人材開発支援助成金(従業員の研修費・賃金を補助)事業主向け完全ガイド — 6コースの選び方から申請実務まで

本記事は2026年6月27日時点の公開情報に基づきます。金額・要件・受付期間はいずれも変更されることがあるため、申請前に必ず公式サイトおよび管轄の都道府県労働局で最新情報をご確認ください。

本記事は情報提供を目的としており、申請書類の作成代行・個別の手続き代行は行いません。申請書類の作成代行・手続きの代行は社会保険労務士の業務範囲です。個別の申請については、管轄の都道府県労働局またはハローワーク、あるいは社会保険労務士にご相談ください。

この記事が整理すること

従業員に研修を受けさせたいと考えている事業主の方に向けて、人材開発支援助成金の制度全体を整理します。

この助成金を調べ始めると、まず「コースが多すぎてどれを使えばいいかわからない」という状況に陥りやすいです。厚生労働省の公式ページには6つ(プラス障害者職業能力開発コース)のコースが並んでおり、それぞれに助成率・対象訓練・申請期限が異なります。どのコースが自社に合うかを判断しないまま申請を進めてしまうと、後から要件を満たしていなかったことに気づくという失敗パターンが生まれます。

この記事では、以下の点を整理します。

まず、6つのコースが何を目的にしているか、どんな事業主に向いているかを横断的に整理します。次に、助成率と助成額の計算式を、実際の金額に落とし込んで示します。そのうえで、申請の流れと各ステップで何をするかを具体的に解説し、よくある失敗パターンと回避策も取り上げます。さらに、他の雇用関係助成金との組み合わせ方についても整理します。

対象読者は、個人事業主・法人を問わず、雇用保険の適用を受ける従業員を抱えているすべての事業主です。従業員数1人の個人事業主でも、従業員が雇用保険の被保険者であれば申請対象になります。

制度の全体像

人材開発支援助成金とは何か

人材開発支援助成金は、事業主が雇用する労働者に対して職務に関連した訓練を実施した場合に、訓練にかかった経費と訓練期間中の賃金の一部を国が助成する制度です。厚生労働省が所管し、申請窓口は各都道府県労働局(一部の手続きはハローワーク)が担います。

助成の対象は「事業主が外部研修を受けさせた場合の受講料」と「その訓練時間中に支払った賃金」の2種類です。自腹で払った研修費用を後から一部返してもらえる、後払い型の制度です。受け取れる助成金は申請後の審査を経て振り込まれるため、研修費用は一度全額を事業主側で立て替える必要があります。

制度の目的は、日本全体の職業能力開発を促進することです。デジタル化・リスキリングへの対応として、近年は支援内容が拡充されてきましたが、その分コースも増えて複雑になっています。

6つのコースと対象者の整理

以下の6コースが主な対象です(障害者職業能力開発コースはNo.86で取り上げるため、本記事では省略します)。

1つ目は、人材育成支援コースです。最も汎用性が高く、「とにかく従業員に研修を受けさせたい」事業主向けの基本コースです。OFF-JT(職場を離れた座学・外部研修)が中心で、業種・規模を問わず使えます。正規雇用者、有期契約労働者、正社員化を目指す有期契約者それぞれに助成率が設定されています。

2つ目は、教育訓練休暇等付与コースです。従業員が自分の意思で長期間の学習をするために、有給の休暇制度を会社として導入した場合に助成が出るコースです。「制度として就業規則に盛り込み、実際に取得した実績がある」ことが条件になります。

3つ目は、人への投資促進コースです。デジタル人材・高度人材の育成を目的としたコースで、AIやDX関連の研修、自発的な学習の支援、定額制研修サービス(サブスクリプション型eラーニング)の導入などが対象になります。このコースは令和8年度(2026年度)が最終年度となる見込みであり、令和9年度以降の継続は現時点で確定していません。

4つ目は、事業展開等リスキリング支援コースです。新規事業立ち上げや事業転換に伴い、新たな分野の知識・技能を従業員に習得させる訓練が対象です。助成率が最大75%と高く、設備投資加算(訓練用設備の購入費用の50%、中小企業のみ、上限150万円)も2026年度改正で新設されました。このコースも令和8年度(2026年度)が最終年度となる見込みです。

5つ目は、建設労働者認定訓練コースです。建設業の事業主が、都道府県知事の認定を受けた訓練を実施した場合に適用されるコースです。

6つ目は、建設労働者技能実習コースです。建設業の事業主または建設業者団体が、建設労働者に技能実習を実施した場合に助成が出るコースです。

本記事の後半では、事業主が実際に使いやすい人材育成支援コース・人への投資促進コース・事業展開等リスキリング支援コース・教育訓練休暇等付与コースを中心に詳しく解説します。建設系2コースは対象が建設業に限定されるため、概要の紹介にとどめます。

助成率・助成額のざっくりした全体像

中小企業と大企業(中小企業以外)で助成率が異なります。中小企業の定義は業種によって異なりますが、製造業・建設業・運輸業は資本金3億円以下または従業員300人以下、卸売業は資本金1億円以下または従業員100人以下、サービス業は資本金5,000万円以下または従業員100人以下、小売業は資本金5,000万円以下または従業員50人以下が目安とされています(要件の詳細は厚生労働省の公式資料でご確認ください)。

主なコースの助成率を一覧で示します(確認日:2026年6月27日。数値は時期・要件によって変動します)。

人材育成支援コース(OFF-JT)の経費助成率は、中小企業で45%、大企業で30%です。有期契約労働者が対象の場合は中小企業70%です(大企業への適用はありません。令和8年4月8日以降の公式パンフレット掲載値)。有期契約労働者を正規雇用に転換した後に訓練した場合は中小企業75%、大企業60%とさらに高くなります。賃金助成は1人1時間あたり中小企業800円、大企業500円が目安です(賃上げを実施した場合は上乗せあり)。

人への投資促進コース(高度デジタル人材訓練・成長分野等人材訓練)の経費助成率は、中小企業・大企業ともに75%です。賃金助成は1人1時間あたり1,000円が目安です。

事業展開等リスキリング支援コースの経費助成率は、中小企業75%、大企業60%です。賃金助成は1人1時間あたり1,000円が目安です。

教育訓練休暇等付与コースは、制度を導入して休暇を取得した際に最大30万円(条件によっては36万円)が助成される形です。

申請窓口と一次情報の確認先

申請先は、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局です。コースや申請内容によってはハローワークを経由する手続きもあります。電子申請は「雇用関係助成金ポータル」から行うことができます。

公式情報の一次確認先は厚生労働省のウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html)です。コースごとの詳細な要件や様式は、各コースのパンフレット(PDF)に掲載されています。

【無料サンプル】研修費100万円を使って人材育成支援コースを申請したら実際いくら戻るか — 1ケースを最後まで全部見せます

研修費がいくら戻るかを最初に計算できると、申請する価値があるかどうかの判断がしやすくなります。ここでは「人材育成支援コース(OFF-JT)」を使って、典型的な1ケースを申請の手順・計算・窓口まで、出し惜しみせず最後まで解説します。

ケースの前提条件

想定するのは、従業員10名を雇う小売業の有限会社(中小企業に該当)です。2026年9月に、正規雇用の従業員5名をIT・業務効率化研修(外部研修会社・2日間・合計16時間)に参加させるとします。

研修費用の前提は以下の通りです。外部研修会社への受講料は5名分で合計100万円(1人20万円)とします。訓練時間中に支払う賃金は、1人あたりの時給換算が1,500円で、訓練時間16時間の5名分の合計が12万円(1,500円×16時間×5名)とします。

ステップ1:計画届を訓練開始の1ヶ月前までに提出する

訓練開始の1ヶ月前までに(かつ6ヶ月前からの期間内に)、管轄の都道府県労働局に「訓練実施計画届(様式第1号)」を提出します。この計画届を出す前に研修が始まってしまうと、その訓練は助成金の対象外になります。これが最も多い失敗パターンです。

このケースでは9月に研修開始予定のため、遅くとも8月上旬(研修開始日の1ヶ月前)までには提出を完了させる必要があります。余裕をもって7月中に提出することをおすすめします。

計画届に必要な書類の主なものは以下の通りです(コースや事業所の状況によって異なります)。訓練実施計画届(様式第1号)、訓練カリキュラム、職業能力開発推進者の選任を確認できる書類、事業内職業能力開発計画(策定済みであることが前提)、訓練の内容がわかる資料(外部研修会社の案内書・カリキュラム等)などが求められます。

提出先は事業所の所在地を管轄する都道府県労働局です。都道府県によってはハローワークを経由する場合があります。電子申請(雇用関係助成金ポータル)でも提出可能です。

ステップ2:計画届が受理されてから訓練を実施する

計画届が受理されてから訓練を開始します。受理前に開始してしまうと対象外になるため、受理の確認は必ず行ってください。

訓練中は以下の記録を残しておく必要があります。訓練出席者名簿(日付・氏名・署名)、タイムカードまたは出退記録(訓練開始・終了時刻を確認できるもの)、受講費用の領収書または請求書、講師・研修会社との契約書、賃金台帳(訓練期間中の賃金支払い実績)です。

賃金助成を受けるには、訓練中の賃金がきちんと支払われていることが前提となります。欠勤・遅刻があった場合は、その時間分は助成の対象になりません。

また、訓練時間の計算で注意が必要な点があります。昼休みや休憩時間は訓練時間に含まれません。たとえば「9時から17時の研修で1時間昼休み」がある場合、訓練時間は7時間として計算します。このケースでは2日間・合計16時間としていますが、実際には休憩時間を除いた純粋な訓練時間で計算する必要があります。

ステップ3:訓練終了後2ヶ月以内に支給申請書を提出する

研修が終わった翌日から2ヶ月以内に、管轄の都道府県労働局に支給申請書を提出します。この期限は厳守で、1日でも過ぎると受理されません。

このケースでは9月に研修を実施するため、遅くとも11月末までに支給申請を提出する必要があります。

支給申請書に添付する主な書類は以下の通りです(コースや訓練内容によって異なります)。支給申請書(訓練様式第5号)、受講費用の領収書・明細書、訓練出席簿(受講者全員分)、賃金支払いを確認できる賃金台帳、タイムカード等の出退記録、訓練カリキュラムおよびその実施状況確認書、受講料等の価格設定に関する疎明書(様式28号・令和8年5月14日以降の申請で必須)などが必要です。

ステップ4:審査を経て支給決定・振り込み

書類提出後、都道府県労働局が審査を行い、問題がなければ支給決定通知が届き、指定口座に振り込まれます。審査期間の目安は申請から3ヶ月から6ヶ月程度です(状況によってはそれ以上かかることもあります)。

実際に受け取れる金額の計算

このケースで受け取れる助成金の計算をします。

まず経費助成(受講料の助成)を計算します。受講料の合計は100万円です。正規雇用の従業員5名が対象で、中小企業の人材育成支援コース(OFF-JT)の経費助成率は45%です。

100万円 × 45% = 45万円

次に賃金助成(訓練時間中の賃金の一部助成)を計算します。人材育成支援コース・中小企業・正規雇用者の賃金助成は1人1時間あたり800円が目安です。

800円 × 16時間 × 5名 = 6万4,000円

経費助成45万円と賃金助成6万4,000円の合計は51万4,000円になります。

研修費用の総額は受講料100万円と訓練中の賃金12万円を合わせた112万円でした。そこから51万4,000円が戻ってくるとすれば、実質的な負担は60万6,000円ということになります。つまり、約46%の費用を回収できる計算です。

ここで重要なのは、助成金は後払い(立替返金方式)であり、研修を実施した後に申請してから数ヶ月後に入金されるという点です。資金繰りに余裕がない状態で助成金を当てにしたスケジュールを組むのは危険です。

申請の窓口と相談先

申請先は、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局の職業対策課(または訓練課)です。事前に電話やウェブサイトで確認すると、必要書類の漏れを防ぐことができます。

無料で相談できる場所として、都道府県労働局のほか、各地のハローワークでも基本的な案内を行っています。また、商工会議所・商工会でも中小企業向けの助成金相談窓口が設けられていることがあります。

なお、申請書類の作成や手続きの代行は社会保険労務士の業務範囲です。複雑な書類対応や申請管理に不安がある場合は、社会保険労務士への相談をご検討ください。

ここから先は、申請に直結する実務です。

6コースの詳細と使い分け

人材育成支援コース — 最も汎用的な基本コース

人材育成支援コースは、業種・規模を問わず幅広い事業主が利用できる基本コースです。対象となる訓練はOFF-JT(座学・外部研修など)を中心に、OJT付き訓練(認定実習型訓練)も含まれます。

訓練の種類ごとに助成率が細かく設定されています(2026年6月27日時点・中小企業の場合)。

正規雇用労働者に対するOFF-JTの経費助成率は45%(大企業30%)、賃金助成は1人1時間あたり800円(大企業500円)です。賃上げを実施した場合は+15%(経費)・+200円(賃金)の加算があります。

有期契約労働者に対するOFF-JTの経費助成率は70%です(中小企業のみ。大企業への適用はありません。令和8年4月8日以降の公式パンフレット掲載値)。訓練後に有期契約のままの場合が対象です。

有期契約労働者を正規雇用(無期フルタイム転換等)した場合の訓練は、経費助成率75%(大企業60%)になります。正社員化を目指したキャリアアップの文脈で活用できる最大の助成率です。

認定実習型訓練(OJTとOFF-JTを組み合わせた訓練)には、別途の助成額設定があります。

中高年齢者実習型訓練は、2026年4月8日の改正で新設されました。45歳以上の正規雇用労働者や有期契約労働者を対象に、6ヶ月換算で425時間以上の訓練を実施した場合に経費助成率60%(中小企業)・賃金助成800円/時間が適用されます。

訓練の最低時間数は原則10時間以上(コースや訓練区分によって異なります)です。

このコースが向いている事業主の例として、次のような場合が挙げられます。製造業で新人社員に機械加工や品質管理の研修を受けさせたい場合。飲食業で調理師免許取得や食品衛生管理の研修を実施したい場合。介護事業所で介護職員が外部のスキルアップ研修に参加する場合。IT業で社員にクラウド活用やセキュリティの研修を受けさせたい場合。建設業で職人に技能検定の受験に向けた講習を受けさせたい場合。小売業でマネジメント研修や販売士検定の受講を支援したい場合です。

教育訓練休暇等付与コース — 従業員の自発的学習を制度として後押し

このコースは、従業員が自分の意思で学習するための有給休暇制度(教育訓練休暇)を会社として就業規則に定め、実際に取得実績が生まれた場合に助成が出るものです。

制度を導入して実際に取得者が出た場合に、最大30万円(取得者がまとまった人数いる場合は36万円)が助成されます(確認日:2026年6月27日・要件詳細は公式パンフレット参照)。

2026年度改正で、制度導入から3年待機していた申請条件が6ヶ月経過後から申請可能になりました。これにより、制度を導入してから半年後には申請ができるようになったため、導入のハードルが下がっています。

このコースが向いている事業主として、「社員が自分でオンライン資格取得や通信講座をしたいと言っているが、会社としての制度がなかった」という事業主に適しています。従業員の主体性を支援したい場合の選択肢です。

注意点は、就業規則への規定が前提となることです。従業員10名未満で就業規則の労働基準監督署への届出義務がない事業所でも、規定を作成して届け出ておくことが実務上求められます。

人への投資促進コース — デジタル・高度人材育成と自発的学習支援(令和8年度最終年度)

人への投資促進コースは、デジタル人材の育成・高度な専門人材の育成・労働者の自発的な学習支援・定額制研修(サブスクリプション型eラーニング)の導入などを対象とした手厚いコースです。令和8年度(2026年度)が最終年度となる見込みであり、早期の活用を検討する価値があります。

訓練の類型は大きく4つに分かれます。

高度デジタル人材訓練・成長分野等人材訓練は、AIやDX、クラウド、セキュリティ、データサイエンス等のデジタル分野の訓練が対象です。経費助成率75%(中小・大企業共通)、賃金助成1,000円/時間(中小・大企業共通)が適用されます。

自発的職業能力開発訓練は、従業員が自発的に行う訓練(会社業務に関連するもの)を会社が支援する場合の助成です。経費助成率は中小企業50%、大企業45%が目安です(要件詳細は公式確認)。

定額制訓練(サブスクリプション型)は、月額定額で利用できるオンライン研修サービスを導入した場合の助成です。たとえば1人月あたり5,000円のeラーニングサービスを20名分1年間契約した場合などが対象になります。2026年度改正で、標準学習時間が1時間以上から10時間以上に引き上げられました。また、eラーニング・通信制訓練の経費助成上限が中小企業30万円から15万円に引き下げられています。

長期教育訓練休暇制度は、1ヶ月以上の長期間にわたる有給休暇制度を就業規則に定め、取得実績が出た場合の助成です。

新規採用・職務代行助成は、長期の訓練休暇取得時の代替要員確保を支援するもので、2026年度改正で新設されました。新規採用した代替要員に対して最大67万5,000円、職務代行手当として支払額の75%(上限16万円)が助成されます。

事業展開等リスキリング支援コース — 事業転換・新分野進出に伴う再教育(令和8年度最終年度)

新しい事業を立ち上げる、業態を転換する、新しい分野に進出するといった「事業展開」に伴い、新たな知識・スキルを従業員に習得させる訓練が対象です。このコースも令和8年度(2026年度)が最終年度の見込みです。

経費助成率は中小企業75%、大企業60%と、雇用系助成金の中でも最高水準です。賃金助成は1人1時間あたり1,000円が目安です。年度あたりの上限額は1億円とされています。

2026年2月の改正で、「企業内の人事及び人材育成に関する計画に基づく訓練」が新たに助成対象に追加されました。また、2026年度改正で設備投資加算が新設されています。訓練に使用する設備・機器の購入費用の50%(中小企業のみ対象・上限150万円)が経費助成に追加されます。

分割支給申請が可能になった点も2026年度の改正ポイントです。長期にわたる訓練の場合、訓練が全部終わってから申請するのではなく、途中段階で申請・受給できるようになりました。資金繰りの面で実施しやすくなっています。

このコースが向いている事業主の例として、次のような場合が挙げられます。従来の製造業からDX支援事業に進出するため、社員にITエンジニアリングの研修を受けさせたい場合。飲食業からデリバリーEC事業に転換するため、デジタルマーケティングの研修を実施したい場合。建設業から太陽光設置事業に事業領域を広げるため、電気工事に関する資格取得研修を行いたい場合などです。

注意点として、「既存の業務に関連した研修」ではなく「新しい事業展開のための研修」であることが要件です。いつも受けているような定期研修はこのコースの対象にならないことがほとんどです。

助成率・助成額の詳細計算例

計算例1:ITベンチャー(中小企業)が人への投資促進コースでDX研修を実施

前提:従業員3名(正規雇用・IT業)に外部のDXリスキリング研修(2ヶ月・週2回・計40時間)を受講させる。受講料は3名合計で90万円。訓練中の賃金は時給換算2,000円で3名・40時間分。

経費助成:人への投資促進コース(高度デジタル人材訓練)の経費助成率は75%です。

90万円 × 75% = 67万5,000円

賃金助成:1人1時間あたり1,000円。

1,000円 × 40時間 × 3名 = 12万円

合計助成額:67万5,000円 + 12万円 = 79万5,000円

研修費用総額(受講料90万円 + 賃金2,000円×40時間×3名=24万円 = 114万円)に対して、79万5,000円が戻る計算です。実質負担は34万5,000円で、約70%を助成でまかなえる水準です。

計算例2:飲食業(中小企業)が人材育成支援コースでサービス研修を実施

前提:パート従業員5名(有期契約)に接客マナーとHACCP(食品衛生管理)の外部研修を受けさせる。研修は2日間・計12時間。受講料は5名合計30万円。訓練中の賃金は時給換算1,200円。

経費助成:有期契約労働者の人材育成支援コース、中小企業で経費助成率70%(令和8年4月8日以降の公式パンフレット掲載値。大企業は対象外)。

30万円 × 70% = 21万円

賃金助成:中小企業・有期契約の賃金助成は正規と同等の800円/時間が目安です。

800円 × 12時間 × 5名 = 4万8,000円

合計助成額:21万円 + 4万8,000円 = 25万8,000円

研修費用総額(受講料30万円 + 賃金1,200円×12時間×5名=7万2,000円 = 37万2,000円)に対して、25万8,000円が戻る計算です。

計算例3:介護事業所(中小企業)が事業展開等リスキリング支援コースで新サービス展開

前提:自立支援型リハビリサービスへの事業展開に伴い、介護スタッフ8名に運動機能回復支援の専門研修(外部・3日間・計24時間)を実施。受講料は8名合計120万円。

経費助成:事業展開等リスキリング支援コース、中小企業で経費助成率75%。

120万円 × 75% = 90万円

賃金助成:1人1時間あたり1,000円。

1,000円 × 24時間 × 8名 = 19万2,000円

合計助成額:90万円 + 19万2,000円 = 109万2,000円

受講料の75%が戻ってくることに加え、賃金助成も得られるため、非常に効果的に経費を回収できます。

計算例4:個人事業主(小規模・中小)が従業員1名に研修させるケース

前提:美容師の個人事業主。雇用保険に加入しているスタッフ1名に、外部の特殊技術研修(1日8時間・受講料8万円)を受けさせる。スタッフの時給換算1,300円。

個人事業主でも、雇用する従業員が雇用保険の被保険者であれば申請対象になります。

経費助成:人材育成支援コース(OFF-JT)中小企業45%。

8万円 × 45% = 3万6,000円

賃金助成:中小企業800円/時間。

800円 × 8時間 × 1名 = 6,400円

合計助成額:3万6,000円 + 6,400円 = 4万2,400円

規模が小さくても助成は出ます。ただし計画届・支給申請の書類作成・提出の手間が発生するため、費用対効果を考えながら活用を検討することをおすすめします。

受給要件の詳細

共通要件(全コース共通)

すべてのコースに共通する主な受給要件は以下の通りです(2026年6月27日時点。要件の詳細は必ず公式確認)。

事業主に関する要件として、まず雇用保険の適用事業所であり、雇用保険料を適切に納付していることが求められます。次に、職業能力開発推進者を選任していることが必要です。職業能力開発推進者とは、社内で人材育成の取り組みを推進するための担当者で、事業主自身でも従業員でも構いません。選任したことを書類で示せるようにしておく必要があります。そして、事業内職業能力開発計画を策定していることも要件です。これは「当社はどのように従業員の能力開発を進めるか」という計画書で、労働組合や従業員の意見を聞いたうえで作成し、従業員に周知することが求められます。

加えて、過去5年以内に雇用関係助成金の不正受給がないこと、暴力団との関係がないこと、労働基準法・最低賃金法等の重大な違反がないことも共通要件に含まれます。

対象労働者に関する要件として、訓練を受ける従業員が雇用保険の被保険者であることが必要です。また、訓練開始時点で雇用期間が2ヶ月以上の者(有期契約の場合は訓練後に一定期間雇用継続が見込まれること)が対象となります。

訓練に関する要件として、計画届が受理された後から訓練を開始すること(最重要)、訓練時間が原則10時間以上であること、訓練は所定労働時間内に実施すること(勤務時間外や休日の研修は賃金助成の対象にならない場合があります)が挙げられます。

対象となる経費と対象外となる経費

対象となる主な経費として、外部研修会社への受講料(申請事業主と密接な関係のない事業者へのもの)、テキスト代・教材費(研修に直接必要なもの)、外部講師謝金(部外の講師で、申請事業主と3親等以内の親族でないもの)、施設・設備借上費(訓練に使用するもの、申請事業主の親子会社・関連会社でないもの)が挙げられます。

対象外となる主な経費として、受講者の交通費・宿泊費・食費(訓練に付随する間接費用)、テキスト代以外の消耗品(ノート・文房具等)、パソコン・タブレット等の機器購入費(事業展開等リスキリング支援コースの設備投資加算対象のものを除く)、申請事業主と密接な関係にある者への支払い(親会社・子会社への施設費、親族への講師謝金等)、申請に関するコンサルティング費用・書類作成代行費が挙げられます。

なお、2024年11月以降、訓練経費の事業主負担に関する取り扱いが明確化されました。受講料を全額事業主が負担していない場合(費用の一部を受講者が負担している場合など)は支給要件を満たしません。

申請手順の詳細(全ステップ解説)

ステップ0:事前準備(計画届提出前に必ずやること)

まず、職業能力開発推進者を選任します。選任記録(職業能力開発推進者選任通知書等)は書面で残しておきます。次に、事業内職業能力開発計画を作成します。厚生労働省が「作成の手引き」を公開しているため、これを参考にひな形を作成して従業員に周知します(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/jigyounaikaihatukeikaku_2.html)。

続いて、受講させる研修がどのコースの対象になるかを確認します。外部研修会社のカリキュラムを見て、職務に関連した訓練かどうか、訓練時間数が要件を満たすかどうかを確認します。不明な場合は、事前に管轄の都道府県労働局に問い合わせると確実です。

ステップ1:計画届の提出(訓練開始1ヶ月前まで)

訓練実施計画届(様式第1号)に必要事項を記載し、添付書類とあわせて管轄の都道府県労働局に提出します。提出は窓口・郵送・電子申請のいずれかで行います。

提出後、労働局から受理の連絡がきます。受理確認が取れるまでは訓練を始めないでください。

計画届の主な記載事項は、事業主情報(名称・住所・雇用保険番号)、訓練の内容(コース名・訓練内容・訓練期間・実施場所)、対象者情報(氏名・雇用形態・雇用開始日)、経費の内訳(受講料・教材費等)です。

ステップ2:訓練の実施

計画届が受理されたら、計画通りに訓練を実施します。実施中は証拠書類を確実に保存します。

出席記録は日付・開始・終了時刻・受講者署名入りで作成します。受講料の領収書は、研修終了後ではなく実施中(または実施直後)に取得しておくと申請時にスムーズです。

注意点として、訓練を勤務時間外(就業規則上の所定労働時間外)に実施した場合、賃金助成の対象にならないことがあります。また、研修の内容が申請した訓練計画と大きく異なる場合も問題になるため、変更が生じた場合は事前に労働局に相談してください。

ステップ3:支給申請書の提出(訓練終了翌日から2ヶ月以内)

訓練が終了したら、翌日からカウントして2ヶ月以内に支給申請書(訓練様式第5号)を提出します。この期限は絶対です。

令和8年(2026年)5月14日以降の申請では、「受講料等の価格設定に関する疎明書(様式28号)」の添付が必須となっています。これは、研修会社が適正な価格で研修を提供していることを示す書類で、研修会社に依頼して取得します。

必要書類が揃っているか、提出前に必ずチェックリストで確認してください(後述のチェックリストを参照)。

ステップ4:審査・支給決定

都道府県労働局が書類を審査します。書類に不備や疑問点があると、追加書類の提出を求められます。不備なく提出できた場合でも、審査には一般的に3ヶ月から6ヶ月程度かかります。

支給決定後、指定口座に振り込まれます。支給決定通知書は必ず保管してください(後で照会が来ることもあります)。

業種・規模別の活用シーン

製造業(中小規模)

製造業でよく使われる訓練として、機械加工・溶接・板金加工等の技能研修、品質管理(ISO・QC検定)の外部講習、フォークリフト・クレーン等の資格取得講習、工場のDX化・設備の自動化に伴うIoT・プログラマブルロジックコントローラーの研修などがあります。

特にDX化・設備自動化に伴う新しい技術習得の研修は、事業展開等リスキリング支援コース(助成率75%)の対象になる可能性があります。既存事業の延長線ではなく新しい設備・技術への対応であれば検討の余地があります。

製造業で注意が必要な点として、工場内でのOJT(実際の機械を使って指導する形式)は、OFF-JTとは区別されます。賃金助成等の要件が異なるため、訓練形式を事前に確認することが重要です。

IT・デジタル業(中小規模)

IT業・デジタル業では人への投資促進コース(高度デジタル人材訓練)が非常に有効で、助成率75%が適用されます。

具体的に対象になりやすい訓練として、クラウド(AWS・Azure・GCP等)の資格取得研修、セキュリティ(IPA試験・CISSP等)の受験準備講座、AIエンジニアリング・データサイエンスの研修、プログラミング言語の外部研修、プロジェクトマネジメント(PMP・情報処理技術者試験等)の講座などが挙げられます。

定額制のeラーニングサービス(Udemy Business・LinkedIn Learningなど)を会社として導入している場合、定額制訓練として申請できる可能性があります。ただし、2026年度改正で標準学習時間が10時間以上に引き上げられたため、受講時間の管理・記録が重要です。

飲食・サービス業

飲食・サービス業では、調理師・製菓衛生師等の資格取得に向けた外部講習、衛生管理者・食品衛生責任者の講習、接客・コミュニケーション研修、キャッシャー・POS操作・決済端末の研修(業務直結のOFF-JT)などが対象になります。

パート・アルバイトを多く雇う飲食業では、有期契約労働者向けの経費助成率70%(人材育成支援コース・中小企業のみ。令和8年4月8日以降の公式パンフレット掲載値)が活用できます。さらに、パートを正社員に登用する前後に行う研修であれば、75%の助成率が適用されることもあります。

介護・医療・福祉

介護・医療・福祉業では、訪問介護員(ホームヘルパー)の資格取得研修、介護福祉士実務者研修・介護支援専門員の講座、認知症ケア専門士等の専門資格取得、リハビリ関連の外部研修などが対象になります。

特に新しい介護サービス(たとえば自立支援特化型サービス)への業態転換に伴う研修は、事業展開等リスキリング支援コースの活用を検討できます。

個人事業主・マイクロ法人

個人事業主でも、雇用する従業員が雇用保険の被保険者であれば申請できます。「うちは小さいから関係ない」ということはなく、従業員1名でも要件を満たせば申請の対象になります。

ただし、注意点があります。申請できるのは「雇用する労働者への訓練」に対してであり、事業主本人が自分の研修を受けた費用は助成の対象になりません。個人事業主が自分自身でスキルアップしたい場合は、別制度(教育訓練給付制度等)を検討することになります。

従業員が2ヶ月以上継続して雇用されており、週の所定労働時間が通常の労働者と同程度(おおむね正社員と同等の勤務形態)であることが対象条件の基本になります。パートを数時間だけ使うような雇用形態では対象にならない場合があります。

時限性の強調 — 「人への投資促進コース」「事業展開等リスキリング支援コース」は令和8年度末が実質期限

この2つのコースは、令和4年度(2022年度)から令和8年度(2026年度)までの期間限定で実施されてきた助成制度です。

令和8年度(2026年度)が最終年度の見込みであり、令和9年度(2027年4月)以降の継続は現時点で確定していません。もし継続されるとしても、助成率の引き下げや対象の絞り込みが行われる可能性があります。

実務上の期限として重要なのは、「令和8年度中に計画届を提出して、令和8年度中に訓練を実施すること」が確実な期限になるという点です。具体的には、令和9年(2027年)3月31日までに訓練を完了させる必要があります。支給申請期限(訓練終了から2ヶ月以内)を考えると、令和9年3月末までに訓練を完了させた場合、5月末が支給申請の最終期限になります。

訓練の規模が大きく時間がかかる場合は、早めに計画届を提出して令和8年度前半(2026年7月〜12月頃)には訓練を完了させる段取りが安全です。

これから新規事業への参入・事業転換・DX化推進のために研修を計画している事業主にとって、この2コースが使える期間は残り少なくなっています。

よくある誤解・失敗パターン

パターン1:計画届を出す前に研修を始めてしまった

最も多い失敗パターンです。「申請は後でもできる」と思って先に研修を実施してしまうと、その訓練は助成の対象外になります。計画届の受理前に開始した訓練は、いかなる事情があっても後から遡って対象にはなりません。

回避策として、研修の申し込みや日程確定と同時に、計画届の準備を始めることが重要です。外部研修会社のパンフレットを受け取った段階で、すぐに管轄の労働局に相談することをおすすめします。

パターン2:申請期限を1日でも過ぎてしまった

訓練終了翌日から2ヶ月以内という期限は絶対です。「書類が揃わなかった」「担当者が休んでいた」といった事情があっても、期限超過は受理されません。

回避策として、訓練終了日の翌日にカレンダーに「申請期限は2ヶ月後の〇〇日」とすぐに書き込み、期限の2週間前には書類を揃えて提出するというルールを設けることが有効です。

パターン3:勤務時間外・休日の研修に賃金助成を申請した

所定労働時間外(就業規則上の時間外)や休日に研修を実施した場合、賃金助成の対象にならないことがあります。「残業して受けた研修」「土曜日の休日研修」については、賃金助成が受けられない可能性があります。

回避策として、研修は所定労働時間内に実施するよう日程を組むことが基本です。どうしても時間外にしかできない場合は、事前に管轄の労働局に確認してください。

パターン4:対象外の経費を申請してしまった

交通費・宿泊費・食費を受講料に含めて申請してしまうケースです。領収書の内訳を確認せずに「研修費用合計」として申請すると、後から内訳の問い合わせを受けて訂正が必要になることがあります。

回避策として、外部研修会社から受け取る領収書・請求書には、受講料と交通費・宿泊費等が別建てで記載されているかを確認し、受講料のみを申請経費としてください。

パターン5:訓練時間の計算が間違っていた

「9時から17時の8時間研修」として申請したが、昼休みが1時間あり実際の訓練は7時間だったというケースです。賃金助成の計算で差異が生じ、後から修正を求められることがあります。

回避策として、研修プログラムから純粋な訓練時間(休憩時間を除く)を計算して申請してください。研修実施報告書や出席記録にも実際の開始・終了時刻と休憩時間を明記しておくことが重要です。

パターン6:悪質な助成金コンサルティングの勧誘

「助成金を必ず受け取れる」「うちに頼めば手続きすべておまかせ」という勧誘を受けるケースがあります。助成金の申請には要件があり、要件を満たさない申請は不支給になります。また、書類の作成代行は社会保険労務士の業務範囲です。コンサルタントを名乗る無資格者が書類を作成することは、社会保険労務士法上の問題が生じる可能性があります。

回避策として、申請代行を依頼する場合は社会保険労務士に依頼することが基本です。「100%受給できる」という謳い文句には注意が必要です。まず管轄の労働局や商工会議所で無料相談を活用することをおすすめします。

パターン7:申請事業主と密接な関係にある者への費用を申請した

親会社の研修施設を借りて行った研修の施設費を申請したケース、代表者の配偶者が経営する研修会社への受講料を申請したケースなどは、対象外経費として除外されます。

回避策として、訓練に使用する施設・機材・講師等が、申請事業主と資本関係・親族関係にない第三者であることを事前に確認してください。

不正受給と認定されるケースの具体例

不正受給と認定された場合、受給額の返還(さらに加算金として受給額の20%を上乗せ)、5年間の雇用関係助成金申請資格の剥奪、都道府県労働局ウェブサイトへの企業名・代表者名の公表、悪質な場合の詐欺罪による刑事告訴(最長10年の懲役刑の可能性)などが科されます。

実際に不正と認定されやすいケースとして、以下が挙げられます。

実際には行われていない訓練の書類を作成して申請したケース(架空訓練)。実際に支払った受講料より高い金額を申請書に記載したケース(水増し申請)。訓練実施計画届を受理させた後、実際の研修内容と全く異なる研修を実施したケース(内容虚偽)。研修会社と組んで、事業主が実際には費用を負担せずに助成金だけを受け取る不正スキーム(費用負担なし申請)。出席記録を偽造して、実際には参加していない従業員の分を申請したケース(出席記録偽造)。

社会保険労務士が不正受給に関与した場合、事業主と連帯して返還義務を負います。また、社会保険労務士の資格停止・取消しの懲戒処分の対象にもなります。

人材開発支援助成金で実際に約1億円の不正受給事案が発覚したケースも報告されており、厚生労働省は抑止力を強化するために調査を強化しています。

他の雇用関係助成金との組み合わせ方

キャリアアップ助成金との関係

キャリアアップ助成金は、有期契約労働者の正規雇用への転換・賃金引き上げ等を支援する助成金です。人材開発支援助成金と組み合わせることができる場合があります。

具体的な組み合わせパターンとして、まず有期契約のパート従業員に人材育成支援コースで研修を受けさせ(経費助成70%・中小企業の場合)、その後正社員に転換した際にキャリアアップ助成金(正社員化コース)を申請するという流れが可能です。正社員に転換後にさらに研修を受けさせた場合は75%の経費助成率が適用されます。

ただし、同一の訓練や同一の目的で二重に受給することはできません。それぞれの助成が別の制度・別の受給要件に基づいていることを確認してください。

トライアル雇用助成金との関係

トライアル雇用助成金は、就職が難しい求職者を試行雇用期間(3ヶ月間)雇用した場合に、1人あたり月4万円(障害者等は月8万円)が助成される制度です(No.85で詳しく解説します)。

組み合わせパターンとして、トライアル雇用で採用した従業員に対して、試用期間中または正式採用後に人材育成支援コースで研修を実施するという方法があります。採用コストの回収と人材育成コストの圧縮を同時に図れます。

ただし、トライアル雇用期間中の賃金に対して賃金助成を二重申請することはできません。それぞれの要件・対象期間・対象費用が異なるため、混同しないよう確認が必要です。

特定求職者雇用開発助成金との関係

特定求職者雇用開発助成金は、高齢者・障害者・母子家庭の母親等の特定の求職者をハローワーク等の紹介で雇い入れた場合に助成が出る制度です(No.83で詳しく解説します)。

組み合わせパターンとして、特定求職者雇用開発助成金を受給しながら雇い入れた従業員に対して、人材育成支援コースで研修を実施することも可能です。採用と育成の両面でコストを抑えられます。

組み合わせ時の一般的な注意点

複数の助成金を同時に活用する場合、「同一の雇用」「同一の費用」について二重に受給することは認められません。それぞれの助成金の支給対象・支給期間・支給要件が重複しないように整理することが重要です。

複数の助成金を組み合わせて活用する場合は、管轄の都道府県労働局またはハローワークに事前に相談して、問題がないかを確認することをおすすめします。

外部研修会社・研修サービスの選び方

助成対象になるための業者の条件

助成金の対象になる受講料を支払う相手として、申請事業主と密接な関係にない第三者の研修会社である必要があります。具体的に問題になるのは以下のケースです。申請事業主の代表者・従業員が代表を務める研修会社への受講料、申請事業主の親会社・子会社・関連会社が提供する研修、申請事業主と3親等以内の親族が代表の研修会社です。

これらに当てはまらない独立した研修会社への受講料であれば、助成対象になります。

訓練内容・カリキュラムの確認ポイント

研修会社を選ぶ際に、助成金の観点から確認すべき点があります。

まずカリキュラムの明確さです。訓練の目的・内容・時間数が明示されていることが必要です。「社員教育一式」のような曖昧な内容では、計画届の審査を通過しにくくなります。

次に、業務との関連性です。訓練は「職務に関連した知識・技能の習得」が目的のため、業務と全く無関係な趣味的な研修は対象外になります。

受講料の価格設定の妥当性も重要です。令和8年5月14日以降、受講料等の価格設定に関する疎明書の提出が必要になりました。研修会社が適正な価格で研修を提供していることを示す書類を、研修会社に発行してもらう必要があります。

訓練時間の記録が取れること、すなわち出席記録・受講時間の記録が確実に取れる研修であることが求められます。eラーニングの場合は、学習ログが管理できるシステムであることが必要です。

eラーニング・定額制サービスの選び方

定額制訓練(人への投資促進コース)を活用してeラーニングサービスを導入する場合、2026年度改正後の要件として、1人あたりの標準学習時間が10時間以上設定されているサービスであることが対象条件になります。

eラーニングサービスを選ぶ際の確認ポイントとして、学習ログ(誰がいつ何を何時間学習したか)を管理・出力できること、受講者ごとの修了証明が発行できること、業務関連の科目が含まれていること、価格設定疎明書の発行に対応していることが挙げられます。

よく活用されているeラーニングサービスの例として(助成金対象になるかどうかは個別に確認が必要)、Udemy Business、LinkedIn Learning(日本語対応)、ドコモビジネス オンライン研修、日経BP Biz アカデミー、eラーニングを提供する専門機関の研修などがあります。

申請後の審査プロセスと追加書類対応

審査で問い合わせが来たときの対応方法

支給申請書を提出した後、都道府県労働局から追加書類の提出や説明を求める問い合わせが来ることがあります。主なケースと対応方法を整理します。

訓練内容の確認として、計画届で申請した訓練内容と実際に実施した研修の内容が一致しているかどうかを確認するケースがあります。この場合は、研修会社が発行した終了証明書や研修報告書と、計画届の内容を照合した説明資料を提出します。

出席時間の確認として、賃金助成の対象となる訓練時間数について問い合わせが来ることがあります。出席記録のコピーと、タイムカードや業務日報等の勤怠記録を合わせて提出します。

受講料の内訳確認として、対象経費となる受講料と対象外費用(交通費・食費等)が明確に区別されているかどうかを確認するケースがあります。研修会社から内訳明細書を取得して提出します。

問い合わせには迅速に対応することが重要です。応答が遅れると審査期間が延長されます。問い合わせの内容が複雑な場合は、管轄の労働局の担当者に直接電話で相談することをおすすめします。

申請に必要な主な書類の正式名称・取得先・期限

計画届提出時の主な書類

訓練実施計画届(様式第1号):厚生労働省ウェブサイトの様式ダウンロードページから取得します(または雇用関係助成金ポータルで入力)。提出期限は訓練開始の1ヶ月前まで(6ヶ月前から受付)。

訓練カリキュラム(使用するテキスト等のリストを含む):研修会社に依頼して取得します。

職業能力開発推進者の選任に関する書類:自社で作成します(様式は特定のものでなくてもよい場合もありますが、氏名・役職・選任日が明記されたものを準備)。

事業内職業能力開発計画:自社で策定したものを提出します(様式・分量は問われませんが、訓練の方向性が示されていることが必要)。

雇用保険適用事業所設置届(写し)または労働保険料申告書(写し):事業所が雇用保険適用事業所であることを示す書類。ハローワークまたは労働局から交付されたものを保管しておきます。

訓練実施機関(研修会社)の情報:会社名・住所・担当者名・電話番号、研修内容の概要(カタログ・案内書等)を用意します。

支給申請時の主な書類

支給申請書(訓練様式第5号):厚生労働省ウェブサイトのダウンロードページまたは雇用関係助成金ポータルから取得します。

訓練実施報告書(訓練様式第6号):同上から取得して記載します。

受講者ごとの出席記録(氏名・日付・開始・終了時刻の記録):研修実施中に作成したものを提出します。

受講料の領収書または請求書(内訳が明確なもの):研修会社から取得します(受講料と交通費等が区別されているものが望ましい)。

賃金台帳(訓練期間中の賃金支払い実績が確認できるもの):自社で管理する賃金台帳(給与明細との整合性がとれているもの)を提出します。

タイムカード等の勤怠記録:訓練期間中の労働時間を示すものを提出します。

訓練終了証明書(研修会社が発行するもの):研修会社に依頼して取得します。

受講料等の価格設定に関する疎明書(様式28号):令和8年5月14日以降の申請で必須。研修会社に発行を依頼します。

窓口・相談先の探し方

都道府県労働局

人材開発支援助成金の申請窓口は、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局(職業対策課または訓練課)です。都道府県によって担当課の名称が異なる場合があります。

厚生労働省のウェブサイトから都道府県労働局の一覧と連絡先を確認できます(https://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/shozaiannai/roudoukyoku/)。事前に電話で相談すると、必要書類の確認や計画届の書き方の案内を受けることができます。

ハローワーク

一部の手続きや初期相談はハローワークでも対応しています。近くのハローワークに問い合わせて、どの手続きをハローワーク経由で行うかを確認してください。

商工会議所・商工会

商工会議所や商工会では、中小企業向けに助成金の相談窓口を設けていることがあります。無料で相談できる場合が多く、計画届の書き方の相談にも応じてくれることがあります。

社会保険労務士

申請書類の作成代行・手続きの代行は社会保険労務士の業務範囲です。書類が複雑で自力では難しい場合、または初めて申請する場合は、社会保険労務士に依頼することを検討してください。都道府県社会保険労務士会のウェブサイトから、地域の社会保険労務士を検索できます。

計算例の補足 — 具体的なシミュレーション集

従業員数と研修規模別のシミュレーション

ここでは、典型的な事業規模・研修パターンごとに計算例を積み上げて示します。いずれも制度理解のための参考試算であり、実際の助成額は要件・申請内容の審査によって変動します。

研修費10万円・1人参加のケース(人材育成支援コース・中小企業・正規雇用者):

経費助成 = 10万円 × 45% = 4万5,000円。1日8時間の場合の賃金助成 = 800円 × 8時間 × 1名 = 6,400円。合計助成 ≒ 5万1,400円。費用総額を10万円+研修日の賃金(時給換算1,500円×8時間=1万2,000円)= 11万2,000円とすると、助成率換算で約46%が戻る計算です。

研修費50万円・5人参加のケース(人材育成支援コース・中小企業・正規雇用者・2日16時間):

経費助成 = 50万円 × 45% = 22万5,000円。賃金助成 = 800円 × 16時間 × 5名 = 6万4,000円。合計助成 = 28万9,000円。

研修費200万円・20人参加のケース(人への投資促進コース・高度デジタル・中小企業・40時間):

経費助成 = 200万円 × 75% = 150万円。賃金助成 = 1,000円 × 40時間 × 20名 = 80万円。合計助成 = 230万円。費用総額(受講料200万円+賃金時給換算2,000円×40時間×20名=160万円=合計360万円)に対して、助成合計230万円で実質負担は130万円、約64%が回収できる計算です。

有期契約3名に研修費30万円のケース(人材育成支援コース・中小企業・有期契約・12時間):

経費助成 = 30万円 × 70% = 21万円(有期契約労働者への中小企業適用率。令和8年4月8日以降の公式パンフレット掲載値)。賃金助成 = 800円 × 12時間 × 3名 = 2万8,800円。合計助成 = 23万8,800円。

有期→正規転換後に研修費20万円・2名のケース(人材育成支援コース・中小企業・転換後75%・8時間):

経費助成 = 20万円 × 75% = 15万円。賃金助成 = 800円 × 8時間 × 2名 = 1万2,800円。合計助成 = 16万2,800円。転換後の従業員に研修を受けさせると高い助成率が適用されます。

年間複数回申請した場合のトータル試算

人材開発支援助成金は年間を通じて複数回申請することも可能です(年度あたり上限額の範囲内で)。

たとえば、従業員20名の中小企業が年間4回の外部研修を実施したとします。1回あたりの受講料が参加者5名×10万円=50万円で、4回実施すると年間の受講料合計は200万円になります。人材育成支援コース・正規雇用・中小45%で計算すると、経費助成合計は200万円×45%=90万円。賃金助成を各回8時間・800円/時間・5名として計算すると1万6,000円×4回=6万4,000円。年間合計助成額は96万4,000円です。

100万円に近い助成金を継続的に受け取れるという見通しは、研修計画を年間で立てるための動機づけになります。ただし、計画届の提出から支給申請まで各回で書類管理が必要になるため、管理体制を整えた上で取り組むことをおすすめします。

賃上げ加算を組み合わせた場合の試算

人材育成支援コースには、「賃金アップ加算」が設定されています(確認日2026年6月27日時点)。賃上げを行った場合に経費助成率に+15%が加算され、中小企業で合計60%(正規雇用)になります。賃金助成にも+200円が加算され、中小企業で1,000円/時間になります。

たとえば、賃上げ実施済みの中小企業が正規雇用者5名に受講料合計60万円の研修を受けさせた場合(16時間):

経費助成 = 60万円 × 60% = 36万円(通常45%→賃上げ加算後60%)。賃金助成 = 1,000円 × 16時間 × 5名 = 8万円(通常800円→加算後1,000円)。合計助成 = 44万円。通常(賃上げなし)の場合の合計助成は27万円+6万4,000円=33万4,000円だったのに対して、賃上げ加算後は44万円と10万6,000円も多くなります。賃上げを検討している事業主にとって、人材開発支援助成金との組み合わせは実務上の優先度が高い選択肢です。

研修会社・訓練実施機関との実務上の付き合い方

計画届提出前に研修会社と確認すべき事項

助成金申請を前提に研修を発注する場合、研修会社との間で事前に確認しておくべき事項があります。

まず、受講料等の価格設定に関する疎明書(様式28号)の発行が可能かどうかを確認します。令和8年5月14日以降の申請では必須となっているため、対応していない研修会社に発注してしまうと後から困ることになります。

次に、カリキュラムが書面で提供されるかどうかを確認します。計画届・支給申請書には訓練の内容・時間数を記載する必要があるため、研修会社からカリキュラム(訓練の目的・内容・スケジュール・時間数が明記されたもの)を取得することが必要です。

また、出席記録・訓練終了証明の発行が可能かどうかも確認します。研修会社によっては出席確認が簡素な場合があります。助成金申請には受講者ごとの出席記録が必要なため、開始・終了時刻が記載された形式のものを用意してもらえるか事前に確認してください。

受講料の領収書・請求書の内訳として、受講料とその他費用(テキスト代・交通費等)が区別して記載されているかどうかも重要です。合算で請求される場合は、内訳の明細書を別途依頼することをおすすめします。

eラーニング・オンライン研修業者を選ぶ際の追加ポイント

オンライン研修(eラーニング)を利用する場合、以下の追加ポイントも確認が必要です。

学習ログの管理機能として、誰がいつどのコンテンツを何時間学習したかのログを管理画面から出力できるかどうかを確認します。受講時間は訓練時間の根拠となるため、ログ出力機能がないサービスは助成申請に使えない可能性があります。

定額制サービス(サブスクリプション型)の場合、2026年度改正後の要件として1人あたり10時間以上の標準学習時間が設定されているサービスであることが必要です。短時間のコンテンツのみのサービスでは要件を満たせない場合があります。

eラーニング経費上限(事業展開等リスキリング支援コースの場合)は、2026年度改正で中小企業30万円から15万円に引き下げられています。年間契約費用が高額な場合でも、助成の対象になる上限は15万円(中小)であることを把握した上で費用対効果を判断してください。

訓練の実施記録で失敗しないための実務メモ

訓練実施中の記録管理は、支給申請の審査で最も厳しく見られる部分です。

日次の記録として、研修当日に受講者全員から署名をもらった「出席記録」を作成します。日付・開始時刻・終了時刻・休憩時間・受講者氏名・署名の6項目が含まれているものが望ましいです。

賃金台帳との整合として、訓練中に支払った賃金が賃金台帳に正確に反映されていることを確認します。訓練日に欠勤・遅刻があった場合は、その時間分を差し引いた実際の訓練参加時間を記録します。

領収書の管理として、受講料の支払い日・金額・内訳が確認できる領収書や振込明細を保管します。クレジットカード払いの場合は、領収書と請求明細の両方を保管することをおすすめします。

2026年度に向けた活用タイムライン

今すぐ動くべき事業主のための3ヶ月行動計画

人への投資促進コース・事業展開等リスキリング支援コースの両コースは令和8年度(2026年度)が最終年度の見込みです。2026年6月時点から逆算したスケジュールを示します。

2026年7月:コースの選定と研修会社の選定を行います。自社の状況(新規事業への進出の有無・DX化のニーズ・従業員の雇用形態)を整理して、どのコースが自社に合うかを判断します。研修会社との事前打ち合わせも始めます。

2026年8月:職業能力開発推進者の選任と事業内職業能力開発計画の策定を完了させます。これらがないと計画届を提出できません。社内の担当者を決めて書類を整備します。

2026年9月:計画届を管轄の都道府県労働局に提出します。訓練開始の1ヶ月前までが提出期限のため、10月以降に訓練開始を予定している場合は遅くとも9月末が提出期限になります。

2026年10月〜12月:計画届が受理されてから訓練を実施します。この期間に実施した訓練の支給申請期限は、最短で2026年12月末〜2027年2月末になります。

2026年11月〜2027年3月:支給申請を提出します。令和8年度(2026年度)内に実施した訓練については、訓練終了から2ヶ月以内に申請することが条件です。

2027年3月31日:令和8年度の終了日。この日までに訓練を完了させた場合、支給申請期限は2027年5月末になります。

「急いで使う」より「確実に要件を満たす」が優先

締め切りが近づいているため焦りが生じやすいですが、要件を満たさない申請は不支給になります。計画届を提出する前に、自社の要件確認と書類整備を確実に行うことが優先です。

特に以下の点の確認を怠らないようにしてください。雇用保険の適用事業所であるかどうか(事業所を新規立ち上げした場合など)、職業能力開発推進者の選任が実際に行われているかどうか、対象となる従業員が雇用保険の被保険者であるかどうか、そして利用しようとしているコースが自社の研修内容に合致しているかどうかです。

不明点がある場合は、管轄の都道府県労働局に事前相談することをおすすめします。多くの労働局では、計画届提出前の事前相談を受け付けており、無料で利用できます。

申請チェックリスト

事前準備チェックリスト

計画届チェックリスト(訓練開始1ヶ月前までに提出)

訓練実施中チェックリスト

支給申請チェックリスト(訓練終了翌日から2ヶ月以内)

制度の歴史的背景と近年の変遷

人材開発支援助成金はどのように変わってきたか

人材開発支援助成金は、長年にわたって名称や構造が変化してきた制度です。以前は「職業能力開発促進助成金」の名称で知られており、複数の個別制度が統合・整理された経緯があります。

2018年(平成30年)の大幅改正で、現在の「人材開発支援助成金」という名称になり、特定訓練コース・一般訓練コース・教育訓練休暇付与コース・特別育成訓練コース等が整備されました。

2022年(令和4年)から「人への投資促進コース」「事業展開等リスキリング支援コース」の2コースが期間限定で追加されました。これはデジタル化の加速・リスキリング政策の強化という背景があり、DX関連・高度デジタル人材育成を手厚く支援することを目的にしています。

2024年(令和6年)以降、不正受給の増加に対応するため、受講料等の価格設定の妥当性確認や、申請事業主と研修会社との密接な関係チェックが強化されました。2026年5月には受講料等の価格設定に関する疎明書の提出が必須化され、制度の適正化が進んでいます。

このような変遷を踏まえると、人への投資促進コース・事業展開等リスキリング支援コースは政策的な重点期間の終了に伴い令和8年度末に一区切りを迎える一方で、人材育成支援コースは恒久的な基本制度として今後も継続される見通しです。

リスキリング政策の文脈で理解する

政府全体として「リスキリング(学び直し)」を社会的に推進する方針が打ち出されており、人材開発支援助成金はその中心的な施策の一つとして位置づけられています。

岸田内閣時代から引き継がれた「三位一体の労働市場改革」の文脈でも、在職者のリスキリング支援は重要なテーマです。企業が従業員にスキルアップの機会を与えることで、日本全体の労働生産性向上につなげることを狙いとしています。

このような政策的背景から、人への投資促進コース・事業展開等リスキリング支援コースは財政的に手厚い支援(75%という高い助成率)になっています。令和8年度以降の方針は今後の政策決定次第ですが、何らかの形でリスキリング支援が継続される可能性は十分にあります。

制度利用に向けた組織内準備の詳細

職業能力開発推進者とは何か — 実務上の選任方法

職業能力開発推進者は、従業員の職業能力開発を計画的に推進するための社内担当者です。職業能力開発促進法に基づく制度で、100名以上の常時雇用する従業員を持つ事業所では選任の努力義務があります。

実務上、誰を選任すればよいかというと、従業員の教育・研修を担当する人事担当者や管理職が最も適切です。個人事業主・小規模事業所では、事業主本人が推進者を兼任することもできます。

選任の手続きは、選任事実を書面で記録することが基本です。必須フォーマットは特定されていませんが、氏名・役職・選任日が明記された書面を作成し、労使の確認を取った上で保管します。

推進者が担う主な役割として、事業内職業能力開発計画の立案・策定、従業員への能力開発機会の提供・調整、訓練の計画と記録の管理、関係機関(労働局・ハローワーク等)との連絡窓口があります。

事業内職業能力開発計画の書き方

事業内職業能力開発計画は、「当社がどのように従業員の能力開発を進めるか」を示す計画書です。法律上の必須事項として、職業能力開発の基本的な方針、体系的な職業訓練の実施計画、訓練インストラクター・外部講師の活用方針、職業能力評価の方法、従業員への情報提供方法を盛り込むことが求められます。

厚生労働省が「作成の手引き」と記載例を公開しています(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/jigyounaikaihatukeikaku_2.html)。記載例に沿って自社の状況に合わせた内容を作成することが最短ルートです。

分量は厳密に規定されていませんが、A4サイズ1〜3ページ程度の簡潔なものでも問題ありません。大切なのは内容の実効性であり、実際に従業員に周知されていることです。周知方法として、イントラネットへの掲示、社内掲示板への掲示、全体会議での説明などが挙げられます。

雇用保険の適用事業所確認と注意点

人材開発支援助成金の申請にあたって、雇用保険の適用事業所であることが基本条件です。

個人事業主で従業員を雇い始めたばかりの場合、雇用保険の適用事業所設置の届出を完了しているかどうかを確認する必要があります。従業員を1人でも雇用した日から10日以内に、管轄のハローワークに「雇用保険適用事業所設置届」を提出する義務があります。

また、雇用した従業員が雇用保険の被保険者として加入しているかどうかも確認が必要です。週20時間以上・31日以上の継続雇用見込みがある場合は、原則として雇用保険の加入義務があります。

雇用保険料の納付に滞納がある場合は助成金の申請資格を失う要件になるため、申請前に確認しておいてください。滞納がある場合は、申請前に解消する必要があります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 事業主本人(社長・個人事業主自身)が研修を受けた費用は助成されますか。

助成の対象は「雇用する労働者への訓練」です。事業主本人が自分自身のスキルアップのために研修を受けた費用は、人材開発支援助成金の対象になりません。事業主自身が学びたい場合は、教育訓練給付制度(雇用保険の被保険者が個人として受ける給付)など別制度を検討してください。

Q2. 社内の先輩従業員が後輩に教えるOJTは助成対象になりますか。

単純な社内OJT(先輩が後輩を教える形式)はOFF-JTではないため、通常の人材育成支援コースのOFF-JT助成の対象にはなりません。ただし、都道府県知事が認定した認定実習併用職業訓練(OJT+OFF-JTを組み合わせた認定訓練)の場合は対象になります。詳しくは管轄の労働局にご相談ください。

Q3. 研修は社外で行う必要がありますか。自社内でセミナーを開くのは対象になりますか。

必ずしも社外でなくてもOFF-JTとして認められる場合があります。部外の講師を招いて社内で研修を実施した場合も、講師謝金が対象経費になる可能性があります。ただし、社内の従業員が講師の場合は対象になりません。

Q4. 助成金の支給額は申請した金額が全額出るのですか。

申請した金額が必ず全額支給されるとは限りません。書類の審査の結果、対象外経費が含まれていると判断された場合は減額されることがあります。また、要件を満たさないと判断された部分は支給されません。申請書通りに受け取れることを前提にした資金繰りは危険です。

Q5. 助成金の申請中に従業員が退職した場合はどうなりますか。

原則として、訓練を実施した後に従業員が退職しても、訓練実施当時の要件を満たしていれば支給申請はできます。ただし、コースや要件によっては一定期間の雇用継続が支給条件になる場合があります。具体的な状況については管轄の労働局に相談してください。

Q6. 助成金を受け取った後に、関係書類はどのくらい保存しておく必要がありますか。

支給決定を受けた後も、関係書類を5年間保存することが求められます(不正受給の確認調査は支給決定から5年以内に行われる場合があります)。出席記録・賃金台帳・領収書・申請書の写し等は5年間保管してください。

Q7. eラーニングや通信教育でも申請できますか。

オンライン(eラーニング)や通信教育による訓練も助成対象になります。ただし、学習ログの管理・受講時間の確認・修了証明等の記録が取れることが条件です。2026年度改正で、定額制訓練の標準学習時間要件が10時間以上に引き上げられています。

Q8. 建設業でない事業主でも建設コースは使えますか。

建設労働者認定訓練コースと建設労働者技能実習コースは、建設業に限定されたコースです。建設業以外の事業主は対象になりません。

Q9. キャリアアップ助成金と人材開発支援助成金は同じ従業員について同時に申請できますか。

一般的に、異なる目的・異なる費用に対する助成金は、同じ従業員についても重複受給でなければ申請できます。ただし、具体的な組み合わせが問題ないかどうかは、管轄の労働局に事前確認することをおすすめします。

Q10. 助成金の申請を社会保険労務士に依頼した場合、費用はどのくらいかかりますか。

社会保険労務士への依頼費用は、事業所の規模・申請するコース・書類の複雑さによって大きく異なります。一般的に、計画届から支給申請まで一括で依頼した場合、受給額の10〜20%程度を報酬とするケースが多いとされていますが、事前に個別見積もりを確認してください。

Q11. 令和9年度以降も人への投資促進コースや事業展開等リスキリング支援コースは使えますか。

2026年6月27日時点の情報では、この2コースは令和8年度(2026年度)が最終年度の見込みとされています。令和9年度(2027年4月)以降の継続・変更については、厚生労働省の公式発表をご確認ください。令和8年度内に計画届を提出・訓練を実施・支給申請を完了させることが、確実に活用できる実務的な期限になります。

Q12. 計画届を提出した後に、研修内容や日程を変更できますか。

軽微な変更(日程の数日以内のずれ・受講者の一部変更等)であれば、変更届を提出することで対応できる場合があります。ただし、訓練の内容が大きく変わる場合や受講者が大幅に変わる場合は、事前に管轄の労働局に相談してください。無断で変更すると、支給申請時に問題になることがあります。

Q13. 初めて助成金を申請します。どこに相談すればよいですか。

まず管轄の都道府県労働局(職業対策課または訓練課)に電話で問い合わせることをおすすめします。事前相談で必要書類の説明と計画届の書き方のアドバイスを無料で受けられます。商工会議所・商工会でも無料相談窓口が設けられていることがあります。書類作成の代行や申請の管理を依頼したい場合は、社会保険労務士にご相談ください。

Q14. 同一年度中に複数のコースを使い分けることはできますか。

同一の事業主が複数のコースを利用することは可能です。たとえば、通常の外部研修は人材育成支援コースで申請し、新規事業に伴う研修は事業展開等リスキリング支援コースで申請するという使い分けができます。ただし、同一の訓練・同一の費用について複数のコースで重複申請することはできません。複数コースを利用する場合は、各コースの要件を個別に満たしていることを確認し、管轄の労働局に事前相談することをおすすめします。

Q15. 助成金を申請することで、会社の業績や経営状況が国に把握されますか。

人材開発支援助成金の申請において、雇用保険の適用事業所情報・従業員数・訓練内容・費用等を申告する必要があります。これらは審査・支給に必要な情報として利用されます。ただし、申請情報が第三者に開示されたり、税務調査に直接連携されたりするものではありません。なお、助成金を受給した場合、受給額は収入として課税対象になることがあります(税務処理については税理士にご確認ください)。

出典一覧(URL・確認日)

本記事は以下の公式一次情報を確認した上で執筆しています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html

確認日:2026年6月27日

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1_00011.html

確認日:2026年6月27日

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/shokugyounouryoku/training_employer/index.html

確認日:2026年6月27日

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/jigyounaikaihatukeikaku.html

確認日:2026年6月27日

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/jigyounaikaihatukeikaku_2.html

確認日:2026年6月27日

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index_00061.html

確認日:2026年6月27日

https://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/shozaiannai/roudoukyoku/

確認日:2026年6月27日

免責事項

本記事は情報提供を目的としており、個別の申請代行・書類作成代行・法律的助言を行うものではありません。申請書類の作成代行・個別の手続き代行は社会保険労務士の業務範囲です。

制度の金額・要件・期限はいずれも変更されることがあるため、申請前に必ず厚生労働省の公式サイトおよび管轄の都道府県労働局・ハローワークで最新情報をご確認ください。

助成金の採択・支給は要件審査を経て行われるものであり、要件を満たした全員が必ず受給できることを保証するものではありません。

本記事の情報は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・法律・投資・医療の助言には当たりません。