇用の従業員を1人以上雇っており、将来的に正社員化や賃上げを検討している個人事業主の方です。

この記事で整理する内容は、次の通りです。

まず、個人事業主が雇用の助成金を使うために必要な前提条件、とくに雇用保険の適用事業所としての届出と社会保険の任意適用・強制適用の仕組みについて説明します。次に、キャリアアップ助成金(正社員化コースと処遇改善支援コース群)の制度の全体像と2026年度の主な改正点を解説します。続いて、業務改善助成金の仕組みと2026年度の変更点(30円コース廃止・申請受付の後ろ倒し・一般車両の除外)についても整理します。最後に、助成金申請に共通する要件・よくある失敗例・社会保険労務士法の業務範囲についても説明します。

本記事は制度の情報提供を目的としており、申請書類の作成代行・手続き代行は行いません。これらは社会保険労務士法に基づく社会保険労務士の独占業務です。申請の実務については、社会保険労務士または管轄の都道府県労働局・ハローワークにご相談ください。

制度の全体像

本記事で扱う2つの助成金の概要を最初に整理します。

キャリアアップ助成金は、非正規雇用の従業員(有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者)の処遇を改善した事業主に対して支給される助成金です。厚生労働省が実施し、申請窓口は事業所の所在地を管轄する都道府県労働局またはハローワークです。主なコースは「正社員化コース」(パートや契約社員を正社員に転換した場合)と「処遇改善支援コース群」(賃金規定の改定・共通化、賞与・退職金制度の導入、労働時間の延長等)です。

業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げ、生産性向上に資する設備投資等を行った中小事業主に対して支給される助成金です。厚生労働省が実施し、申請窓口は事業所の所在地を管轄する都道府県労働局雇用環境・均等部(室)です。

2つの助成金を比較すると、次のように整理できます。

項目キャリアアップ助成金業務改善助成金
目的非正規雇用の処遇改善最低賃金引上げと設備投資の支援
主な対象正社員化・賃金規定改定等を行った事業主事業場内最低賃金を引き上げた中小事業主
最大助成額(目安)1人80万円(正社員化コース中小企業)600万円(90円コース10人以上規模)
申請窓口都道府県労働局・ハローワーク都道府県労働局雇用環境・均等部(室)
2026年度の主な変更情報公表加算20万円新設30円コース廃止・9月受付開始・一般車両除外
個人事業主の利用可否可(雇用保険適用事業所であること)可(中小企業に該当すること・労働保険加入)

この2つの助成金は、同じ年度に両方申請することは原則可能です。ただし、同一の設備投資や同一の賃金引上げについて重複して申請することはできません。続きの「よくある誤解」で詳しく説明します。

【無料サンプル】正社員化コースで「キャリアアップ計画書を転換前日までに提出する」とはどういうことか——1ケースを最後まで全部見せます

キャリアアップ助成金の正社員化コースを活用しようとする個人事業主の方が最初に直面するのは、「キャリアアップ計画書を転換前日までに提出しなければならない」という要件です。これは頭では理解できても、実際にどう動けばよいか見えにくい点です。ここでは1ケースを通じて、その意味と実務上の落とし穴を最後まで具体的に解説します。

前提となる状況

次のような個人事業主のケースを想定します。

飲食店を営む個人事業主(青森県在住)。従業員としてアルバイトを3名雇用しており、そのうちの1名(田中さん・入社4年目・週30時間勤務の有期雇用)を、来年4月1日付けで正社員に転換することを決めました。田中さんは「雇入れから3年以上の有期雇用労働者」に当たるため、キャリアアップ助成金の「重点支援対象者」に該当し、中小企業の場合の助成額は有期雇用→正規雇用転換で1人80万円になります。

ステップ1: まず「前提条件が整っているか」を確認する

助成金の申請に入る前に、次の3つが整っているかを確認します。

第1に、雇用保険の適用事業所になっているかどうかです。従業員を1人でも雇用したら、原則としてハローワークに「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」を提出していなければなりません。農林水産業の一部を除き、個人事業主でも労働者を雇えば適用事業所になります。田中さんが週20時間以上勤務しており31日以上の雇用見込みがあるなら、田中さん自身も雇用保険の被保険者のはずです。未届けの場合は、まずこの手続きを完了させることが大前提です。

第2に、就業規則(または就業規則に準ずるもの)が整備されているかどうかです。正社員転換の規定が就業規則に明記されていなければなりません。常時10人以上の労働者を雇用する事業場は就業規則の作成・届出が義務ですが、10人未満であっても、キャリアアップ助成金の申請では就業規則等への転換規定の明記が求められます。

第3に、「労働関係法令を遵守していること」です。未払い残業代が発生していたり、雇用保険未加入の従業員がいたりすると、審査の過程で問題が発覚し申請が停止されることがあります。

ステップ2: キャリアアップ計画書を作成・提出する

田中さんの正社員転換日は4月1日と決まっています。キャリアアップ助成金では、転換を実施する日の前日までに「キャリアアップ計画書」を管轄の都道府県労働局(またはハローワーク)に提出しなければなりません。つまり3月31日までに提出が必要です。

キャリアアップ計画書は、厚生労働省が定める様式(様式第1号)を使います。記載する内容は、計画期間・事業所情報・雇用している有期雇用労働者等の状況・実施する取組の内容(正社員化コースを選択する旨)などです。作成にあたっては、事業場の労働組合または労働者の過半数を代表する者の意見を聴いた上で作成する必要があります。

提出方法は、窓口持参・郵送・電子申請のいずれかが使えます。

ここで最も重要な点を強調します。「転換前日」という期限を1日でも過ぎると、その転換については助成金を受けることができません。救済の手続きはなく、やり直しもできません。転換の予定が決まったらすぐに計画書の作成に着手することが、申請成功の第一条件です。

ステップ3: 転換(正社員化)を実施する

3月31日に計画書の提出が完了したら、4月1日付けで田中さんを正社員に転換します。このとき、転換後の労働条件(基本給・手当・所定労働時間等)が雇用契約書や就業規則に明記されている必要があります。

また、転換前後の賃金を確認します。キャリアアップ助成金では、正社員転換後6か月分の賃金を支払った後に申請できますが、その際に「転換前6か月と比較して3%以上賃金が増額されていること」が要件の1つです。転換前の月給が20万円であれば、転換後の月給は最低でも20万6,000円以上が必要です。この3%の要件を転換前に確認しておかないと、後から要件を満たしていないことが判明するリスクがあります。

ステップ4: 転換後6か月分の賃金を支払う

4月1日から9月30日までの6か月分の賃金を支払います。ここで注意が必要なのは、6か月の間に賃金の未払いや遅延があると要件を満たさなくなる可能性があることです。賃金台帳を正確に記録し続けることが重要です。

ステップ5: 支給申請をする

6か月分の賃金を支払った翌日(10月1日)から2か月以内、つまり11月30日までに、管轄の都道府県労働局またはハローワークに支給申請書を提出します。

このケースで田中さんが重点支援対象者(雇入れから3年以上の有期雇用労働者)に該当するため、中小企業の場合の助成額は1人80万円です。

申請に必要な主な書類は次の通りです。

支給申請書(所定の様式)、労働者名簿、賃金台帳(転換前6か月分+転換後6か月分)、タイムカード等の出勤簿、転換前の雇用契約書、転換後の雇用契約書(正規雇用であることが確認できるもの)、キャリアアップ計画書の控え(労働局の受理印があるもの)です。これらの書類は、後述の続きで正式名称・取得先・整備のポイントを詳しく解説します。

このケースでわかる「手順の核心」

このケースを通じて明らかになるのは、キャリアアップ助成金の正社員化コースは「後払い・事後申請」の助成金だという点です。転換前に計画書を提出し、転換後に6か月分の賃金を支払ってからでないと申請できません。助成金80万円が振り込まれるのは、早くても申請から数か月後です。

初期費用(転換後の正社員に対する賃金・社会保険料の事業主負担分)はすべて自己負担が先行します。キャッシュフローの計画を立てた上で取り組むことが重要です。

ここから先は、申請に直結する実務です。

個人事業主が雇用の助成金を使うための前提条件ロードマップ

助成金の申請を始める前に、いくつかの前提条件を整えなければなりません。これを怠ると、書類を作っても審査で止まります。このセクションでは、個人事業主に特有の確認事項と手続きの流れを時系列で整理します。

前提条件1: 雇用保険の適用事業所になっていること

労働者を1人でも雇用した時点で、原則としてその事業場は雇用保険の適用事業所になります(農林水産業で常時5人未満の場合など一部例外あり)。

適用事業所になると、事業主は次の2つを管轄のハローワークに届け出なければなりません。

1つ目は「雇用保険適用事業所設置届」です。提出期限は、労働者を雇用した日の翌日から10日以内です。添付書類として、法人の場合は登記簿謄本・法人番号指定通知書等が必要です。個人事業主の場合は業種・所在地・従業員数がわかる書類(営業許可証、事業実態確認書類等)が必要になることが多いため、管轄のハローワークに事前に確認することをおすすめします。

2つ目は「雇用保険被保険者資格取得届」です。提出期限は雇用の翌月10日までです。従業員が週所定20時間以上勤務しており31日以上の雇用見込みがある場合、その従業員は雇用保険の被保険者になります。

また、雇用保険の加入に先立って「労働保険保険関係成立届」を労働基準監督署に提出する必要があります。これにより労災保険と雇用保険の保険関係が成立します。正確な手順は次の通りです。

【手順1】労働基準監督署に「保険関係成立届」を提出(保険関係が成立した日の翌日から10日以内)

【手順2】都道府県労働局または日本銀行(代理店等)に労働保険概算保険料申告書を提出し概算保険料を納付

【手順3】ハローワークに「雇用保険適用事業所設置届」を提出(保険関係成立届の提出後)

【手順4】ハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出

既に何年も従業員を雇っているが保険に加入していない、という場合は遡及加入のリスクがあります。雇用保険・労働保険に未加入の状態では、キャリアアップ助成金も業務改善助成金も申請できません。まずこの基盤を整えることが最優先です。

前提条件2: 社会保険(健康保険・厚生年金)の強制適用か任意適用かを確認する

個人事業主が社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入しなければならないかどうかは、従業員数と業種によって異なります。

現行(2026年時点)の強制適用の条件は、「常時5人以上の従業員を雇用している」かつ「法定17業種に該当する事業」です。法定17業種には、製造業・建設業・鉱業・電気・ガス・水道業・運輸業・貨物取扱業・清掃・整理・整頓業、旅館・料理飲食店・宿泊業(客数一定以上)・理容・美容業、浴場業、映画・演劇業、医療・保健衛生業・通信・報道業・社会福祉事業・弁護士・税理士・社会保険労務士等の士業、その他政令で定める業種が含まれます。

従業員数による区分は次のように整理できます。

従業員数現行(2026年)2029年10月以降
4人以下全業種で任意適用(従業員の半数以上の同意で任意加入可)変更なし(4人以下は引き続き任意適用)
5人以上9人以下法定17業種のみ強制適用(それ以外は任意適用)全業種で強制適用に変更
10人以上法定17業種のみ強制適用(それ以外は任意適用)全業種で強制適用に変更

2029年10月には業種制限が撤廃され、常時5人以上の従業員を雇う個人事業所はすべて強制適用になります。これは、今後数年のうちに社会保険料の事業主負担が発生する事業主が大幅に増えることを意味します。

任意適用の手続きは、従業員の半数以上の同意を得た上で、事業主が年金事務所に申請します。任意適用事業所になると、事業主も含めて健康保険・厚生年金に加入することができます。なお、国民健康保険や国民年金から移行する場合は、年金事務所への届出のほか、国民健康保険の脱退手続きも必要です。

社会保険への加入は、キャリアアップ助成金の直接の要件ではありませんが、短時間労働者が社会保険に適用された場合に労働時間を延長する「短時間労働者労働時間延長支援コース」を活用する場合には関連します。

前提条件3: 就業規則と賃金台帳・労働者名簿を整備する

就業規則は常時10人以上の労働者を使用する事業場で作成義務がありますが、キャリアアップ助成金では10人未満の事業場でも「就業規則等(またはこれに準ずるもの)」に正社員転換規定や賃金規定が明記されていることが求められます。なければ作成が必要です。

賃金台帳は従業員ごとに賃金計算期間・賃金額・控除額・実労働時間・時間外労働時間等を記録したものです。労働基準法に基づく法定帳簿であり、助成金の申請・審査においても重要な書類となります。

労働者名簿は従業員の氏名・生年月日・住所・雇用年月日等を記載した法定帳簿です。この2つは、助成金の申請時に提出または提示が求められます。

個人事業主レーン: 前提条件の時系列チェックリスト

助成金申請に向けた準備を時系列で整理すると、次のようになります。

【第1フェーズ: 雇用と同時に行うもの(雇用開始直後)】

□ 労働保険保険関係成立届を労働基準監督署に提出(雇用から10日以内)

□ 概算労働保険料を申告・納付

□ ハローワークに雇用保険適用事業所設置届を提出

□ ハローワークに雇用保険被保険者資格取得届を提出(雇用翌月10日まで)

【第2フェーズ: 事業の基盤を整える(早期に実施)】

□ 社会保険の強制・任意適用の判定(従業員数・業種を確認)

□ 任意適用を希望する場合: 従業員の半数以上の同意を取得→年金事務所に申請

□ 就業規則(または準ずる規程)の作成: 正社員転換規定・賃金規定を明記

□ 賃金台帳・労働者名簿・出勤簿(タイムカード等)の整備

【第3フェーズ: 助成金申請に向けた準備(転換・取組の前)】

□ キャリアアップ助成金を使う場合: 転換予定日の前日までにキャリアアップ計画書を提出

□ 業務改善助成金を使う場合: 設備投資の「交付決定」より前に設備の発注・契約をしない

□ 賃金引上げ・転換後の賃金設定を事前に確認(3%要件、転換後との賃金差)

このチェックリストは制度の基本的な流れを示したものです。実際の手続きでは様式・添付書類・期限等が状況によって異なるため、管轄のハローワーク・都道府県労働局に事前確認することをおすすめします。

キャリアアップ助成金の全体像(2026年度)

制度の目的と対象者

キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者(有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者)の企業内でのキャリアアップを促進するために、正社員化や処遇改善の取り組みを行った事業主を支援する制度です。厚生労働省が実施しており、個人事業主でも対象になります。

申請窓口は、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局またはハローワークです。

2026年度(令和8年度)のコース一覧

令和8年度(2026年4月8日現在)のキャリアアップ助成金には、以下のコースがあります。

【正社員化支援】

正社員化コース: 有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した場合の助成。多様な正社員(勤務地限定・職務限定・短時間正社員)への転換も対象。

障害者正社員化コース: 障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換した場合の助成。

【処遇改善支援】

賃金規定等改定コース: 有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し適用した場合の助成。

賃金規定等共通化コース: 有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規定等を新たに規定・適用した場合の助成。

賞与・退職金制度導入コース: 有期雇用労働者等を対象に賞与・退職金制度を導入し、支給または積立を実施した場合の助成。

短時間労働者労働時間延長支援コース: 短時間労働者の労働時間を延長した場合の助成。

正社員化コース:詳細

正社員化コースは、キャリアアップ助成金の中核となるコースです。

助成額(令和8年度・中小企業の場合、1人当たり)は次の通りです。

転換区分重点支援対象者左記以外
有期雇用→正規雇用80万円40万円
無期雇用→正規雇用40万円20万円

大企業の場合は、重点支援対象者60万円/30万円、左記以外30万円/15万円となります。

制度新設に伴う加算もあります。「正社員転換等制度を新たに規定し、当該区分に転換等した場合」に1事業所20万円(大企業15万円)が加算されます。さらに多様な正社員制度(勤務地限定・職務限定・短時間正社員のいずれか1つ以上)を新たに規定した場合は1事業所40万円(大企業30万円)の加算があります。

2026年度に新設された情報公表加算があります。正規雇用労働者への転換等に係る所定の情報を、自ら管理するウェブサイトまたは「しょくばらぼ」(厚生労働省の職場情報総合サイト)に公表した場合に、1事業所20万円(大企業15万円)が加算されます。

重点支援対象者(★)の3要件

重点支援対象者に該当するかどうかは、1人当たりの助成額に大きく影響します(中小企業で40万円差)。3つの区分があります。

区分a: 雇入れから3年以上の有期雇用労働者が該当します。長期勤務のアルバイト・パートを正社員化するケースが典型例です。

区分b: 雇入れから3年未満の有期雇用労働者で、次の2つの両方に該当する方です。「過去5年間に正規雇用労働者であった期間が合計1年以下」であること、かつ「過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていないこと」です。フリーターや非正規雇用を繰り返してきた方が典型例です。

区分c: 派遣労働者、母子家庭の母等、人材開発支援助成金の特定訓練修了者です。

個人事業主が雇用している従業員がa~cのいずれかに該当するかどうかを、転換の前に確認しておくことが大切です。

正社員化コースの主要要件

助成を受けるためには、次の要件をすべて満たす必要があります。

第1に、キャリアアップ計画書の事前提出です。各コースの実施日(正社員転換日)の前日までに管轄の都道府県労働局またはハローワークに提出しなければなりません。後出しは一切認められません。

第2に、転換後の賃金引上げ要件です。正社員転換後6か月間の賃金総額が、転換前6か月間の賃金総額と比較して3%以上増額されていることが必要です。

第3に、6か月分の賃金支払いです。転換後6か月分の賃金を実際に支払ってから申請できます。

第4に、雇用保険の被保険者であることです。対象労働者は転換前から雇用保険の被保険者でなければなりません。

第5に、新規学卒者の除外です。雇入れの日から起算して雇用期間が1年未満の新規学卒者は支給対象外です。

キャリアアップ計画書の作成と提出:落とし穴を避けるために

キャリアアップ計画書は、様式第1号を使います。厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできます。

記載項目は、計画期間(3年以上5年以内)・計画を実施する事業所・雇用している非正規雇用労働者の現状・どのコースをどの時期に実施するかの計画内容などです。

作成にあたって最も重要な実務上の注意点は2つあります。

1つ目は、計画書を「実施日の前日まで」に管轄機関が受理する必要があるという点です。郵送の場合は必着を確認してください。書留等の追跡できる方法で送ることを検討してください。計画書を出したつもりでも未着・不受理だったケースがあり、その場合は助成金を受けられません。

2つ目は、複数のコースを同一計画書に盛り込むことができる点と、その一方で各コースの実施前日に間に合わせなければならない点です。たとえば正社員化コースと賃金規定等改定コースを同時に使う場合でも、それぞれの実施日の前日が計画書の提出期限になります。早めに相談し、計画書を作成することをおすすめします。

処遇改善支援コース群:賃金規定等改定コース

賃金規定等改定コースは、有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、実際にその規定を適用させた場合に助成されます。

1人当たりの助成額(中小企業)は、改定率によって段階的に設定されています。

賃金改定率中小企業 1人当たり
3%以上4%未満4万円
4%以上5%未満5万円
5%以上6%未満6.5万円
6%以上7万円

加算があります。「職務評価」の手法を活用して増額改定を実施した場合は1事業所20万円(大企業15万円)が加算されます。また「有期雇用労働者等の昇給制度を新たに設けた場合」も1事業所20万円(大企業15万円)の加算があります。

処遇改善支援コース群:賃金規定等共通化コース

賃金規定等共通化コースは、有期雇用労働者等と正規雇用労働者との「共通の賃金規定等」を新たに規定し、適用した場合の助成です。

助成額は、1事業所60万円(大企業45万円)です。正規・非正規を同じ賃金表で処遇する仕組みを整えることで、非正規雇用労働者の処遇改善につながる取り組みです。

処遇改善支援コース群:賞与・退職金制度導入コース

賞与・退職金制度導入コースは、有期雇用労働者等を対象に賞与または退職金制度を導入し、実際に支給または積立を実施した場合の助成です。

助成額は、賞与または退職金制度のいずれかを導入した場合、1事業所当たり40万円(大企業30万円)です。これに加えて、賞与と退職金制度を同時に導入した場合は16.8万円(大企業12.6万円)が加算されます。つまり、両制度を同時に導入した中小企業は1事業所当たり56.8万円が受けられる計算になります。いずれの場合も、制度を就業規則等に明文化した上で、実際に支給または積立を実施することが要件です。

処遇改善支援コース群:短時間労働者労働時間延長支援コース

短時間労働者労働時間延長支援コースは、週の所定労働時間が短い非正規労働者の労働時間を延長した場合の助成です。特に、社会保険の適用となるよう労働時間を延長した従業員に対して適用されるケースで活用されます。

1年目の助成額(1人当たり・延長幅別)は、小規模企業・中小企業・大企業の3区分で設定されています。

1年目の延長幅賃金引上げ率の要件小規模企業中小企業大企業
5時間以上なし50万円40万円30万円
4時間以上5時間未満基本給5%以上増額50万円40万円30万円
3時間以上4時間未満基本給10%以上増額50万円40万円30万円
2時間以上3時間未満基本給15%以上増額50万円40万円30万円

この表の読み方が、このコースを使いこなす上で最も重要なポイントです。助成額そのものは延長幅にかかわらず一律(小規模企業50万円・中小企業40万円・大企業30万円)です。ただし、延長幅が小さくなるほど、あわせて求められる基本給の引上げ率が高くなります。5時間以上延長すれば賃上げは不要ですが、4時間以上5時間未満なら基本給5%以上、3時間以上4時間未満なら10%以上、2時間以上3時間未満なら15%以上の増額が条件になります。つまり「労働時間をあまり延ばせない場合は、その分しっかり賃上げすれば同じ助成額を確保できる」という仕組みです。自分の事業場で実現可能な延長幅と賃上げ率の組み合わせを、転換・延長の前に確認しておくことが大切です。

1年目の取り組み後に、2年目として「さらに2時間以上延長」または「基本給5%以上増加・昇給・賞与・退職金制度の適用」を行った場合に、さらに助成が加算されます。中小企業の2年目の加算は1人当たり20万円です。

キャリアアップ助成金の申請フローと必要書類

申請フローの全体像

キャリアアップ助成金の申請は、大きく3つのフェーズに分かれます。

フェーズ1(事前): キャリアアップ計画書の提出(実施日前日まで)

フェーズ2(実施): 各コースの取り組みの実施(正社員化・賃金改定等)、および取り組み後6か月分の賃金の支払い

フェーズ3(申請): 取り組み後6か月の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内に支給申請

審査・支給決定は申請後に都道府県労働局またはハローワークが行います。

正社員化コースで準備すべき書類

書類の正式名称と取得先をまとめます。ただし、様式や添付書類の詳細は年度によって変更されることがあるため、申請前に厚生労働省のウェブサイトまたは管轄機関で最新の様式を確認してください。

【キャリアアップ計画書関係】

キャリアアップ計画書(様式第1号): 厚生労働省ウェブサイトからダウンロード。申請様式ダウンロードページ(令和8年4月8日以降の取組に係る様式)を使用する。

キャリアアップ計画書(変更届)(様式第2号): 計画内容を変更する場合に提出。

【支給申請書関係】

キャリアアップ助成金支給申請書(様式第3号): 厚生労働省ウェブサイトからダウンロード。

正社員転換等確認書類: 転換前後の雇用契約書(またはその写し)。転換前に「有期雇用・短時間勤務であること」が確認できること、転換後に「無期雇用・正規雇用労働者であること」が確認できることが必要。

労働者名簿: 法定帳簿。氏名・生年月日・住所・雇用年月日・担当業務等を記載。

賃金台帳(転換前6か月分・転換後6か月分): 法定帳簿。月単位で賃金額・支払月日・時間外労働時間・各種控除額等を記載。転換後賃金が転換前比3%以上増額していることをここで確認できなければなりません。

出勤簿またはタイムカード(転換前6か月・転換後6か月): タイムカードが最も確実ですが、ICカードの打刻記録等でも可です。手書きの出勤簿の場合は改ざん疑念が起きやすいため注意が必要です。

就業規則(正社員転換規定の部分): 転換規定が就業規則等に明記されていることを確認。

重点支援対象者に関する確認書類(a区分の場合): 雇用契約書の写しで雇入れから3年以上が確認できればよい場合が多いです。b区分の場合は職歴等の申告書が必要になることがあります。管轄機関に確認を。

【申請時の一般的な注意事項】

書類は必ずコピーを手元に残してください。原本の提出を求められる書類と写しでよい書類が混在するため、担当官に確認した上で整理することをおすすめします。書類の不備や不足があると補正対応が発生し、支給決定が遅れます。

業務改善助成金の全体像(2026年度)

制度の目的と対象者

業務改善助成金は、事業場内で最も低い時間当たり賃金(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げた上で、生産性向上に資する設備投資等を行った中小事業主・小規模事業者を支援する制度です。

注意点として、業務改善助成金の申請単位は「事業場」です。個人事業主が複数の事業場(工場Aと事務所Bなど)を持っている場合、それぞれ別々に申請できます。

対象事業者の要件は次の通りです。

「事業場内最低賃金」とは何か

業務改善助成金を理解するために最初に把握すべき概念が「事業場内最低賃金」です。

事業場内最低賃金は、雇入れ後6か月を経過した雇用保険被保険者の従業員の中で、最も低い時間当たり賃金のことです。最低賃金法と同様の方法で計算します。精皆勤手当・通勤手当・家族手当は計算から除外します。

たとえば、青森県(2025年10月時点の地域別最低賃金: 953円 ※令和7年11月21日発効後は1,029円)で事業を営む個人事業主が、パートタイム従業員(時給1,030円)を1名雇用している場合、その事業場の事業場内最低賃金は1,030円です。

業務改善助成金は、この事業場内最低賃金を「コースで定める金額以上」引き上げた上で、設備投資等を行った費用の一部を助成する制度です。

2026年度のコース

令和8年度の業務改善助成金は3つのコースがあります。令和7年度まであった30円コースは令和8年度から廃止されており、最低引上げ額が50円に引き上げられています。

コース引き上げる額備考
50円コース50円以上最小コース(令和8年度は30円廃止)
70円コース70円以上
90円コース90円以上最大助成上限600万円

助成率

事業場内最低賃金の水準によって助成率が異なります。

事業場内最低賃金助成率
1,050円未満4/5
1,050円以上3/4

事業場内最低賃金が低い事業場ほど助成率が高く設定されているのは、賃金水準が低い事業場ほど支援を手厚くするという趣旨からです。

助成上限額(コース・労働者数・規模別)

助成上限額はコース・引き上げ対象労働者数・事業場規模によって異なります。規模30人未満の事業場は、規模30人以上と比べて特例的に上限が引き上げられている区分があります。

【50円コース(コース別上限額の例)】

引き上げ対象労働者数通常規模30人未満の特例
1人30万円40万円
2~3人40万円70万円
4~5人70万円70万円
6~7人90万円90万円
8人以上110万円110万円
10人以上(特例事業者のみ)130万円130万円

【70円コース(コース別上限額の例)】

引き上げ対象労働者数通常規模30人未満の特例
1人40万円50万円
2~3人50万円100万円
4~5人130万円130万円
6~7人180万円180万円
8人以上230万円230万円
10人以上(特例事業者のみ)300万円300万円

【90円コース(コース別上限額の例)】

引き上げ対象労働者数通常規模30人未満の特例
1人90万円100万円
2~3人150万円240万円
4~5人270万円270万円
6~7人360万円360万円
8人以上450万円450万円
10人以上(特例事業者のみ)600万円600万円

「10人以上」の上限額区分は、「特例事業者」(賃金要件または物価高騰等要件に該当する事業者)が10人以上の労働者の賃金を引き上げる場合に対象になります。

助成金額の計算方法

助成される金額は、「設備投資等にかかった費用 × 助成率」と「助成上限額」のいずれか低い方の金額です。

計算例として、事業場内最低賃金1,040円の事業場で8名の労働者を90円コース(1,130円まで)引き上げ、設備投資費用が600万円の場合を考えます。助成率は4/5(1,040円<1,050円のため)で、90円コース・8人以上の助成上限額は450万円です。

600万円 × 4/5 = 480万円

480万円 > 450万円(助成上限額)

したがって、助成金は450万円となります。

業務改善助成金の対象経費

業務改善助成金の対象経費は、「生産性の向上、労働能率の増進に資する」と認められる設備投資等です。

具体的な対象経費の例は次の通りです。

物価高騰等要件(事業場内最低賃金1,050円未満・かつ直近6か月平均利益率が前年度比3%ポイント以上低下)に該当する「特例事業者」の場合は、パソコン・タブレット・スマートフォンなどの端末と周辺機器の「新規導入」も対象になります。

助成対象外経費

対象外となる主な経費も重要です。誤って対象外の経費を申請した場合、審査で認められず助成額が減額されることがあります。

一般車両(自動車)は、令和7年度まで「特例事業者」の場合は一部助成対象とされていましたが、令和8年度からは特殊用途自動車(8ナンバー車)以外の自動車は対象外となりました。これは業務改善助成金を申請する際に特に注意が必要な変更点です。

業務改善助成金の申請スケジュール(2026年度)

令和8年度の業務改善助成金は、申請受付が9月1日から開始されます。令和7年度は4月から受付が行われましたが、令和8年度は半年ほど後ろ倒しになっています。

イベント時期
申請受付開始令和8年9月1日
申請期限地域別最低賃金の発効日前日または11月30日のいずれか早い日
賃金引上げ完了期限地域別最低賃金の発効日前日
事業完了期限(設備導入・支払)令和8年度の1月31日(やむを得ない場合3月31日まで延長可)

地域別最低賃金は例年10月頃に改定(発効)されるため、申請期限は概ね9月下旬から10月上旬頃になる見込みです(都道府県によって発効日が異なります)。

受付開始前(4月〜8月)にやるべき準備

業務改善助成金の申請受付が9月1日開始と決まっている以上、4月から8月の間に準備を進めることで申請をスムーズに進めることができます。

この期間にやるべき準備の具体的なリストは次の通りです。

【4〜5月にやること】

□ 事業場内最低賃金の現状確認: 雇入れ後6か月以上の雇用保険被保険者の中で、最も低い時間当たり賃金を算出する。精皆勤手当・通勤手当・家族手当を除いて計算する

□ 地域別最低賃金との差額確認: 自分の都道府県の地域別最低賃金と事業場内最低賃金の差額を確認し、申請できるコース(50円・70円・90円)を把握する

□ 導入したい設備の検討開始: 生産性向上に資する設備は何か、業種・業務に合ったものを複数の業者から情報収集する

□ 中小企業に該当するかの確認: 業種ごとの資本金上限・従業員数上限を確認する(みなし大企業は対象外)

【6〜7月にやること】

□ 設備の見積もり取得: 導入予定の設備について、必ず2社以上から見積もりを取る(見積比較は審査での要求事項。1者見積もりの場合は理由書が必要)

□ 助成金額のシミュレーション: 見積もり金額 × 助成率と、助成上限額を比べてどちらが少ないかを試算する

□ 賃金引上げ計画の策定: 何人の従業員の賃金を何円引き上げるか、いつまでに就業規則等に定めるかの計画を作成する

□ 就業規則等の整備: 引上げ後の賃金が明記された就業規則または賃金規程を準備する。10人未満の場合は「就業規則に準ずるもの」でも可(管轄機関に確認を)

【8月にやること】

□ 申請書類の準備: 厚生労働省ウェブサイトから最新の申請様式をダウンロードし、記載内容を確認する

□ 問い合わせ・相談: 管轄の都道府県労働局に事前相談し、申請内容が要件を満たすか確認する

□ 設備発注のタイミングを確認: 交付決定前に設備を発注・契約することは認められません。申請→交付決定→発注・契約→設備導入という順序を守ることが不可欠です

業務改善助成金の申請フロー

業務改善助成金の申請フローは次の順序で進みます。

【ステップ1: 交付申請】

事業場の所在地を管轄する都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に、所定の様式で交付申請書と事業実施計画書を提出します。申請受付は9月1日からです。

【ステップ2: 交付決定】

労働局が審査し、交付決定通知が届きます。この通知を受け取るまで、設備の発注・契約・代金の支払いをしてはなりません。交付決定前に行った設備導入・支払いは助成対象外です。

【ステップ3: 事業の実施】

交付決定後に、設備投資の発注・契約・納品・代金支払いを行い、賃金引上げを実施します。賃金引上げは地域別最低賃金の発効日前日までに完了させる必要があります。また、複数回に分けての引上げは認められません(一度に引き上げる必要あり)。

【ステップ4: 事業実績報告と助成金支給申請】

事業完了後(原則として1月31日まで)に、労働局に事業実績報告書と助成金支給申請書を提出します。

【ステップ5: 助成金の支払い】

報告内容の審査後、適正と認められれば助成金が支払われます。

キャリアアップ助成金と業務改善助成金の併用可否

同じ年度に両方使えるか

キャリアアップ助成金と業務改善助成金は、原則として同じ年度に両方を申請することができます。2つの助成金の目的・対象・申請窓口がそれぞれ異なるからです。

ただし、同一の支出や取り組みに対して重複して申請することはできません。たとえば、業務改善助成金で助成を受けた設備投資についてキャリアアップ助成金の申請に含めることはできません。また、同一の賃金引上げをキャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)と業務改善助成金の両方に活用することには制限がある場合があります。

具体的な併用の組み合わせとしては、次のようなパターンが想定されます。

パターン1: 長期アルバイトを正社員化(キャリアアップ助成金・正社員化コース)しながら、同時期に新しい予約管理システムを導入して事業場内最低賃金を70円引き上げる(業務改善助成金・70円コース)。この場合、設備投資と正社員化は別の取り組みであるため、両方に申請することは原則可能です。

パターン2: 賃金規定等改定コースで非正規従業員の賃金を5%引き上げる計画と、業務改善助成金で同じ従業員の事業場内最低賃金を60円引き上げる計画が重なる場合。同一の賃金引上げについての取り扱いは制度によって異なるため、管轄機関に事前に確認することをおすすめします。

相乗効果のイメージ

両助成金を組み合わせると、次のような相乗効果が生まれます。

業務改善助成金で省力化設備を導入して生産性を上げることで、既存の非正規従業員の業務負担が軽減されます。その状況の中でキャリアアップ助成金の正社員化コースを活用してパート従業員を正社員に転換することで、従業員の定着率向上と助成金の受給を両立できます。

ただしあくまでこれは組み合わせの考え方の例であり、実際に両方を申請できるかどうかは個別の事情・申請内容によります。管轄の都道府県労働局またはハローワークで事前に確認することを強くおすすめします。

不支給・返還リスク:よくある失敗例と事前セルフチェック

助成金の申請は、要件を満たしていれば必ず支給されるものではありません。また、一度受け取った助成金でも、後から問題が発覚した場合には返還を求められることがあります。

不支給・返還リスクが高い状況

個人事業主が雇用の助成金で失敗しやすいパターンを整理します。

失敗パターン1: キャリアアップ計画書の提出を忘れた(または提出が転換後になった)

最も多い失敗の1つです。転換日の前日までに計画書が管轄機関に到達していなければ、その転換については助成金を受けることができません。郵送での提出を行う場合は必着を確認し、締め切りに余裕をもって送付することが重要です。

失敗パターン2: 3%の賃金引上げ要件を満たしていなかった

転換前6か月と転換後6か月の賃金を比較して3%以上の増額が必要です。ところが、転換後に賞与を含めて計算すると3%を超えるが、基本給のみでは3%に届かないケース、また残業代込みで計算すると転換前の賃金が高く見えてしまい転換後と比べて3%差が出ないケース等、計算の仕方を誤ると申請が認められないことがあります。転換前・転換後の賃金の計算方法は、管轄機関または社会保険労務士に事前に確認することをおすすめします。

失敗パターン3: 業務改善助成金で交付決定前に設備を発注・契約した

業務改善助成金では、交付決定を受けた後に初めて設備の発注・契約をしなければなりません。申請書を提出した後、交付決定通知を待たずに設備を発注してしまうと、その設備費用は全額助成対象外になります。急いでいる場合でも、必ず交付決定通知を確認してから動いてください。

失敗パターン4: 残業代の未払いが発覚した

助成金の審査では、賃金台帳・タイムカード等の確認が行われることがあります。時間外労働があるにもかかわらず残業代が支払われていない「未払い残業代」の状態は、労働基準法違反です。申請書類の提出後に労働局が事業場の調査を行い、残業代の未払いが発覚した場合は、申請が停止・不支給になることがあります。

未払い残業代は申請前に自主的に清算しておくことが重要です。「タイムカードと賃金台帳を突き合わせると残業代の計算が合わない」という状態は、事前セルフチェックで必ず洗い出しておいてください。

失敗パターン5: 雇用保険に未加入の従業員がいた

キャリアアップ助成金の対象となる労働者は、雇用保険の被保険者でなければなりません。週20時間以上勤務・31日以上雇用見込みがあるのに雇用保険未加入の従業員がいた場合、その従業員を対象とした申請は認められません。また、未加入が判明すると遡及加入の手続きが必要になります。

失敗パターン6: 不正受給・二重帳簿

意図的に賃金台帳・タイムカードを改ざんしたり、実際には行っていない取り組みについて申請したりすることは不正受給にあたります。不正が発覚した場合は、助成金の全額返還に加えて、年3%の延滞金が課されます。さらに5年間は雇用関係助成金を受けることができなくなります。また不正受給者として公表されることがあります。

事前セルフチェックリスト

申請前に次のチェックリストで確認してください。

□ 雇用保険の適用事業所設置届・資格取得届を提出済みか

□ 労働保険(労災・雇用保険)の保険料を滞納していないか

□ 全従業員のタイムカード等の記録と賃金台帳の記載が一致しているか

□ 未払い残業代(法定外残業・法定内残業で未払いのもの)がないか

□ 就業規則等に転換規定・賃金規定が明記されているか(改定日の記録あるか)

□ キャリアアップ計画書の提出期限(実施日前日)を正確に把握しているか

□ 業務改善助成金の場合: 交付決定前に設備の発注・契約・支払いをしていないか

□ 申請する助成金の要件を管轄機関・社会保険労務士に確認しているか

複数ケースの計算例

ケース1: 正社員化コースの助成額計算(飲食店・重点支援対象者)

青森県で飲食店を経営する個人事業主(従業員5名)。従業員のうち1名(有期雇用・入社4年目)を正社員化します。この従業員は「雇入れから3年以上の有期雇用労働者」のため重点支援対象者に該当します。

転換前の月給(基本給): 18万円

転換後の月給: 19万円

転換後の月給は転換前比で1万円増(1万÷18万=約5.6%)の増額となり、3%要件を満たしています。

キャリアアップ計画書を転換日の前日(3月31日)に提出済み。4月1日付けで正社員化し、10月1日から支給申請書を提出可能になります。

助成額(中小企業・有期→正規・重点支援対象者): 80万円

転換後の雇用保険・社会保険の事業主負担分(概算月額: 約3万円程度、社会保険加入状況によって変わる)が6か月で18万円程度先行発生します。助成金80万円が振り込まれるのは申請後数か月以内です。初期費用の自己負担を踏まえたキャッシュフロー計画が必要です。

ケース2: 業務改善助成金の助成額計算(清掃業・70円コース)

宮城県で清掃業を営む個人事業主(事業場の従業員8名・事業場規模30人未満)。事業場内最低賃金が950円の従業員2名の賃金を70円引き上げて1,020円にします。新たに清掃業務効率化のための機材(高圧洗浄機・自動床磨き機)をリース契約で導入。当該年度内のリース費用は80万円。

助成率: 1,050円未満のため4/5

70円コース・2~3人(規模30人未満の特例): 100万円

80万円 × 4/5 = 64万円

64万円 < 100万円(助成上限額)

助成金額は64万円となります。

交付決定後にリース契約を締結することを確認した上で進める必要があります。

ケース3: 業務改善助成金の助成額計算(飲食業・90円コース・規模30人未満)

愛知県で料理店を営む個人事業主(事業場規模30人未満・従業員3名)。事業場内最低賃金990円の従業員3名を全員90円引き上げて1,080円に。新しいオーダー管理システム(タブレット・専用端末・ソフトウェア込み)を300万円で導入。

助成率: 1,050円未満のため4/5

90円コース・2~3人(規模30人未満の特例): 240万円

300万円 × 4/5 = 240万円

240万円 = 240万円(助成上限額と同額)

助成金額は240万円となります。

2026年度の主な改正点まとめ

キャリアアップ助成金の主な改正点(令和8年度)

情報公表加算の新設が最大のポイントです。正規雇用労働者への転換等に係る所定の情報を、自ら管理するウェブサイトまたは「しょくばらぼ」(厚生労働省の職場情報総合サイト)に公表した場合に、1事業所あたり20万円(大企業は15万円)が加算されます。自社のウェブサイトがある事業主にとっては、比較的取り組みやすい加算です。

短時間労働者労働時間延長支援コースのリニューアルが行われました。1年目・2年目という段階的な助成の仕組みが導入され、2年にわたって取り組む事業主への支援が充実しています。

障害者正社員化コースの拡大も行われており、対象者の範囲や助成額に関して改正が行われました。障害者を雇用している事業主は最新のパンフレットを確認することをおすすめします。

業務改善助成金の主な改正点(令和8年度)

30円コースの廃止が最も影響の大きい変更です。令和7年度まで30円コースがありましたが、令和8年度からは最低でも50円以上の引上げが必要になりました。

申請受付の後ろ倒し(9月1日開始)も重要な変更です。令和7年度まで4月から申請を受け付けていましたが、令和8年度からは9月1日以降の申請受付開始となっています。地域別最低賃金が例年10月頃に発効されることと合わせて、申請から賃金引上げまでの準備期間が実質的に2か月程度しかありません。早めに準備を進めることが重要です。

一般車両(自動車)の助成対象外への変更です。令和7年度まで特例事業者については一般車両も対象経費に含まれていましたが、令和8年度からは特殊用途自動車(8ナンバー車)以外の自動車は対象外となりました。自動車の購入やリースを設備投資として予定していた場合は注意が必要です。

引き上げ対象労働者の要件変更として、「週所定20時間以上の雇用保険加入者」から「雇用保険被保険者」への変更が行われました。雇用保険の被保険者であることが明確な要件になっています。

社会保険適用拡大の動向と2029年に向けた準備

2026年は社会保険の適用拡大という観点でも重要な年です。

2024年10月から、企業規模51人以上の企業(派遣先)で週20時間以上・月給8.8万円以上・2か月超の雇用見込みのパートタイム労働者への社会保険適用が義務化されています。これは個人事業主には直接は関係ないように見えますが、自分の従業員が配偶者の勤め先の規模要件で社会保険適用になる場合があり、扶養の見直しが必要になるケースがあります。

そして、2029年10月には個人事業所に関する大きな変化が予定されています。現在、個人事業所の社会保険の強制適用は法定17業種・常時5人以上という条件がありますが、2029年10月からはこの業種制限が撤廃されます。常時5人以上の従業員を雇う個人事業所はすべて、業種を問わず強制適用対象になります。ただし、令和7年6月に成立した改正年金制度法では「施行時点で既に存在している事業所は当分の間、対象外」とする経過措置が設けられています。具体的な適用範囲・時期は今後の政令等で確定するため、詳細は厚生労働省の発表を確認してください。

これは、現在は任意適用の状態にある飲食業・小売業・サービス業などの個人事業主に大きな影響を及ぼします。社会保険に加入すると事業主の負担(厚生年金保険料・健康保険料のそれぞれ約半額)が増えるため、今から計画的に準備しておくことが大切です。

2029年の変更に向けて今から取り組めることは次の通りです。

社会保険適用後の人件費の試算を行う(従業員数・給与水準別に事業主負担の増額分を計算する)、社会保険適用を見越した価格設定の見直しを検討する、キャリアアップ助成金の短時間労働者労働時間延長支援コースを活用して段階的に正規雇用に移行させる計画を立てる、という3点です。

社会保険労務士法の業務範囲と本記事の位置づけ

本記事を通じて繰り返し伝えてきたことですが、雇用に関する助成金の申請書類の作成代行・手続き代行は、社会保険労務士法第2条に基づく社会保険労務士の独占業務です。

社会保険労務士法第2条が定める独占業務の範囲には、労働社会保険諸法令に基づく申請書・届出書等の書類の作成、および申請・届出・報告等の手続き代行が含まれます。キャリアアップ助成金・業務改善助成金の申請書類の作成や代行申請はこの範囲に含まれます。

本記事は、雇用の助成金制度の概要・要件・手続きの流れを一般的な情報として提供するものです。本記事の内容は個別の申請代行・書類作成の代行ではありません。

読者自身が行える準備の範囲は次の通りです。

制度の内容を理解して自社が要件を満たすかどうかを確認すること、事前準備(就業規則・賃金台帳・タイムカード等の整備)を自ら進めること、申請書類の内容を自分で確認・理解すること、管轄のハローワーク・都道府県労働局の窓口で無料の事前相談を利用すること、です。

申請書類の作成そのものについては、社会保険労務士に依頼することを検討してください。多くの社会保険労務士事務所では、助成金申請を得意としており、初回相談を無料で行っているところもあります。

申請チェックリスト(最終確認用)

キャリアアップ助成金・正社員化コース用

□ 雇用保険の適用事業所として届出済みか

□ 転換対象の従業員は雇用保険被保険者か

□ 就業規則等に正社員転換規定が明記されているか

□ キャリアアップ計画書を転換日の前日までに提出したか(受理確認済みか)

□ 転換対象の従業員は重点支援対象者(a/b/cのどれか)に該当するか確認したか

□ 転換後の賃金が転換前6か月比で3%以上増額されているか確認したか

□ 転換後6か月分の賃金台帳・タイムカードを整理・保管しているか

□ 支給申請の期限(転換後6か月賃金支払日翌日から2か月以内)を把握しているか

業務改善助成金用

□ 中小企業に該当するか(みなし大企業でないか)確認したか

□ 事業場内最低賃金が地域別最低賃金を下回っているか確認したか

□ 労働保険(労災・雇用保険)に加入しており保険料の滞納がないか

□ 引き上げ対象の従業員が雇用保険被保険者(雇入れ後6か月以上)であるか

□ 設備投資の見積もりを2社以上から取得しているか

□ 申請受付開始(9月1日)前に申請書類を準備しているか

□ 交付決定通知を受け取るまで設備の発注・契約・支払いをしていないか

□ 設備費用は税抜き10万円以上か

□ 導入予定の設備が対象経費(一般車両でないか等)に該当するか確認したか

□ 賃金引上げは1回で実施する計画か(2段階引上げは原則不可)

□ 引上げ後の賃金を就業規則等に明記する予定があるか

業務改善助成金の不交付・返還リスクと対処法

不交付になる主な事由

業務改善助成金において、申請後に交付されない(不交付)となる主な事由は次の通りです。

第1に、申請時点で事業場内最低賃金が地域別最低賃金以上の場合です。これは申請要件に反します。自分の事業場の事業場内最低賃金が地域別最低賃金を下回っていることを確認してから申請する必要があります。

第2に、労働保険(労災保険・雇用保険)に未加入または保険料を滞納している場合です。業務改善助成金に限らず、雇用関係の助成金は労働保険に適正に加入していることが大前提です。未加入の場合はまず加入手続きを行い、保険料を納付してから申請を検討してください。

第3に、賃金の引き下げが行われた場合です。申請事業場の労働者の賃金を申請後に引き下げた場合は不交付となります。ただし、本人の希望による所定労働時間の短縮、定年退職後の再雇用に伴う賃金減少、就業規則等に予め定められた人事評価による変動は「賃金引き下げ」に該当しない場合があります。詳細はQ&Aで確認してください。

第4に、交付決定前に設備を発注・契約・支払いした場合です。これは非常によくある失敗で、申請書を出した後に「もう決定が来た頃だろう」と判断して先に業者へ発注してしまうケースです。交付決定通知書を実際に手元で確認してから発注することが絶対条件です。

第5に、解雇等の不交付事由がある場合です。申請日前6か月以内に事業主都合による解雇がある場合は不交付となることがあります。

返還を求められるケース

一度助成金を受け取った後でも、不正受給が発覚した場合は全額返還の上、追加のペナルティが課されます。

不正受給と判断される具体例として、賃金台帳を実際とは異なる金額で作成・提出した場合、導入していない設備について導入したと虚偽の申告をした場合、引き上げていない賃金を引き上げたと申告した場合などがあります。

不正受給が発覚した場合の制裁は厳しく、助成金の全額返還に加えて、返還額に対して年3%の延滞金が課されます。さらに、不正受給をした事業主は氏名・名称を公表される場合があり、5年間は全ての雇用関係助成金を受けることができなくなります。また、刑事告発されることもあります。

労働基準法違反と助成金の関係

労働基準法違反(残業代未払い・最低賃金違反・記録の虚偽等)が発覚すると、審査が停止し助成金を受けることができません。また、是正勧告を受けている状態では、勧告に従った是正措置をとった上で申請するよう求められることがあります。

特に注意が必要なのは、助成金の申請に際して賃金台帳・タイムカードの精査が行われる点です。サービス残業(時間外労働に対して残業代を支払っていない状態)がある場合、審査過程でそれが発覚すると申請停止になります。

申請前に次の事項を自主的に確認しておくことをおすすめします。

・過去1年分のタイムカード(または出勤記録)と賃金台帳の記載が一致しているか

・法定時間外労働(週40時間超・1日8時間超)に対して割増賃金(25%以上増し)を支払っているか

・深夜労働(22時〜翌5時)に対して割増賃金(25%以上増し)を支払っているか

・休日労働(法定休日)に対して割増賃金(35%以上増し)を支払っているか

これらに問題がある場合は、助成金申請の前に未払い分を精算することが先決です。自分で確認が難しい場合は、社会保険労務士にチェックを依頼することを検討してください。

業務改善助成金の申請書類一覧と各書類の注意点

交付申請時に必要な主な書類

業務改善助成金の交付申請時に提出する主な書類は次の通りです。年度によって様式や添付書類が変更されることがあるため、必ず最新の要綱・要領を確認してください。

交付申請書(様式第1号): 申請事業場の所在地・申請コース・賃金引上げの計画・事業内容の概要を記載する書類です。厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできます。

事業実施計画書(様式第1号別紙1): 実施する設備投資等の内容・費用・生産性向上の効果を具体的に記載します。設備の種類・型番・メーカー・導入数・金額(税抜き)・導入後の効果(どの業務が何時間短縮されるか等)を明記します。

労働者名簿: 事業場に所属する全労働者の氏名・生年月日・住所・雇用年月日・業務内容等を記載した法定帳簿。

賃金台帳(直近3か月分程度): 全労働者の賃金計算期間・支払額・時間外労働時間等を記載した法定帳簿。事業場内最低賃金の算定に使用します。

就業規則または賃金規程: 現行の就業規則等。10人未満の事業場は「就業規則に準ずるもの」として賃金規程等を作成して提出することが多いです。

見積書(2社以上): 導入予定の設備の見積もりを少なくとも2社から取得します。1社からしか見積もりが取れない場合は、その理由を記した理由書を添付します。

事業場の状況が確認できる書類: 業種・規模を確認するための書類(確定申告書の写しや営業許可証等)。

事業実績報告時に必要な主な書類

設備投資等の事業が完了した後、事業実績報告と助成金支給申請を行います。

事業実績報告書(様式第7号): 事業の実施状況・費用・引き上げた賃金等を報告する書類。

助成金支給申請書(様式第8号): 助成金の支払いを求める書類。

賃金引上げ後の就業規則または賃金規程(改正後のもの): 引上げ後の事業場内最低賃金が明記されていることを確認します。

賃金台帳(引上げ後の分): 実際に引き上げた賃金を支払ったことを示す書類。

タイムカードまたは出勤簿: 労働時間の記録。

設備の納品書・請求書・領収書(またはその写し): 設備を実際に購入・導入し代金を支払ったことを示す書類。

振込の確認書類(通帳の写し等): 代金を支払ったことを示す書類。クレジットカード決済の場合は利用明細等。

書類を整理する上での実務的な注意点

書類の整理に際していくつかの注意点があります。

領収書と請求書は保管先を1か所にまとめておくことをおすすめします。設備を複数の業者から導入する場合、書類が複数になります。業者名・設備名・金額・発行日をリスト化しておくと、提出時の整理が楽になります。

通帳の写しを用意する際は、口座名義・口座番号・支払いが記録されたページが読み取れる状態でコピーしてください。

就業規則等は改定前・改定後の両方を保管しておいてください。引上げ前の賃金水準と引上げ後の賃金水準の違いを審査で確認される場合があります。

キャリアアップ助成金で使える「多様な正社員」とは

正社員化コースでは、転換先として「多様な正社員」も認められています。これは比較的知られていない制度で、個人事業主にとっても使いやすい形です。

多様な正社員の3類型

勤務地限定正社員: 転勤・異動の範囲を限定した正社員です。たとえば「自社の青森店舗のみ勤務」という条件で正社員にする場合がこれに当たります。個人事業主が単一の事業場で事業を営んでいる場合、事実上の「その事業場での勤務限定」という形になります。

職務限定正社員: 担当する業務の範囲を限定した正社員です。「調理業務のみ担当」「接客・販売業務のみ担当」というように職務を限定した形で正社員にする場合がこれに当たります。

短時間正社員: フルタイムよりも所定労働時間が短い正社員です。育児・介護・本人の健康状態等の事情で長時間勤務が難しい従業員を正社員として雇用し続けるための制度です。

なぜ多様な正社員が有効か

個人事業主が雇用しているパート・アルバイトの中には、フルタイムでの勤務は難しいが職場への定着度は高い、という方がいます。そのような方を従来の「フルタイム・無限定」な正社員という形では受け入れにくかったとしても、短時間正社員や職務限定正社員という形で転換できれば、双方にとって利益があります。

キャリアアップ助成金では多様な正社員への転換も「正社員化」として助成の対象です。さらに、多様な正社員制度を新たに就業規則等に規定し、その区分に転換した場合には1事業所当たり40万円(大企業30万円)の加算があります。

障害者正社員化コースの概要

個人事業主が障害のある従業員を正社員化する場合は、「障害者正社員化コース」が適用されます。

対象者と助成額

障害者正社員化コースの対象者は、障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換した場合です。

中小企業の場合の助成額は、障害の種別によって異なります。

重度身体障害者・重度知的障害者・精神障害者の場合は次の通りです。

転換区分中小企業
有期雇用 → 正規雇用120万円
有期雇用 → 無期雇用60万円
無期雇用 → 正規雇用60万円

上記以外の障害のある方の場合は次の通りです。

転換区分中小企業
有期雇用 → 正規雇用90万円
有期雇用 → 無期雇用45万円
無期雇用 → 正規雇用45万円

助成額の上限として、助成額が支給対象期間における対象労働者に対する賃金の額を超える場合は、当該賃金の総額が上限となります。

申請にあたっての基本的な考え方

障害者を雇用することで、障害者正社員化コースの助成が受けられるだけでなく、障害者雇用率に算入できるケースもあります。障害者雇用については、「障害者雇用促進法」等の別の法令も関係してきます。詳細は管轄のハローワークまたは都道府県労働局に確認することをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

Q1. 個人事業主でも雇用の助成金はもらえますか。

はい、個人事業主でも受給できます。法人格がなくても、雇用保険の適用事業所として届け出をし、対象となる取り組みを行えば申請可能です。ただし、農林水産業の一部など雇用保険の適用が任意とされる業種では、加入の有無の確認が必要です。

Q2. 家族(配偶者・子ども)をパートとして雇っている場合も対象になりますか。

同居の親族(配偶者・直系血族・兄弟姉妹)が雇用保険の被保険者になれるかどうかは、同居・同一生計かどうか、事業主の指揮命令下で働いているかどうか等の条件で判断されます。雇用保険の被保険者でなければキャリアアップ助成金の対象になりません。管轄のハローワークに確認することをおすすめします。

Q3. キャリアアップ計画書は自分で書けますか。

自分で作成することはできます。厚生労働省のウェブサイトから様式と記載例をダウンロードして確認してください。ただし、記載内容に不備があると受理されない場合があります。不安な場合は社会保険労務士またはハローワークの担当者に相談することをおすすめします。

Q4. 業務改善助成金はどんな設備でも使えますか。

生産性の向上・労働能率の増進に資すると認められる設備であることが条件です。POSレジ・生産機械・業務用ソフトウェア等が典型例です。エアコン・椅子・一般車両・広告宣伝費は対象外です。事前に管轄機関に確認することをおすすめします。

Q5. 助成金を受け取った後に従業員が辞めた場合はどうなりますか。

支給決定後に従業員が退職した場合でも、受給した助成金の返還は原則求められません。ただし、申請後・支給決定前の段階で雇用状況が変わった場合は審査に影響することがあります。

Q6. キャリアアップ助成金と業務改善助成金は同時に申請できますか。

原則として同じ年度に両方申請することはできます。ただし同一の取り組みや設備について重複して申請することはできません。詳細は管轄機関に確認してください。

Q7. 助成金の申請は社会保険労務士に頼まないとできませんか。

申請書類の作成代行は社会保険労務士の独占業務ですが、自分で書類を作成して提出することは可能です。ただし、書類の不備が多いと審査が長引くことがあります。ハローワーク・都道府県労働局でも事前相談を受け付けており、様式の書き方も案内してもらえます。

Q8. 賃上げをすると税金や社会保険料が増えるのではないですか。

従業員の給与を上げると、従業員の所得税・住民税・社会保険料(個人負担分)は変わります。事業主側も社会保険に加入している場合は事業主負担分が増えます。また、人件費が増えれば事業主の所得税・個人住民税の課税所得は減る方向になります。具体的な試算は税理士にご相談ください。

Q9. 開業して間もないのですが申請できますか。

業務改善助成金では、賃金引上げの対象労働者が「雇入れ後6か月を経過した雇用保険被保険者」である必要があるため、事業場設立直後の場合でも、当該労働者が6か月以上在籍していれば申請できる場合があります。キャリアアップ助成金も、対象労働者が雇用保険の被保険者であることが要件のため、雇用から一定期間が経過している必要があります。詳細は管轄機関に確認を。

Q10. 助成金を申請したら税金はどうなりますか。

助成金は事業所得として課税対象になります。収受した助成金は売上に計上し、申告する必要があります。詳細は税理士にご確認ください。

Q11. 業務改善助成金で導入した設備は何年使えばよいですか。

業務改善助成金では、「財産処分制限期間」があります。取得財産(設備)については、処分制限期間内に処分する場合は労働局への報告と承認が必要になります。具体的な期間は要領に定めがあります(耐用年数や取得費用に応じて異なります)。設備を買い替えたい場合は事前に労働局に相談することをおすすめします。

Q12. 申請を誤った場合は修正できますか。

申請書類の内容に誤りがある場合は、補正を求められることがあります。また、交付決定後に計画内容を変更したい場合は、「計画変更申請書」を提出する必要があります。「軽微な変更」については変更申請が不要な場合もありますが、判断が難しい場合は事前に管轄機関に確認することをおすすめします。

個人事業主が助成金を申請する際のキャッシュフロー計画

雇用の助成金は原則として「後払い・事後申請」です。取り組みを先に実施し、一定期間後に申請し、さらに審査を経て初めて振り込まれます。これは個人事業主のキャッシュフローに直接影響します。

助成金が振り込まれるまでの期間の目安

キャリアアップ助成金(正社員化コース)の場合、正社員転換後6か月分の賃金を支払ってから申請でき、申請後審査・支給決定まで数か月かかることがあります。したがって、転換日から助成金が振り込まれるまでに1年以上かかるケースも珍しくありません。

業務改善助成金の場合は、交付申請→交付決定→設備導入→事業実績報告という流れで、交付決定から助成金の支払いまでには事業完了後さらに数か月かかります。2026年度の場合、9月に申請、10月〜11月頃に交付決定、12月〜1月に設備導入・賃金引上げ・支払い、事業完了後に実績報告という流れになります。実際の助成金の支払いは翌年春以降になることがあります。

キャッシュフロー上の注意点

設備投資の費用は原則として自己資金または融資で先に調達する必要があります。業務改善助成金では「助成金を受け取ったら費用を支払う」という順序は認められません。必ず先に費用を支払い、後から助成金が補填される形です。

助成金を見込んで借入をする場合は、助成金が振り込まれる前に返済期限が来ないかどうかを確認することが大切です。日本政策金融公庫では、事業場内最低賃金の引上げに取り組む方に対して「働き方改革推進支援資金」という融資を行っています。業務改善助成金と組み合わせて活用することも選択肢の一つです。

また、正社員化に伴って増加する社会保険料の事業主負担分(厚生年金保険料・健康保険料の各約半額)も先行コストとして計算に入れておく必要があります。転換する従業員の月給が20万円の場合、社会保険料の事業主負担分はおおよそ毎月2万5,000円から3万円程度(都道府県・健康保険組合によって異なります)になります。これが6か月で15万から18万円の先行負担になります。助成金80万円が振り込まれた時点でこのコストを回収できますが、それまでの間の手元資金を確保しておくことが大切です。

年度ごとの制度変更リスクと確認先

キャリアアップ助成金・業務改善助成金はどちらも毎年度改定されます。本記事は2026年6月27日時点の情報をもとに執筆していますが、次の点に注意が必要です。

コースの廃止・新設: 令和8年度に業務改善助成金の30円コースが廃止されたように、年度をまたいで大きく変わることがあります。

助成額の変更: 年度により1人当たりの助成額が変わることがあります。過去の情報をそのまま参考にすると、現在の実際の額と異なることがあります。

要件の変更: 賃金引上げ率の要件・対象者の範囲・申請期限等も変わることがあります。

申請受付期間の変更: 業務改善助成金のように、受付期間が年度によって大きく異なることがあります。

最新情報の確認先は次の通りです。

申請を検討する際は、必ず当該年度の最新パンフレット・要綱・要領を厚生労働省ウェブサイトからダウンロードして確認してください。本記事の内容をそのまま申請書類に記載するのではなく、最新の公式情報に基づいて手続きを進めてください。

出典一覧(URL・確認日)

本記事は以下の一次情報を確認した上で執筆しています。

https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/001687993.pdf

確認日: 2026年6月27日

https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/001687992.pdf

確認日: 2026年6月27日

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html

確認日: 2026年6月27日

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000118801_00022.html

確認日: 2026年6月27日

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001693416.pdf

確認日: 2026年6月27日

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html

確認日: 2026年6月27日

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html

確認日: 2026年6月27日

https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/seido/kojinjigyosyo/

確認日: 2026年6月27日

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00021.html

確認日: 2026年6月27日

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page15.html

確認日: 2026年6月27日

https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/20150311.html

確認日: 2026年6月27日

免責事項

本記事は情報提供を目的としており、個別の申請代行・書類作成代行・法律的助言・税務上の助言を行うものではありません。制度の詳細・最新の要件・申請手続きについては、各公式サイトまたは担当窓口(都道府県労働局・ハローワーク・社会保険労務士)に直接ご確認ください。

助成金の支給は予算の範囲内で行われるものであり、要件を満たした場合でも必ずしも全員が受給できることを保証するものではありません。また、制度の詳細は年度ごとに変更されるため、本記事の内容が最新の制度と一致しない場合があります。

申請書類の作成代行・手続き代行は社会保険労務士法第2条に基づく社会保険労務士の独占業務です。本記事の内容をもとに申請書類を作成する場合は、社会保険労務士または管轄の都道府県労働局・ハローワークにご相談の上、最新の様式・要件を確認して行ってください。