雇用調整助成金(雇調金)申請ガイド:1〜5人規模の事業主が休業手当を補填してもらうしくみ
本記事は2026年6月27日時点の公開情報(厚生労働省・都道府県労働局の一次情報)に基づきます。助成率・上限額・要件はいずれも改定される場合があり、申請前には必ず管轄の都道府県労働局またはハローワークで最新情報をご確認ください。
本記事は情報提供を目的としており、申請書類の作成代行・個別手続きの代行は行いません。雇用調整助成金の申請書類作成および手続き代行は、社会保険労務士法に基づく社会保険労務士の独占業務です。個別の申請については、社会保険労務士にご相談ください。
この記事が整理すること
景気の悪化、取引先の倒産、原材料費の高騰、感染症の流行、自然災害の影響――経営上の理由でやむを得ず従業員を休ませなければならない状況は、規模の大小を問わず突然訪れます。そのとき、雇用を守りたいと思いながらも「休業手当を支払い続けられるだろうか」と不安を抱える事業主の方は少なくないはずです。
雇用調整助成金(以下「雇調金」と略称します)は、まさにこの場面で使える国の制度です。経済上の理由による事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、休業・教育訓練・出向によって雇用を維持した場合に、その費用の一部を国が助成します。
この記事では、制度の全体像から具体的な計算方法、必要書類の正式名称と取得先、計画届・支給申請の手順、よくある審査落ちの理由、社労士に依頼すべきかどうかの判断軸まで、申請に直結する実務情報を網羅します。特に従業員1〜5人規模の飲食業・製造業・小売業・サービス業の個人事業主や中小企業の経営者の方を主な読者として想定しています。
この記事でわかることは以下の通りです。
- 雇調金が使える条件(事業主要件・生産量要件・雇用量要件・休業規模要件の全4種)
- 助成率と1日あたり上限額、支給限度日数の現行値(2026年6月27日確認)
- 休業・教育訓練・出向の3種類それぞれの対象と違い
- 計画届と支給申請の実務手順(必要書類の正式名称・取得先・窓口・期限)
- 生産量要件の計算シミュレーション(飲食業・製造業の具体例)
- 労使協定の締結方法(労働者代表の選出手順・書式のチェックポイント)
- 教育訓練実施率による助成率の変動のしくみ
- 残業相殺・併給調整の仕組み
- 不正受給のリスクと罰則(返還・加算金・事業主名公表・刑事告発)
- 通常期と特例期(コロナ・災害等)の違いと切替タイミング
- 他の雇用関連助成金との使い分け・併用可否
- 社労士への依頼費用の相場と費用対効果の目安
制度の全体像
雇調金とはどんな制度か
雇用調整助成金は、雇用保険法に基づいて設けられた国の助成制度で、所管は厚生労働省、申請窓口は事業所を管轄する都道府県労働局(またはハローワーク)です。
制度の目的をひとことで言えば「一時的な業績悪化時に従業員を解雇せず雇用を維持した事業主を国が支援すること」です。事業が一時的に縮小しても、従業員を休ませながら雇い続ければ、その休業手当の一部を国が肩代わりするというしくみです。
申請できるのは従業員を雇用する事業主です。個人事業主でも、雇用保険の適用事業所であれば対象になります。従業員が1人でも、雇用保険に加入している従業員がいれば申請を検討できます。
制度の大きな枠組みを整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請者 | 雇用保険適用事業所の事業主 |
| 申請窓口 | 都道府県労働局(各都道府県に設置)またはハローワーク |
| 助成率(中小企業) | 3分の2 ※2026年6月27日時点の通常制度 |
| 助成率(大企業) | 2分の1(2分の1) ※同上 |
| 1人1日あたり上限額 | 8,870円(雇用保険基本手当日額に連動。令和7年8月1日時点の値) |
| 支給限度日数 | 1年間に最大100日、3年間通算で最大150日 |
| 教育訓練加算 | 1人1日1,200円(条件により1,800円に増額) |
| 出向期間 | 3か月以上1年以内 |
「中小企業」の定義は、業種によって資本金・常時雇用の労働者数の両方で判断されます。小売業・サービス業・卸売業・その他(製造業等)でそれぞれ異なりますが、多くの個人事業主や小規模事業者は中小企業として扱われます。
対象となる雇用調整の3種類
雇調金の対象となる雇用調整には、休業・教育訓練・出向の3種類があります。
1つ目は休業です。所定労働日に予定されていた労働を行わせないことを指します。1日全部を休ませる「全日休業」と、所定労働時間の一部だけ短縮する「時間単位の休業(短時間休業)」の両方が対象です。休業を行う場合は、必ず労使協定が必要です。また、休業中は労働基準法第26条に基づいて、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務が事業主に生じます。雇調金は、この休業手当のうち一定割合を助成します。
2つ目は教育訓練です。休業させる代わりに、職業に関する知識・技術・技能の習得や向上を目的とした訓練を受けさせることを指します。OFF-JT(業務から切り離した訓練)が対象で、OJT(業務遂行中の訓練)は対象外です。教育訓練を実施した日は、休業と同様に「業務に就かせない日」として扱われます。外部講師による研修、外部機関の講座受講、通信教育なども対象になり得ます。訓練の内容・計画を事前に届け出ること、実施後に記録を残すことが求められます。
3つ目は出向です。対象となる出向は「在籍出向」です。出向元に籍を置いたまま、一定期間、出向先の会社で働かせる形態です。出向元が出向労働者の賃金の一部を負担することが条件で、全額を出向先に持たせる移籍出向は対象外です。出向先では他の業務を覚えてもらいながら、出向元の雇用は維持されるというしくみで、受け入れ先が見つかる場合は業務量が激減している時期の有効な選択肢になります。
制度が使えない主な場合
次のいずれかに該当する場合は、原則として受給できません。
- 雇用保険に加入していない事業所(雇用保険適用事業所でない場合)
- 労働保険料を滞納している場合
- 過去に不正受給で支給決定を取り消された日から5年を経過していない場合
- 不当な解雇・労働基準法違反が認定されている場合
- 事業主と同居している親族のみを対象とする場合(同居親族は原則として雇用保険被保険者と認められないため)
- 前回の受給の対象期間の末日から1年以上経過していない場合(前回の助成を受けていた場合)
【無料サンプル】飲食業・従業員3人の事業主が休業で雇調金を受給するケースを最初から最後まで見せます
ここでは、実際に雇調金を使うイメージをつかんでいただくために、1つのケースを最初から最後まで全部見せます。計算・手続き・窓口・金額まで出し惜しみせずに書きます。
前提条件
想定するのは、神奈川県内で定食屋を営む個人事業主のAさんです。
- 事業形態:飲食業(個人事業主)
- 従業員:パートタイム3名(雇用保険に加入済み。全員が雇用保険被保険者)
- 状況:取引先の閉店や近隣の大型店出店の影響で、3か月前から売上が大きく落ちている
- 直近3か月の月別売上:4月80万円、5月75万円、6月70万円 → 平均75万円
- 前年同期の月別売上:4月100万円、5月105万円、6月95万円 → 平均100万円
- 対応方針:7月から1か月間、3名のパート全員を週3日休ませる(全日休業)
ステップ1:生産量要件を満たしているか確認する
まず、雇調金を使えるかどうかの入口となる「生産量要件」を確認します。
計算式:(前年同期の月平均 − 最近3か月の月平均)÷ 前年同期の月平均 × 100 = 減少率
(100万円 − 75万円)÷ 100万円 × 100 = 25%
前年同期比で25%の売上減少です。要件となる「10%以上の減少」を大幅に上回っているため、生産量要件は満たしています。
ステップ2:雇用量要件を確認する
次に「雇用量要件」です。最近3か月の雇用保険被保険者数の月平均が、前年同期比で中小企業なら「10%を超えてかつ4人以上」増加していないことが条件です。
Aさんの店では従業員3名で変化なし(増やしていない)ため、この要件も問題ありません。
ステップ3:休業規模要件を計算する
「休業規模要件」として、休業の延日数が所定労働延日数の「1/20以上」(中小企業)である必要があります。
7月の1か月間、3名全員が週3日休む場合の計算をします。
- 所定労働日数(3名 × 週5日 × 4週)= 60人・日(1か月の所定労働延日数)
- 休業日数(3名 × 週3日 × 4週)= 36人・日(休業の延日数)
- 36 ÷ 60 = 0.6(60%)
必要な1/20(5%)を大きく超えているため、休業規模要件も満たしています。
ステップ4:労使協定を締結する
休業を実施する前に、必ず事業主と労働者の間で「休業協定書」を締結します。
Aさんの店には労働組合がありません。この場合、パート3名の中から1名を「労働者の過半数を代表する者(労働者代表)」として選出し、その方との間で書面による協定を結びます。
労働者代表の選出にあたって、管理監督者(店長など、使用者と同じ立場に近い方)は代表になれません。3名のうち管理監督者に該当しない方が投票や話し合いで代表を選びます。代表を管理職が指名・誘導すると、後の審査で問題になる場合があるため、労働者の自主的な選出であることが重要です。
休業協定書には最低限、次の内容を盛り込みます。
- 休業の対象者(具体的な名前または「雇用保険被保険者全員」等の範囲)
- 休業の期間(開始日・終了日)
- 休業の曜日・時間帯(「毎週月・水・金の全日」等の具体的な記載)
- 休業手当の額(平均賃金の何%を支払うか。法定最低は60%)
- 締結日・事業主の署名捺印・労働者代表の署名捺印
ステップ5:計画届を提出する
計画届は休業を開始する前日までに管轄の都道府県労働局(神奈川県の場合は神奈川労働局)に提出します。初回は2週間前を目安に出すことが推奨されています。事後提出は認められていません。
計画届に必要な書類の正式名称と取得先は以下の通りです。
- 様式第1号(1)「雇用調整助成金 休業等実施計画(変更)届」→ 厚生労働省ウェブサイトからダウンロード
- 様式第1号(2)「雇用調整実施事業所の事業活動の状況に関する申出書」→ 同上(売上高等を記載する書類)
- 様式第1号(4)「雇用調整実施事業所の雇用指標の状況に関する申出書」→ 同上(雇用量の変化を示す書類)
- 休業協定書(自社で作成したもの)
- 売上等の実績を示す書類(月別の売上台帳、青色申告決算書の月次売上欄の写し、会計ソフトの月次集計表など)
- 雇用保険被保険者数を示す書類(雇用保険適用事業所台帳または労働保険料申告書等)
窓口は神奈川労働局の雇用調整助成金担当課です。郵送でも受け付けています(簡易書留等、配達記録が残る方法が安全です)。
ステップ6:休業を実施し、休業手当を支払う
計画届が受理されたら、届け出た通りに休業を実施します。休業手当は毎月の給与と一緒に、平均賃金の60%以上を支払います。
Aさんのパートの1人の月平均賃金が10万円だった場合、休業手当として支払う最低額は以下の通りです。
10万円(月平均賃金) × 60% = 6万円(最低限の休業手当)
ただし、雇調金の助成率を最大化するためには、実際に支払った休業手当の額が助成の計算ベースになります。支払う額が高いほど助成額も増えるため、余力があれば60%を上回る水準で支払うほうが従業員への影響も小さくなります。
ステップ7:支給申請をして助成金を受け取る
休業を実施した判定基礎期間(原則として賃金の締切日翌日から次の締切日まで)の末日の翌日から2か月以内に支給申請を行います。期限を1日でも過ぎると申請が受け付けられないため注意が必要です。
支給申請に必要な書類の正式名称は以下の通りです。
- 様式第5号(1)(2)「雇用調整助成金(休業等)支給申請書・助成額算定書」→ 厚生労働省ウェブサイトからダウンロード
- 様式第5号(3)「休業・教育訓練実績一覧表及び所定外労働等の実施状況に関する申出書」→ 同上
- 賃金台帳(休業実施期間中のもの)→ 事業主が保有。なければ新たに作成
- 出勤簿またはタイムカード(休業日が明確にわかるもの)→ 事業主が保有
- 休業手当の支払を示す書類(給与明細・振込明細等)→ 事業主が保有
ステップ8:助成額を計算する
令和6年4月以降の算定方法(実費方式)では、実際に支払った休業手当の総額をもとに助成額を計算します。
Aさんの店でパート3名に7月に合計18万円の休業手当を支払ったとします。
助成額(中小企業の場合)= 支払った休業手当の総額 × 助成率
= 18万円 × 2/3
= 12万円
ただし、1人1日あたりの上限額(8,870円)を超える場合はその額が上限になります。
3名で36日分の休業(各人12日)を実施した場合、上限額の確認をします。
1人あたりの上限:8,870円 × 12日 = 106,440円
3名合計の上限:106,440円 × 3 = 319,320円
支払った18万円 < 上限319,320円 なので、この場合は上限の制約は受けません。
助成額は12万円となります。飲食業の個人事業主が3名分の休業手当18万円を支払い、12万円が返ってくる計算です。
申請から支給まで、おおむね1〜2か月かかることが多いです。審査の状況によって前後します。
ここから先は、申請に直結する実務です。
4つの支給要件を全部満たすための確認手順
雇調金の申請にあたって、事前に4つの要件を全て確認することが不可欠です。1つでも満たさない場合は申請できません。
要件1:事業主要件(雇用保険適用事業主であること)
雇用保険は、原則として週所定労働時間が20時間以上で、31日以上継続して雇用される見込みのある労働者を雇う事業所に加入義務があります。パートタイムの方でも、週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがあれば、雇用保険の加入が必要です。
確認方法:ハローワークから交付された「雇用保険適用事業所台帳」を確認します。手元にない場合はハローワークで再交付を依頼できます。
過去に雇用保険に未加入だった従業員がいる場合は、申請前に加入手続きを済ませることを検討してください。ただし、遡及加入には制約があるため、担当のハローワークに相談することをおすすめします。
労働保険料(雇用保険料と労災保険料)に滞納がある場合は申請できません。先に完納するか、分割納付の手続きを取ることが必要になります。
要件2:生産量要件(最近3か月の月平均が前年同期比10%以上減少)
最も重要な要件です。「売上高・生産量等の事業活動を示す指標」の最近3か月の月平均値が、前年同期と比べて10%以上減少していることが条件です。
指標として使えるものは、売上高だけでなく、出荷量・稼働率・受注件数なども使えます。ただし、毎月継続的に集計していた指標を使う必要があり、都合のいい月だけを選んで計算することは認められません。一度使った指標は同一の対象期間中は継続使用が原則です。
計算式:(前年同期の月平均 − 最近3か月の月平均)÷ 前年同期の月平均 × 100
「最近3か月」の起算点は、計画届を提出する日の属する月の前月末日を基準に直近3か月とするのが一般的な解釈です(管轄労働局に事前確認することをおすすめします)。
前年同期の実績がない場合(開業後1年未満の場合など)は、別の基準月との比較が認められる場合があります。この点は管轄労働局に個別確認が必要です。
要件3:雇用量要件(雇用保険被保険者数が過度に増加していないこと)
最近3か月の雇用保険被保険者数の月平均が、前年同期と比較して、中小企業では「10%を超えてかつ4人以上」増加していないことが条件です。大企業では「5%を超えてかつ6人以上」増加していないことが条件になります。
言い換えると、業績が悪化しているのに大量採用をしていた場合は対象外になるという趣旨の要件です。事業縮小のために休業させながら、一方で新たな人員を大量に採用している状態は、実質的な雇用調整とは言えないからです。
要件4:休業規模要件(延日数が所定労働延日数の1/20以上)
休業を実施する判定基礎期間について、休業の延日数が、対象となる従業員の所定労働延日数の「1/20以上」(中小企業)であることが必要です。大企業は「1/15以上」です。
計算の例:従業員5名が各自月20日の所定労働日数(合計100人・日)を持ち、そのうち15人・日分の休業を実施した場合、15÷100=0.15(15%)となり、1/20(5%)を超えているため要件を満たします。
なお、この計算は判定基礎期間(通常1か月)ごとに行います。月によって休業の規模が変わっても、それぞれの月で個別に判定します。
生産量要件の計算シミュレーション:飲食業・製造業・サービス業の3ケース
ケース1:飲食業(個人事業主、売上高を指標とする場合)
前提:居酒屋を営む個人事業主。最近3か月(2026年4〜6月)の月別売上が4月90万円、5月80万円、6月85万円。前年同期(2025年4〜6月)の月別売上が4月120万円、5月115万円、6月125万円。
最近3か月の月平均:(90+80+85)÷ 3 = 85万円
前年同期の月平均:(120+115+125)÷ 3 = 120万円
減少率:(120 − 85)÷ 120 × 100 = 29.2%
29.2%の減少であり、10%以上の要件を満たします。
使用する書類:月次の売上帳(現金出納帳・POS集計・レジジャーナル等)が証拠となります。通帳の振込明細でも売上を補完できます。
注意点:前年に臨時収入(閉店セール、キャッシュバックキャンペーン)があった場合、前年の売上が例外的に高くなっていると、減少率が実態より小さく見えることがあります。また、前年に台風・感染症等で業績が落ちていた場合は、前年同期との比較が不利になる場合があります。この場合、一定の条件下で比較月を変更できる特例が設けられることがありますが、まず管轄労働局に相談してください。
ケース2:製造業(法人・従業員8名)
前提:金属部品の製造業。最近3か月(2026年4〜6月)の出荷量(個数)が4月3,200個、5月2,800個、6月3,000個。前年同期が4月4,500個、5月4,300個、6月4,200個。
最近3か月の月平均:(3,200+2,800+3,000)÷ 3 = 3,000個
前年同期の月平均:(4,500+4,300+4,200)÷ 3 = 4,333個
減少率:(4,333 − 3,000)÷ 4,333 × 100 = 30.8%
製造業では売上高でも出荷量でも構いませんが、毎月数えている指標を選ぶ必要があります。出荷伝票・納品書・生産日報が証拠書類として使えます。
稼働率(機械・設備の稼働時間)を指標にする場合は、稼働記録表等が必要になります。いずれの場合も、証拠となる書類の保管が必須です。
ケース3:美容サービス業(個人事業主、施術予約数を指標とする)
前提:美容室を営む個人事業主。最近3か月(2026年4〜6月)の施術件数が4月180件、5月160件、6月170件。前年同期が4月240件、5月230件、6月220件。
最近3か月の月平均:(180+160+170)÷ 3 = 170件
前年同期の月平均:(240+230+220)÷ 3 = 230件
減少率:(230 − 170)÷ 230 × 100 = 26.1%
売上高の代わりに施術件数を使う場合は、予約台帳・施術伝票・POSシステムのデータなどで件数を証明する必要があります。証拠の提示が難しい指標(口頭のみの受注等)は使わないほうが無難です。
計画届の実務:書き方ポイントと一般的な差戻し理由
計画届の記入フロー
計画届(様式第1号(1)「雇用調整助成金 休業等実施計画(変更)届」)の記入手順は、おおむね以下の流れになります。
まず「事業所の基本情報」欄を記入します。事業所の名称・所在地・電話番号、雇用保険適用事業所番号(雇用保険適用事業所台帳に記載されています)、代表者氏名を記入します。
次に「雇用調整の内容」欄です。休業か教育訓練かを選択し、対象となる労働者の範囲を記載します。「全雇用保険被保険者」と記載するか、部署・職種単位で限定する場合はその範囲を明確に書きます。
「雇用調整の実施予定期間」欄には、開始予定日と終了予定日を記入します。事前提出が原則なので、休業実施前に必ず提出します。
「休業の実施方法」欄では、週何日休業するか(例:毎週月・水・金の全日休業)、または時間短縮の場合は何時間短縮するかを具体的に書きます。漠然とした記載(「適宜休業させる」等)は差戻しの原因になります。
「事業活動の状況」欄は様式第1号(2)と連動します。売上高等の前年比較の数値を正確に記入します。
一般的な差戻し・修正指導になる理由
実務で多く見られる差戻しや修正指導の理由をまとめます。
1つ目は、計画届の提出が事後になっていたケースです。休業を始めてから「計画届を知らなかった」と申請しても、原則として事前提出のない期間は対象外となります。これが最もよくある失敗です。
2つ目は、売上等の証拠書類が不十分なケースです。3か月分の月別売上を示す書類が手元にない、または帳簿の記載がアバウトで審査担当者が確認できない状態だと、追加書類の提出を求められます。
3つ目は、労使協定の内容が不完全なケースです。休業の日程・対象者・休業手当の割合が明記されていない、署名・捺印が片方(事業主のみ、労働者代表のみ)しかないケースは修正が求められます。
4つ目は、雇用保険の手続きがまだ済んでいないケースです。雇用保険の適用が申請時点で確認できない(手続き中の)場合も、審査が保留になることがあります。
5つ目は、様式のバージョンが古いケースです。厚生労働省のウェブサイトで定期的に様式が更新されるため、古い様式で提出すると追完が必要になる場合があります。申請時点で最新の様式をダウンロードして使用することが重要です。
計画届の変更・追加届
当初の計画届を提出した後に、休業の日程や対象者が変わった場合は「変更届」を提出します(様式第1号(1)の「変更届」欄をチェックして再提出)。変更も事前提出が原則です。あらかじめ余裕をもった期間で計画を立てることで、変更の頻度を減らせます。
労使協定の締結方法:労働者代表の選出から書式チェックまで
労働組合がない場合の労働者代表の選出
雇調金の休業・教育訓練のいずれも、実施前に事業主と従業員の間で労使協定を結ぶことが必須です。労働組合がある場合は、組合との協定になります。労働組合がない場合は「事業所の労働者の過半数を代表する者(以下、過半数代表者)」との書面による協定が必要です。
過半数代表者を選ぶにあたって、以下の点に注意が必要です。
まず、管理監督者は過半数代表者になれません。ここでいう管理監督者とは、労働基準法第41条2号の管理監督者のことで、店長・工場長・部門責任者でも、給与の決定や採用・解雇に実権がない場合は管理監督者に該当しないこともあります。判断に迷う場合は、担当のハローワークか労働局に事前に確認することをおすすめします。
次に、過半数代表者は民主的な手続きによって選出する必要があります。事業主が指名したり、「Aさんにお願いしたい」と働きかけるのは不適切です。挙手・投票・回覧板への署名などの方法で、従業員が自主的に選出したことがわかる記録を残しておくと安心です。
選出したことの記録(誰が何票を得て代表になったか等)を残しておくと、審査時や後の調査時に提示できます。
休業協定書に盛り込む項目
休業協定書(正式名称は厚生労働省が用意した様式があります。ただし書式は参考で、必要事項が記載されていれば自社形式でも可能な場合があります。管轄労働局に確認してください)には、最低限以下の内容が必要です。
- 協定の目的(経済上の理由による事業活動の縮小に伴う雇用調整のため、という趣旨)
- 休業の対象となる労働者の範囲(具体的に。「雇用保険被保険者全員」「○部門の全従業員」等)
- 休業の開始日と終了日(または期間)
- 休業を実施する曜日・時間帯(「毎週月・水・金の全日」または「毎日13:00以降の2時間短縮」等)
- 休業手当の額の計算方法・水準(平均賃金の何%以上)
- 協定の有効期間
- 締結日
- 事業主の署名・捺印
- 過半数代表者の署名・捺印
協定書は2通作成し、事業主と過半数代表者がそれぞれ保管します。労働局への提出は写しでも可能ですが、原本との同一性がわかるようにしておきます。
教育訓練の実施率による助成率・加算額の変動のしくみ
雇調金の教育訓練については、実施の実績が積み重なると助成率に変動が生じます。このしくみを事前に把握しておくと、計画的な活用ができます。
基本的な構造
教育訓練を実施した日は休業日と同様に扱われますが、さらに「教育訓練加算」が上乗せされます。基本の加算額は1人1日1,200円です(2026年6月27日時点)。
ただし、累計の支給日数が30日に達した後(具体的には、累計30日が初めて到達した判定基礎期間の終了日の翌日を初日とする判定基礎期間から)、教育訓練の実施率に応じて加算額が変わります。
- 教育訓練の実施率が休業等全体の1/5以上の場合:中小企業の加算額が1,800円に増額
- 実施率が1/10以上1/5未満の場合:基本の1,200円のまま
- 実施率が1/10未満の場合:加算が適用されない(減額)
教育訓練実施率の計算方法
実施率は以下の式で計算します。
教育訓練実施率 = 教育訓練の延日数 ÷(休業の延日数 + 教育訓練の延日数)
例:判定基礎期間中に、休業が80人・日、教育訓練が20人・日だった場合、
実施率 = 20 ÷(80 + 20)= 0.2(20%)
20%は1/5(20%)に該当するため、累計30日到達後の中小企業は加算額が1,800円になります。
教育訓練の実施記録の保管
教育訓練を実施したことを示す記録として、以下の書類を保管する必要があります。
- 教育訓練の実施計画(事前に届け出た計画と一致している必要があります)
- 教育訓練実施記録(実施日時・内容・参加した従業員氏名・受講時間数)
- 外部機関・講師を使った場合は、受講証明書や請求書・領収書
記録がない場合や、実施した内容が事前の計画と大きくかけ離れている場合は、加算の対象外となったり、支給申請が差し戻されたりする可能性があります。
支給申請の実務:必要書類・窓口・期限・よくある不備
支給申請の時期と期限
支給申請は、「判定基礎期間の末日の翌日から2か月以内」に行います。期限を1日でも過ぎると申請を受け付けてもらえないため、スケジュール管理が非常に重要です。
休業手当は支払った後に申請するため、休業手当を支払ってから次の締切日が来るまでの間に申請する必要があります。支払い時期と申請期限の両方を把握した上で動きます。
例:賃金の締切日が毎月末日の場合、7月1日〜31日が判定基礎期間なら、申請期限は9月30日です。しかし休業手当の支払が8月末(7月分の給与支払日)の場合、支払後から9月30日までが実質的な申請可能期間になります。
支給申請に必要な書類一覧(正式名称と取得先)
厚生労働省のウェブサイト(様式ダウンロードページ:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000080400.html)から様式をダウンロードします。
休業・教育訓練の場合の必要書類は以下の通りです。
- 様式第5号(1)(2)「雇用調整助成金(休業等)支給申請書」および「助成額算定書」
→ 厚生労働省ウェブサイトからダウンロード(最新版を使用すること)
- 様式第5号(3)「休業・教育訓練実績一覧表及び所定外労働等の実施状況に関する申出書」
→ 同上(日別・従業員別の休業実績を記載。残業の有無もここで申告します)
- 出勤簿またはタイムカードの写し
→ 自社で保管しているもの(休業日と出勤日が明確にわかることが必要。手書きの場合は改ざん防止の観点から日付の記入が連続していることを確認)
- 賃金台帳の写し
→ 自社で保管しているもの(判定基礎期間中の実際の支払額が確認できること)
- 休業手当の支払を示す書類
→ 給与明細・振込明細・給与計算ソフトの出力など(実際に支払ったことの証拠)
- 労使協定書の写し(未提出の場合)
→ 計画届時に提出済みであれば省略できる場合がありますが、管轄労働局に確認してください
出向の場合は、様式第6号(1)〜(4)(出向支給申請書・出向先事業所別調書・出向に関する確認書・出向元事業所支給対象賃金補填額調書)が必要になります。
教育訓練実施者(外部委託の場合)は追加で様式第13号「雇用調整助成金(訓練実施者)支給申請合意書」が必要になります。
申請窓口
申請窓口は、事業所(本社・主たる事業所)を管轄する都道府県労働局です。ハローワーク経由での受け付けを行っている地域もあります。管轄の労働局によって窓口部署の名称が異なる場合があるため、事前に電話で確認しておくと手続きがスムーズです。
郵送での申請も可能ですが、期限の証拠として配達記録が残る方法(簡易書留・書留)を使うことをおすすめします。オンライン申請(電子申請)にも対応しています。
残業相殺と併給調整:知らないと損する2つのルール
残業相殺のしくみ
同一の判定基礎期間中に、休業や教育訓練を実施しながら、その対象労働者に所定外労働(残業・休日出勤)もさせていた場合、その所定外労働の時間相当分が助成対象の休業日数から差し引かれます。これを「残業相殺」と呼びます。
趣旨は明確で、「休業させながら残業もさせている」のは、実質的に雇用が縮小していない部分があるとみなされるためです。
計算の考え方:休業の延日数100人・日を実施していた月に、所定外労働が合計16時間(1日8時間換算で2人・日相当)あった場合、100 − 2 = 98人・日が実際の助成対象になります。
実務上の対応:休業を実施している月は、できる限り残業をさせないことが助成額を最大化する近道です。繁忙期の残業がやむを得ない場合は、休業の月と残業の月をずらすことを検討してください。残業相殺の具体的な計算は様式第5号(3)の「所定外労働等の実施状況に関する申出書」で申告します。正直に申告することが重要で、虚偽申告は不正受給とみなされます。
他の助成金との併給調整
同一の賃金支出・同一の教育訓練について、雇調金と別の雇用関係助成金を重複して受給することは原則として認められていません。具体的には以下の点に注意が必要です。
- 人材開発支援助成金と雇調金の教育訓練:同一の訓練について両方の助成を受けることはできません。どちらか一方を選択します。
- 産業雇用安定助成金と雇調金の出向:同一の出向について、産業雇用安定助成金(出向運営経費助成)と雇調金の出向補助を重複して受けることはできません。
- 特定求職者雇用開発助成金(雇調金とは申請者が同じ事業主でも、対象が新規雇用なら原則として別制度として並立可能ですが、詳細は管轄労働局に確認を)
複数の助成金を使いたい場合は、計画届や申請前に管轄の労働局やハローワーク、または社会保険労務士に相談することをおすすめします。
出向活用型:在籍出向の要件・出向先との協定・費用分担のしくみ
在籍出向とは
雇調金の対象となる出向は「在籍出向」です。労働者が出向元(現在の事業主)に籍を置いたまま、一定期間だけ出向先の企業で業務を行う形態です。
移籍出向(労働者が出向元を退職して出向先の社員になる形)は、雇調金の出向補助の対象外です。
在籍出向の特徴は、出向中も出向元との雇用関係が続く点です。出向元が雇用を維持しながら、出向先に労働者の働く場を確保してもらうというしくみで、双方にメリットがあります。出向元は休業手当を払い続けるよりコストを抑えられる場合があり、出向先は労働力を確保できます。
出向の要件
雇調金の出向補助の主な要件は以下の通りです。
- 出向期間は3か月以上1年以内であること
- 出向元事業主が出向労働者の賃金の一部を負担すること(全額を出向先が負担する場合は対象外)
- 出向終了後6か月以内の再出向は原則認められないこと
- 出向元と出向先の間で「出向協定」を書面で締結すること
- 出向元、出向先のそれぞれで、出向に関する労使協定が必要であること
- 出向先事業主は、出向を理由に既存の労働者を解雇していないこと(「玉突き出向」は対象外)
出向先との協定・費用分担
出向元と出向先の間で結ぶ出向協定(出向契約)には、次の事項を盛り込む必要があります。
- 出向の目的(雇用調整のため)
- 出向期間(開始日・終了日)
- 出向労働者の氏名または対象範囲
- 出向先における業務内容・就業場所
- 賃金の負担方法(出向元・出向先それぞれが負担する割合・金額の計算方法)
- 出向中の社会保険料の負担
- 出向後の復帰の条件
賃金の費用分担については、「出向元が一部でも負担していること」が要件です。たとえば、出向元が月額賃金の30%を負担し、出向先が70%を負担するという形でも構いません。出向元の負担分(出向先から返ってこない部分)について、雇調金の助成が受けられます。
支給申請に必要な書類(出向の場合)は、様式第6号(1)〜(4)のほか、出向協定の写し、出向先の賃金支払証拠書類、出向元・出向先の労使協定書の写しなどが必要になります。詳細は申請前に管轄労働局に確認してください。
産業雇用安定助成金との使い分け
在籍出向を活用する際は、雇調金(出向補助)と産業雇用安定助成金のどちらが有利かを事前に検討することをおすすめします。
産業雇用安定助成金は、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が在籍出向を活用する場合に「出向初期経費助成」「出向運営経費助成」「出向復帰後訓練助成」の3段階で助成するものです。雇調金の出向補助とは制度の設計が異なるため、同一の出向について両方を重複受給することはできません。
どちらの制度が事業の状況に合うかは、出向先の確保の見通し・出向期間・費用分担の割合等によって異なります。社会保険労務士や管轄労働局に相談の上で決めることをおすすめします。
不正受給のリスクと罰則:知らないでは済まされない4つのペナルティ
不正受給とはどんな行為か
雇調金の不正受給として問題になりやすいのは、以下のような行為です。
- 休業しているとして申請しているが、実際には従業員に業務を行わせていた(在宅での業務を「休業日」として申請するケースが多い)
- 出勤簿・タイムカードを改ざんして休業日を実際より多く見せた
- 実際には支払っていない休業手当を支払ったとして申請した
- 生産量・売上高を実際より低く偽って申請した
- 労使協定を締結せずに休業したにもかかわらず、協定を締結したとして申請した
コロナ禍の特例時期には大量の申請が行われた一方で、不正受給の摘発事例も多数報告されています。審査の厳格化・調査の強化が続いています。
ペナルティ1:返還(不正発生以降の全額)
不正受給が認定された場合、不正が発生した日を含む判定基礎期間以降に受給した雇調金の全額を返還しなければなりません。1つの申請期間の不正でも、その前後の正当な申請分まで取り消される可能性があります。
ペナルティ2:加算金20%と延滞金
返還する金額に、20%相当額(違約金)が加算されます。さらに、返還期限を過ぎると年3%の延滞金が発生します。実際の受給額より大きな金額を返還する義務が生じるという点で、不正受給のリスクは非常に高いです。
ペナルティ3:5年間の不支給と事業主名の公表
不正受給を行った事業主は、不正受給の日から5年間、雇用関係助成金(雇調金に限らず、他の雇用関連助成金も含むすべての雇用関係助成金)を受給できなくなります。
さらに、取消額(返還すべき金額)が100万円以上の場合は、事業主名・代表者名・所在地・不正内容が厚生労働省のウェブサイトに公表されます。ただし、調査前に自主申告を行い、命令から1か月以内に全額を返還した場合であって特に重大・悪質でないと認められれば、公表を免れる場合があります。
ペナルティ4:刑事告発(詐欺罪等)
特に悪質な事案については、詐欺罪(刑法第246条)等の適用による刑事告発が行われる可能性があります。実際にコロナ禍以降の摘発事例では、逮捕・起訴に至ったケースが複数報道されています。
通常期と特例期の違いと切替タイミング
雇調金には、平時の「通常制度」と、コロナ禍や大規模自然災害のような非常時に設けられる「特例制度(緊急対応措置)」の2種類があります。2026年時点では、コロナ禍の特例は終了しており、通常制度が適用されています。
通常制度の概要(2026年6月27日時点)
助成率は中小企業2/3・大企業1/2、1日あたり上限額は8,870円です。支給限度日数は1年間100日・3年間通算150日です。
生産量要件は「最近3か月の月平均が前年同期比10%以上の減少」と、それなりに厳格な基準が求められます。
特例制度(緊急対応措置)が設けられるとき
過去に特例制度が設けられた代表的な事例として、新型コロナウイルス感染症(2020〜2022年)と令和6年能登半島地震(2024年)があります。
特例制度では、助成率が引き上げられることがあります(コロナ禍では最大10/10まで引き上げられた時期がありました)。生産量要件の緩和(比較期間の変更・基準の引き下げ)が行われる場合もあります。支給限度日数が通常制度の上限を超えて設定されることもあります。
通常期と特例期の切替タイミング
特例制度は厚生労働省の告示・通知によって設けられ、期間も逐次延長・変更されます。切替のタイミングは制度によって異なるため、現在どちらの制度が適用されているかは、管轄の労働局またはハローワーク、あるいは厚生労働省のウェブサイトで確認することが必要です。
過去のコロナ特例の受給歴がある事業主の場合、その受給日数が通算の支給限度日数(3年間150日)に算入されることがあります。申請前に必ず受給歴の確認を行うことをおすすめします。
他の雇用関連助成金との使い分けと比較
雇調金を使うべき場面
雇調金が最も効果を発揮するのは「一時的な業績悪化で従業員を休ませる必要があるが、回復の見込みがある場合」です。
- 売上が前年比10%以上落ちていて、今後数か月の見通しが立たないとき
- 主要取引先の業況悪化・閉店等で受注が急減したとき
- 季節的な閑散期が例年より長引いているとき
一方、「事業規模を永続的に縮小する」場合は、雇調金よりも人員整理(退職勧奨・希望退職・整理解雇)の流れになることが多く、雇調金の本来の趣旨(雇用維持)とはかみ合わなくなります。
キャリアアップ助成金との比較
キャリアアップ助成金は、非正規雇用の正社員化や処遇改善を行った事業主への助成制度です。
- 対象:雇用形態の転換(有期→無期・正規化)・賃金改善等
- 申請タイミング:転換・改善を行った後
- 雇調金との関係:目的が異なるため、業績悪化時の休業には使えない。回復後の人材活性化策として検討する制度
特定求職者雇用開発助成金との比較
特定求職者雇用開発助成金は、高齢者・障害者・母子家庭の母・ひとり親等の就職困難者を雇い入れた事業主への助成制度です。
- 対象:特定の属性を持つ方の採用
- 申請タイミング:採用後
- 雇調金との関係:雇用維持(休業)ではなく雇用創出(採用)が対象なので趣旨が異なる。同一の賃金支出への重複はできない
人材開発支援助成金との比較
人材開発支援助成金は、従業員の職業訓練・スキルアップに対して助成する制度です。
- 対象:OJTや外部研修の費用・賃金
- 申請タイミング:訓練計画の提出後〜実施後
- 雇調金との関係:同一の教育訓練について雇調金の教育訓練加算と人材開発支援助成金を重複して受給することはできない。どちらが有利かを比較して選択する
産業雇用安定助成金との比較
産業雇用安定助成金は、在籍出向を活用する際に活用できる制度で、雇調金の出向補助と目的が重なりますが別制度です。
- 同一の賃金支出への重複不可
- 産業雇用安定助成金は出向の初期経費・運営経費・復帰後訓練を段階的に助成する
- 雇調金の出向補助は出向中の賃金補填が中心
個人事業主・小規模事業者目線のユースケース:1〜5人規模での活用シナリオ
シナリオ1:飲食業・定食屋(従業員2名)
月曜〜土曜で営業している定食屋に、パートが2名います。近隣道路工事の長期化と周辺のランチ需要の落ち込みで売上が前年比20%超落ちています。
使い方:2名を週2〜3日休ませ、その日の休業手当を支払いながら雇調金を申請する。1か月間の助成額の目安:仮に2名の休業手当合計が8万円なら、中小企業の2/3で約5.3万円が助成される計算です。
注意点:飲食業では日次の売上記録(現金出納帳・POS)が必要書類として使えます。通帳の入金明細も補完として使えます。手書きの売上日記は認められる場合もありますが、記録の連続性と数字の整合性が重要です。
シナリオ2:製造業・町工場(従業員5名)
自動車部品の一次加工を受託している町工場です。親会社から受注量が半分以下になり、週3日しか稼働できない状態が続いています。
使い方:従業員5名全員を週2日全日休業させ、週3日稼働に切り替える。1か月20日の所定労働日のうち8日を休業(全員)とした場合、延日数は5名×8日=40人・日。所定労働延日数は5名×20日=100人・日。40÷100=40%で休業規模要件(1/20)を大きく超えます。
休業手当の計算:平均賃金(日額)を仮に8,000円とすると、休業手当(60%)は1日4,800円。1人8日分で3万8,400円、5名で19万2,000円。助成額(中小2/3):19万2,000円×2/3=12万8,000円。1日8,870円×8日×5名の上限354,800円を下回っているため、12万8,000円が助成されます。
注意点:製造業では出荷伝票・受注記録・生産日報が証拠書類として有効です。受注台帳がない場合は取引先からの注文書・発注書のコピーを保管しておきます。
シナリオ3:小売業・衣料品店(個人事業主・従業員3名)
郊外のショッピングモール内の衣料品店です。モールへの来客数が減少し、3か月連続で前年比15%以上売上が落ちています。
使い方:3名を月の後半2週間(10日間)全員休業させ、その期間の仕入れや在庫整理・接客研修を主な業務から切り離したOFF-JT教育訓練に充てる(ただしOFF-JTであることを明確化し、休業日は実際に休業させること)。
この場合、全日休業の日と、教育訓練を実施した日を分けて計画届に記載します。教育訓練の日は休業加算に教育訓練加算(1,200円)が上乗せされます。
注意点:接客研修・製品知識研修などは職業に関する教育訓練として認められる場合がありますが、事前に計画を届け出ていることが必須です。「急に予定変更して今日は研修にした」という事後対応は認められません。
シナリオ4:サービス業・ハウスクリーニング(従業員4名)
法人の清掃契約が相次いでキャンセルになり、月の稼働量が前年の6割以下になっています。
使い方:4名のうち業務量に合わせて各人を月10日ずつ休業させる(各人でバラバラな日に休業する場合も、合計して規模要件を計算できます)。
注意点:個別の従業員ごとに休業日を設定する場合は、個人別の出勤簿・タイムカードが必須になります。従業員ごとに休む日がバラバラなので、各人の記録が混乱しないよう管理することが重要です。
よくある誤解・つまずきポイント
誤解1:「事後申請でもいい」
雇調金の計画届は、休業を実施する前日までに提出することが絶対条件です。「知らなかった」「後から気づいた」という場合でも、事後提出は原則として認められません。制度の存在を把握したら、業績が悪化し始めた段階で早めに管轄の労働局またはハローワークに相談することをおすすめします。
誤解2:「休業手当を60%にすれば助成率も60%」
助成率は休業手当の割合とは別物です。助成率は「支払った休業手当の総額」に対して中小企業なら2/3という形で計算されます。休業手当を60%支払っていても70%支払っていても、助成率は同じ2/3です。ただし、支払う休業手当の額が高いほど、2/3が掛かる元の金額が大きくなるため、助成額そのものは増えます。
誤解3:「助成金をもらったらそのまま全額利益になる」
助成金は課税対象です。雇調金として受け取った助成金は、事業主にとって雑収入として益金(法人)または事業所得の収入(個人事業主)になります。申告上は「受け取った年度の収入」として処理する必要があります。
誤解4:「タイムカードがなくても大丈夫」
出勤・休業の実績を証明するために、出勤簿またはタイムカードの保管は必須です。タイムカードがない場合でも、出勤簿(手書きでも可)を毎日記録する習慣をつけておく必要があります。なお、記録がなかったり、後付けで作成したことが判明した場合は不正受給として処理される可能性があります。
誤解5:「申請代行は誰でもできる」
雇調金の申請書類の作成代行・手続き代行は、社会保険労務士法(第27条)に基づく社会保険労務士の独占業務です。行政書士・税理士・コンサルタント等は、社会保険労務士の資格を持っていない限り、申請書類の作成代行・申請手続きの代行を行うことはできません。「申請代行」「申請サポート」と名乗る事業者に依頼する際は、相手方が社会保険労務士(または社会保険労務士法人)であることを確認してください。
誤解6:「1日のほんの少しだけ仕事を頼んだくらいは問題ない」
休業日として申請した日に、電話での業務連絡・簡単な発注作業・在庫確認など短時間の業務をさせていた場合でも、「実際には労働させていた」として問題になる可能性があります。休業日は完全に業務から切り離すことが原則です。
申請チェックリスト
申請の前・中・後の各段階で確認すべき項目をまとめます。
申請前の確認
- 雇用保険適用事業所であることを確認した(雇用保険適用事業所台帳で確認)
- 労働保険料に滞納がないことを確認した(未払いがある場合は先に対応)
- 最近3か月の売上高等のデータを月別に集計し、前年同期比の減少率を計算した
- 減少率が10%以上であることを確認した
- 雇用量(被保険者数)が前年同期比で過度に増加していないことを確認した
- 計画届の提出先(管轄の都道府県労働局)を確認した
- 最新の様式(様式第1号(1)・(2)・(4))を厚生労働省ウェブサイトからダウンロードした
- 労使協定書の内容(対象者・期間・休業手当割合等)を確認し、署名・押印を得た
- 計画届を休業開始前日までに提出した(できれば2週間前を目安)
休業実施中の確認
- 出勤簿またはタイムカードを毎日記録している
- 休業日と出勤日が明確に区別されている記録になっている
- 休業日に従業員に業務をさせていない(電話対応・在庫確認等も行わせていない)
- 教育訓練を実施する日は、訓練内容・時間・講師(または機関)を記録している
- 所定外労働(残業)がある場合は、日時・時間数の記録を残している
支給申請の直前確認
- 支給対象期間の末日(締切日)を確認し、申請期限(末日翌日から2か月以内)を把握した
- 休業手当の支払い(給与・休業手当の振込等)を完了した
- 賃金台帳・出勤簿の写しを用意した
- 最新の申請様式(様式第5号(1)(2)(3))をダウンロードした
- 計算した助成額が1人1日8,870円の上限を超えていないことを確認した
- 残業(所定外労働)があった場合は、様式第5号(3)に正確に記入した
よくある質問(FAQ)
Q1. 個人事業主でも雇調金は使えますか。
個人事業主でも、雇用保険に加入している従業員(被保険者)がいれば、雇調金を申請できます。事業主自身が従業員ではなく雇用保険に加入しているわけではないため、事業主本人の休業は対象外ですが、雇用している従業員の休業については申請できます。
Q2. 従業員が1人でも申請できますか。
従業員が1人でも雇用保険の被保険者であれば申請できます。ただし休業規模要件の計算において、1人だけを休ませた場合に1/20以上になるかを確認してください。月20日の所定労働日数のうち1日休ませれば1÷20=5%(=1/20)で要件を満たします。
Q3. 計画届を出した後に、休業の日程を変更したい場合はどうすればいいですか。
変更届(様式第1号(1)の変更届欄を使用)を、変更後の休業実施日の前日までに提出します。変更後の内容も事前届出が必要です。
Q4. 業績悪化の原因が複数あります(コロナの影響、原材料費高騰、台風被害など)。制度ごとに分けて申請する必要はありますか。
原因が複数であっても、「経済上の理由による事業活動の縮小」という条件を満たせば、通常の雇調金として申請できます。複数の原因を並列して記載して構いません。ただし特別な特例制度(自然災害等)が設けられている場合は、通常制度との選択・切替について管轄労働局に確認することをおすすめします。
Q5. 売上高の証拠書類が手書きの帳簿しかありません。使えますか。
手書きの帳簿でも、連続して記録されており日付と金額の整合性が確認できれば、証拠として認められる場合があります。ただし、後付けで作成したことが疑われると認められない可能性があります。申請前に管轄労働局に証拠書類として使えるかどうかを事前に相談することをおすすめします。
Q6. 教育訓練の内容として、どんな研修が認められますか。
職業に関する知識・技術・技能の習得や向上を目的とするOFF-JT(業務から切り離した訓練)が対象です。接客研修、製品知識研修、安全衛生教育、PC操作研修、語学研修(業務に関連するもの)、外部機関の講座受講、通信教育などが対象になり得ます。ただし、業務の段取りを教えるような日常的なOJTは対象外です。事前に計画届に記載して届け出ることが必須です。
Q7. 申請を社労士に頼まずに自分でできますか。
自己申請は可能です。実際に、小規模事業者が自力で申請しているケースもあります。ただし、計画届の記入方法・生産量要件の計算・労使協定の作成・申請書類の記入など、細かい点で間違えると受け付けられないリスクがあります。管轄の労働局やハローワークでは申請前相談に応じている場合があるため、まず電話で問い合わせてみることをおすすめします。
Q8. 社労士に頼んだ場合、費用はいくらかかりますか。
社会保険労務士事務所によって異なりますが、雇調金の申請代行費用の一般的な相場として、着手金が2〜15万円程度、成功報酬が助成金受給額の10〜20%程度という例が多く見られます。着手金なし・成功報酬のみという形態の事務所もあります。
費用対効果の目安として、受給できる助成金の額が社労士費用を大きく上回るかどうかが判断の基準になります。助成金は受け取った額がそのまま手元に残るため、経常利益率が5%の事業であれば、100万円の助成金は2,000万円の売上に相当する効果があるとも言われます。書類作成の手間と費用を天秤にかけ、受給見込み額が少ない場合は自己申請も選択肢に入ります。
Q9. 雇調金の申請中に他の融資や補助金を受けてもいいですか。
融資(借入)は雇調金の受給とは原則として干渉しません。他の補助金・助成金については、同一の支出(賃金・訓練費等)への重複受給ができない場合がありますが、別の目的・対象に係る補助金であれば並立できます。個別の状況については管轄労働局や社労士に相談してください。
Q10. 雇用保険の手続きを後れて行った場合でも、遡及して雇調金を申請できますか。
雇用保険の加入手続きが遅れていた場合でも、加入手続きを完了させれば申請自体はできる可能性があります。ただし、雇用保険の遡及加入には制限があり、また計画届の事前提出という条件を満たすためには制度の利用開始前から雇用保険が適用されていることが必要です。「今から加入手続きをして、来月の休業から使えるか」という形が現実的な対応になります。管轄のハローワークに具体的な状況を相談してください。
Q11. 今は業績が悪くないが、悪くなったときのために事前に計画届を出しておけますか。
計画届は「雇用調整を実施する予定がある場合に事前に届け出るもの」です。まだ業績悪化していない段階での計画届は難しく、要件(生産量要件等)を満たしていないと受理されません。業績が悪化してきた段階で速やかに生産量要件を確認し、計画届を出すことが実務上の流れになります。
Q12. 解雇をした後でも雇調金を受け続けられますか。
雇調金は「雇用を維持するための制度」です。対象となる従業員を解雇した場合、その後の申請に影響が出る可能性があります。特に、支給要件の一つに「不当な解雇をしていないこと」が含まれる場合があります。詳細は管轄の労働局に確認してください。
社労士への依頼費用の相場と費用対効果の目安
申請代行が「独占業務」である理由
雇調金の申請書類の作成代行・申請手続き代行は、社会保険労務士法第27条に基づく社会保険労務士(以下「社労士」)の独占業務です。社労士以外の者が業として申請書類の作成や提出代行を行うことは、法律で禁じられています。「申請代行サービス」「助成金コンサルタント」等の名称で活動している業者の中に、社労士資格を持たないにもかかわらず申請代行を行っているケースが報告されているため、依頼する際は相手が社会保険労務士(または社会保険労務士法人)であることを確認してください。
費用の相場
社労士事務所によって報酬体系は様々ですが、一般的には以下の2パターンが多く見られます。
着手金+成功報酬型:着手金が2〜15万円程度で、申請が採択された場合に受給額の10〜20%程度の成功報酬を支払う形です。着手金は採択・不採択に関わらず発生します。
成功報酬のみ型:着手金なしで、採択された場合のみ受給額の20〜30%程度を支払う形です。事業主にとってリスクが少ない一方、報酬率が高めになる場合があります。
雇調金に関しては、申請の複雑さ(休業期間の長さ・従業員数・書類の多さ)によって費用が変わる場合もあります。複数の社労士事務所から見積もりを取ることをおすすめします。
費用対効果の判断軸
社労士に依頼すべきかどうかの判断軸として以下を参考にしてください。
従業員数・休業日数が多い場合は、書類の量と計算の複雑さが増すため、社労士に依頼する効果が大きくなります。従業員1〜2名で短期間の休業なら、自己申請でも対応できる可能性があります。
過去に労働保険・社会保険の手続きで不備や滞納があった場合は、先に整理が必要なため社労士のサポートが有効です。
受給見込み額が大きい場合(100万円超を見込める場合など)は、社労士費用を支払っても十分なメリットがあります。
自社で書類作成・計算・記録管理を完結できるかどうかの自己評価も重要です。忙しい繁忙期に申請作業が重なる場合は、専門家に任せることで本業への影響を最小化できます。
業種別・規模別のよくある申請パターンと実務上の注意点
飲食業(個人事業主・小規模店舗)
飲食業は客単価・席数・立地に左右されるため、売上の変動が比較的大きく、雇調金を活用しやすい業種の一つです。
実務上の注意点として、売上高の証拠書類に気をつける必要があります。POSレジを使っている場合は日次集計のレポートが使えます。現金商売でPOSがない場合は、現金出納帳(日々の売上を記録したもの)と通帳の照合で示す形になります。売上の一部がキャッシュレス決済(クレジットカード・PayPay等)の場合は、決済端末の月次集計が証拠として使えます。
飲食業では「なんとなく売上が落ちている」ではなく、月別の数字を記録し続けていることが申請の前提になります。まだ記録が不十分な場合は、今から帳簿を整えることが先決です。
また、休業日の設定として定休日(もともと休みの日)は対象になりません。所定労働日(本来は働く日)を休業させた場合のみが対象です。週1日定休日の店で「月〜土の所定労働日のうち週2日を追加で休業させた」ケースが典型的な対象です。
製造業(下請け・町工場)
受注量の変動が大きい下請け製造業は、親会社の生産調整の影響を直接受けることが多く、雇調金の需要が生じやすい業種です。
出荷量や稼働率を生産量要件の指標として使う場合、工場日報・生産記録・出荷伝票の保管が重要になります。製造業では月次の生産量を記録する習慣がある事業所が多いため、証拠書類の収集がしやすい傾向にあります。
時間短縮休業(短時間休業)を選ぶ場合もあります。例えば通常8時間稼働のところを6時間稼働に縮小する形です。この場合は1日の所定労働時間から短縮した時間が休業分に相当します。計算上、全日休業よりも日あたりの助成額は小さくなりますが、完全に休ませるより稼働率を維持しながら申請する選択肢として使えます。
機械・設備の稼働率(可動時間)を指標として使う場合は、稼働管理システムの出力・運転記録が証拠になります。稼働率の計算に使う「基準稼働時間(能力フル稼働時の時間)」を明確に定義して記録に残すことが重要です。
サービス業(清掃・警備・訪問介護等)
委託契約が多いサービス業では、契約件数・稼働件数を指標として使う場合があります。
訪問介護事業所など、利用者の状況によって稼働が変動する場合は、実績時間の月次集計(介護記録・業務記録)が証拠になります。
人員配置の制約がある事業(夜間警備・訪問介護等)では、「誰かを必ず勤務させなければならない日」があるため、どの従業員を対象に休業させるかの選択が難しくなることがあります。計画届の段階で「どの従業員に何日の休業を割り当てるか」を明確に計画し、届け出の内容を実績と一致させることが重要です。
小売業(個人経営の店舗)
物販の小売業では売上高が最も分かりやすい指標です。POSや帳簿の記録に加え、ECサイト(ネットショップ)がある場合は売上管理画面の月次集計も証拠として使えます。
季節性が強い業種(季節商品・農産物直売等)では、前年同期比の比較月に「例外的に良かった時期」が含まれることがあります。例えば前年の同月に周年セール等があって売上が高く、今年はその反動で低く見えるケースです。この場合、減少率の計算に影響するため、担当労働局に「比較月の特異性」を事前に説明しておくことをおすすめします。
時間単位の休業(短時間休業)の詳細
雇調金の対象となる休業には、1日全部を休ませる「全日休業」だけでなく、所定労働時間の一部を短縮する「時間単位の休業(短時間休業)」があります。
短時間休業とはどのような形か
所定労働時間が1日8時間の従業員に対して、毎日2時間分だけ早退させる(実働6時間にする)ような形が短時間休業です。全員が同じ時間帯に帰るケースもあれば、交代制で各人が短縮される日を設けるケースもあります。
計算の考え方
短時間休業では、1日の実労働時間が所定労働時間より短い部分が「休業相当時間」になります。
例:所定労働時間8時間、実労働6時間の場合、2時間が休業相当。1日を1日として数えるのではなく、2時間÷8時間=0.25日が1日の休業として計算されます。
助成の単位は日ではなく時間換算になるため、計算が全日休業より複雑になります。
短時間休業が向く場面
全員を丸1日休ませると業務が回らない(最低限の人員が必要)場合に有効です。例えば、飲食店のランチ営業はこれまで通り行いながら、夜の営業を早上がりにする形や、製造ラインを半日稼働にして午後は全員帰宅させる形が典型的です。
短時間休業は計画届での記載が全日休業より細かくなるため、計画届の書き方について管轄労働局に事前確認することをおすすめします。
令和6年4月改正・令和7年以降の主な変更点
令和6年4月:算定方式の一本化(実費方式)
最も重要な改正です。令和6年4月以降(令和6年1月1日以降に初日を迎える判定基礎期間から順次適用)、雇調金の助成額の計算方法が「実費方式」に一本化されました。
それまでは「平均賃金方式」と「実費方式」の2種類が並立していました。平均賃金方式は過去の平均賃金から計算する方法で、実費方式は実際に支払った休業手当の総額から計算する方法です。令和6年4月以降は実費方式のみとなっています。
実費方式の実務的な意味:実際に従業員に支払った休業手当の合計額に助成率(中小2/3)を掛けた金額が助成額になります。したがって、休業手当を多く支払うほど助成額も増えます(1日8,870円の上限内に限ります)。
令和6年4月:教育訓練実施率に応じた助成率変動
教育訓練加算の扱いが、累計30日到達後に教育訓練実施率に応じて変動する制度に改正されました。1/5以上で1,800円(中小企業)、1/10未満では加算なし、という段階的な扱いになっています。
令和7年度以降の動向
令和7年度においては、能登半島地震・奥能登豪雨の影響を受けた地域の事業主向けに特例措置が設けられています(特定被災地域の事業主に対する要件緩和・助成率引き上げ等)。特例の適用を受ける事業主の方は、管轄の労働局に個別確認が必要です。
通常制度の助成率・上限額については、1日上限額が雇用保険の基本手当日額の最高額に連動するため、毎年8月に見直される場合があります(2026年8月以降の額は確認が必要です)。
雇調金を活用する前に知っておきたい法律上の前提(労働基準法との関係)
雇調金の申請を検討する前に、休業に関連する労働基準法の規定を押さえておくことが重要です。法律の要件を満たさない休業を行ってしまうと、助成金の対象外になるだけでなく、労働基準法違反にもなりかねません。
労働基準法第26条(休業手当)
労働基準法第26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合、事業主は平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならないと定めています。
雇調金の対象となる休業は、この「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当します。つまり、事業主が休業を命じる場合は、平均賃金の60%以上の支払いが法律上の義務です。
雇調金は、この休業手当の一定割合を助成するしくみです。助成金を受け取っても、従業員への支払いは必ず法定の60%以上を確保する必要があります。
「使用者の責に帰すべき事由」と「天変地変等不可抗力」の違い
判例上、「天変地変等の不可抗力」による休業は使用者の責に帰すべき事由に該当せず、休業手当の支払義務がないとされています。一方で、景気悪化・受注減少・材料不足などの経営上の理由は「使用者の責に帰すべき事由」とみなされることが多く、休業手当の支払いが必要です。
雇調金の文脈では「経済上の理由による事業活動の縮小」が支給要件ですから、雇調金を申請する場合は休業手当の支払義務が生じているケース(使用者の責に帰すべき事由)ということになります。
平均賃金の計算方法
休業手当の基礎となる「平均賃金」は、直前の賃金締切日以前3か月間に支払われた賃金総額を、その3か月間の総日数(暦日数)で割った額が基本です(労働基準法第12条)。
ただし、パートタイム労働者の場合は、上記の計算と「最低保障額(総賃金÷労働日数×0.6)」を比べて、高いほうを採用します。
計算例:月給10万円・月20日勤務のパートの場合
3か月の賃金総額:30万円
3か月の総日数(仮に91日):91日
平均賃金(日額):30万円 ÷ 91日 ≒ 3,297円
最低保障額:30万円 ÷ 60日(3か月の実労働日数)× 0.6 = 3,000円
平均賃金は3,297円の方が高いため、3,297円を採用。
休業手当(60%):3,297円 × 60% ≒ 1,978円/日
実際の計算は従業員の賃金形態・労働契約によって変わるため、不明な場合は社労士や最寄りの労働局・労働基準監督署に確認してください。
実際の申請フローを時系列で整理する(初回申請の全体像)
雇調金の申請は、計画届→休業実施→支給申請という3段階の流れになります。ここでは初めて申請する事業主が「何を・いつ・どこに」提出するかを時系列で把握できるよう整理します。
フェーズ1:申請を検討し始めた段階でやること
まず管轄の都道府県労働局またはハローワークに電話で相談予約を入れることが、実務的に最初の一歩です。「雇調金の申請を検討しているが、要件を満たしているか相談したい」と伝えれば、担当者が対応します。
この段階で準備しておくとよい情報・書類は以下の通りです。
- 事業の種類(業種)・規模(従業員数・雇用保険被保険者数)
- 直近3か月と前年同期の売上高等の数値(月別)
- 雇用保険適用事業所番号(適用事業所台帳に記載)
- 労働保険番号
- 休業を想定している対象者数・日数のイメージ
電話相談では、生産量要件を満たしているかの概算確認、証拠書類として何が使えるかの確認、計画届の提出方法の案内などを受けられます。持参相談が必要な場合は予約を取ります。
フェーズ2:計画届の提出(休業開始の前日まで)
相談後、様式の作成と添付書類の準備を進めます。
様式のダウンロード先は厚生労働省のウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000080400.html)です。毎年更新されることがあるため、必ず最新版を使います。
計画届の提出は、郵送・窓口持参・電子申請のいずれかで行います。郵送の場合は簡易書留等で送り、控えを手元に保管します。窓口に持参する場合は、担当者がその場で内容を確認してくれる場合があり、不備があれば指摘を受けられます。
計画届が受理された場合は、労働局から「受付印が押された控え」が返送または渡されます。この控えは必ず保管します。
フェーズ3:休業の実施・記録の管理(計画届提出後〜支給申請まで)
計画届が受理されたら、届け出た計画通りに休業を実施します。
この期間に最も重要なのは「記録の正確な管理」です。
出勤簿またはタイムカードは、毎日の出勤・休業・教育訓練の区別が明確に記録されていることが必要です。手書きの場合は、その日のうちに記入する習慣をつけてください。後付けで記入すると、記録の整合性が疑われる場合があります。
休業手当の計算は、各従業員の平均賃金(日額)から計算します。平均賃金は直前3か月の賃金総額をその期間の総日数で割った額(最低額の計算方法)が基本ですが、労働基準法の定める計算方法に従います。計算に自信がない場合は、申請前に社労士か労働局に確認することをおすすめします。
フェーズ4:休業手当の支払い
支給申請は「休業手当の支払い後」に行います。月末締め・翌月25日払い等、自社の賃金支払サイクルに合わせて、休業手当を振込みまたは手渡しで支払います。
支払の記録(振込明細・給与明細)は、支給申請の際の証拠書類になるため保管します。
フェーズ5:支給申請書類の作成
支給申請書(様式第5号(1)(2)(3))を最新版でダウンロードして作成します。
助成額算定書(様式第5号(2))では、実際に支払った休業手当の総額・対象労働者数・休業日数などを記入し、助成額を計算します。実費方式(令和6年4月以降)では、支払った休業手当の実績額が計算の出発点になります。
休業・教育訓練実績一覧表(様式第5号(3))では、従業員ごとに休業日・教育訓練実施日・出勤日・残業があった日を記入します。残業(所定外労働)があった場合はその時間も記入します(残業相殺の計算に使います)。
フェーズ6:支給申請の提出
申請期限(支給対象期間末日の翌日から2か月以内)を守って提出します。
提出先は管轄の都道府県労働局です。郵送・窓口・電子申請のいずれかで行います。電子申請(e-Gov)を利用する場合は、事前に電子証明書の準備や申請ページの確認が必要です。
提出した書類のコピーは必ず手元に残します。審査中に追加書類の提出を求められる場合もあるため、全書類のコピーを保管します。
フェーズ7:審査と支給
審査には通常1〜2か月かかりますが、申請件数の増減や書類の不備によって前後します。審査中に追加書類・照会があった場合は速やかに対応します。
支給が決定されると、事業主の指定口座に助成金が振り込まれます。支給通知書が郵送されるので保管してください。
不支給の場合は不支給通知書が届きます。不支給理由を確認し、対応可能な不備なら修正して再申請を検討します(申請期限内であることが前提)。
次の判定基礎期間の申請が必要な場合は、同様の流れで繰り返します(支給限度日数の範囲内で)。
判定基礎期間の理解と複数月にわたる申請のポイント
雇調金では「判定基礎期間」という概念が重要です。これを正確に理解しないと、支給申請の期限を誤ったり、複数月にまたがる場合の管理が煩雑になります。
判定基礎期間とは
判定基礎期間は、原則として「賃金の締切日の翌日から次の締切日まで」の期間です。多くの事業所では、月末締め(1日〜末日が1つの判定基礎期間)または特定の日付(例:21日〜翌20日)になります。
この判定基礎期間ごとに、休業規模要件の確認・助成額の計算・支給申請が行われます。
複数月にわたる場合の管理
3か月間休業を続ける場合は、判定基礎期間が3回分になり、それぞれに支給申請を行います。1回目の申請期限を守りつつ、2回目・3回目も追いかけていく形になります。
実務的な注意点として、判定基礎期間が変わるたびに休業の延日数・所定労働延日数・残業日数を集計し直す必要があります。月をまたいで集計を合算しないように注意します。
また、対象期間の通算日数(1年間で100日・3年間で150日)が近づいてきたら、残日数を確認して計画を調整する必要があります。支給日数が上限に達すると、それ以降の申請は受け付けられません。
判定基礎期間と計画届の更新
計画届は判定基礎期間ごとに提出が必要とは限りませんが、当初の計画届で定めた期間を延長する場合は変更届が必要です。また、当初の対象者から外れた従業員が生じた場合や対象者を追加する場合も、変更届で対応します。
変更届も「変更後の休業実施日前日まで」の事前提出が必要です。計画の変更が生じたら速やかに対応します。
資金繰りの観点から見た雇調金の使い方
雇調金は「後払い」の制度です。まず休業手当を支払い、その後に申請して、さらに1〜2か月後に助成金が入金されます。この「先払い・後補填」という性格を理解した上で資金計画を立てることが重要です。
キャッシュフローのタイムライン(例)
7月に休業を実施した場合のキャッシュフローの流れを示します。
7月:休業実施(出勤簿・タイムカードに記録)
8月末:7月分の休業手当を支払い(給与支払日)
9月末:支給申請期限(7月分の判定基礎期間末日翌日から2か月以内)
10〜11月:審査(約1〜2か月)
11〜12月:助成金振込
7月の休業手当を支払ってから助成金が入金されるまで、最短でも3〜4か月かかります。この間の資金手当てを事前に考えておく必要があります。
資金繰り対策
業績が悪化している時期に休業手当を立て替え払いする余力がない場合は、以下の選択肢を並行して検討することをおすすめします。
日本政策金融公庫や信用保証協会のセーフティネット融資(5号・4号)は、売上減少時に利用できる融資制度です。雇調金の申請中でも借入は可能です(融資と助成金は原則として別物です)。
雇用調整助成金の対象期間を最初から無理に長く設定せず、1か月ずつ区切って実績を見ながら延長する計画にすると、予算管理がしやすくなります。
助成金の入金後に次の休業を実施するというサイクルにすることは、資金繰りとしては最も安全ですが、業況に合わせた柔軟な計画が求められます。
出典一覧(URL・確認日)
本記事は以下の一次情報を確認した上で執筆しています。
- 雇用調整助成金(厚生労働省公式ページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07_20200515.html
確認日:2026-06-27
- 雇用調整助成金 様式ダウンロード(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000080400.html
確認日:2026-06-27
- 雇用調整助成金 不正受給(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/kochokin_husei.html
確認日:2026-06-27
- 雇用関係助成金の不正受給について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index_00061.html
確認日:2026-06-27
- 雇用調整助成金 支給申請(令和4年11月30日現在版・参考資料、厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000782442.pdf
確認日:2026-06-27(最新版は上記様式ダウンロードページにて確認のこと)
- 産業雇用安定助成金(産業連携人材確保等支援コース)(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/sankokinsangyourenkeijinzaikakuhotou_00001.html
確認日:2026-06-27
免責事項
本記事は情報提供を目的としており、個別の申請代行・書類作成代行・法律的助言を行うものではありません。雇用調整助成金の申請書類の作成代行・申請手続きの代行は社会保険労務士法に基づく社会保険労務士の独占業務です。制度の詳細・最新の要件・申請手続きについては、管轄の都道府県労働局またはハローワーク、もしくは社会保険労務士に直接ご確認ください。助成金の採択・支給は要件審査の上で行われるものであり、要件を満たした場合でも必ず受給できることを保証するものではありません。金額・要件・手続きはいずれも改定される場合があります。